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第16話 面会

「由紀さまに会いに行かれますか?」


須藤さんが祖父の許可が出たことを教えてくれたので、車椅子を用意してもらい会いに行くことにした。


「今日のところは5分だけだそうです。」


母の病室に向かう途中で須藤さんにそう告げられた。


「母はそんなに具合悪いの?」


「私も状態は聞き及んでいませんので何とも言えないです。」


「そうなんだ。」


5分だけだと何を話せるだろう。

須藤さんと一緒だと話せることも限られるだろうし、そもそも母は普通に話せる状態なのだろうか。

あれこれ考えているうちに特別室の前まで来てしまった。

須藤さんがノックすると、中から「どうぞ」と声がかかる。士郎の声のようだ。


「由紀さんは言語障害が少し出てますので、あまりお話しすることができません。脳への負担を軽くするため短い時間で申し訳ないです。」


部屋に入ると、士郎からそんな説明があったわ。

見ると、母の頭も真紀(ワタシ)と同じような開頭手術をしたとみられる跡がある。

どうして母がこんなことになってるのだろう。

上体を少し起こしてベッドに横たわる母の姿が弱々しく、快活で聡明なところがほとんど感じられない。

真紀(ワタシ)を見る母の目が以前より虚ろになっているのも気になる。


「お母さん…ごめんね、心配かけちゃったよね…。」


母への申し訳なさから思わず謝罪の言葉が口をついて出る。

言ってしまった後に、美紀っぽくなかったかもしれないと思ったがもう遅い。

気付くと母の目から涙が溢れている。

娘二人がこんなことになってしまって本当にごめんなさいだよ。

真紀(ワタシ)のカラダは相変わらず集中治療室から出られないみたいだけど、美紀のカラダの真紀(ワタシ)だけでも取り敢えず無事な姿を見せることができてよかった。

母が真紀(ワタシ)の方に震える手を伸ばしてくるので、須藤さんに車椅子を近づけてもらいその手を包むように握る。


「安心して、ワタシは元気だから。まだちょっと不自由だけど、リハビリも順調だし、すぐ前みたいに自由に動き回れるようになるわ。」


「…真紀…」


弱くて小さいけど確かにそう聞こえる言葉が母の口から洩れた。


「由紀さま。こちらは美紀さんですよ。」


須藤さんが訂正してくれるが、母はもう一度弱弱しい声を発する。


「…わたしの…真紀…」


どういうことかしら。

母が真紀(ワタシ)と美紀を間違えるなんてあるかしら。

母は真紀(ワタシ)が物心ついてから真紀(ワタシ)と美紀を間違えたことなんて一度たりともなかった。

子供の頃から、わざと美紀と服を入れ替えたり、わざとらしい口癖を印象付けて美紀に言わせたり、何をやっても正確に言い当てられた。

そんな母が真紀(ワタシ)たちを間違えるなんてあり得ない。

逆に言えば、真紀(ワタシ)と美紀を間違えるほど弱ってるということなのかしら。


「混乱されているようなので、今日はここまでとさせてください。」


士郎が点滴に精神安定剤でも注入したのか母の意識が遠ざかっていく。

しかしそれでも三度口を突いて出る言葉があった。


「…ごめんね…真紀…。」


母の閉じた瞼から筋となって涙がこぼれ落ちる。

美紀のカラダの真紀(ワタシ)を見て確かに「真紀」と言った。三回も。

間違いを指摘されて意固地になったということでもない。

弱弱しい中にも明確な意志が感じられた。

どういうことかしら。

母は美紀の中の真紀(ワタシ)を感じ取った?

そうじゃないとしたら?

美紀の姿を見て「美紀」と言えないなんて本当にお母さんとは思えない失態だ。

それに最後に母はなんて言ったかしら?

「ごめんね」って、なんで「母」が「真紀(ワタシ)」に謝るの?


心当たりがなさ過ぎるんだけど。


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