第15話 カラダの記憶
次の日、真紀はようやく普通の食事にありつけるようになったわ。
意識を取り戻してから二日後には点滴による栄養補給から流動食に切り替わってたけど、カラダがうまく動かせてなかったから嚥下能力、食べ物とかを飲み込む力のことね、それも弱ってるっていうかうまくできないかもってことでしばらく様子を見てたってわけ。
消化器とかの手術をしたわけじゃないからそこまで心配はしてなかったけど、真紀にしてみれば美紀のカラダを間借りしているというか借用しているわけで初めてのう〇ちが出た時は一安心だったわ。
美紀のカラダから出たう〇ちをしげしげと見ちゃったわよ。
真紀のよりちょっと太かった気がするわ。
って、そんなことはどうでもいいわ。
普通の食事をするようになって気づいたんだけど、味覚もやっぱりちょっと違うみたい。
病院食で出してる牛乳を事故前に何度か飲んだことあったんだけど、美紀の舌での感じ方がどうも違うのよね。
なんて言ったらいいのかよく判んないけど、あんまり美味しくないというか苦手意識を感じるようなそんな感じ。
真紀自体は牛乳が苦手なんてことは全然なくて、癖ツヨな方が好きなくらいなのよ。
美紀は嫌いってことはなかったと思うけど、それも学校給食で一応普通に飲んでたのを見てたからそう思ってるだけで、成人してからの嗜好についてはほぼ知らないわ。
もしかして、こういうのがカラダの記憶っていうものなのかしら。
視覚と聴覚にはそれほど違和感はないんだけど、嗅覚にも少し味覚に通じるところがあるのよね。
五感には触覚が残っているけど、これが一番の問題かもしれないわね。
須藤さんには悪いけど、リハビリの時に触られるのがちょっと苦手どころか苦痛に感じるぐらいなのよね。
この度合いがカラダが自由に動かせるようになるほど、っていうか真紀の感覚がカラダに馴染むほど強くなってるのよ。
味覚や嗅覚みたいにそれがカラダの記憶だとすると、美紀は他人に触られるのが苦手だったみたいなことになるのかしら。
あれだけ奔放に真紀の彼氏(候補)とあんなことやこんなことをしておきながら実は触られたくないってどんな神経してるのかしら。まったく。
いずれにしても真紀の意識と美紀のカラダとの同調性が合わないと違和感があるのは間違いないのよ。
特に触覚の場合、意識外から触られた時にビクッって過剰に反応しちゃったりするから嫌な人に触られた感を丸出ししてるみたいで申し訳ないというかなんというか。
これで美紀のカラダにすっかり馴染めたとして、真紀のカラダに戻れたとしたらまた同じような感覚に悩まされることになるのかしら。
そうしたら美紀のカラダに馴染むのもちょっと考えものね。
そんでもってこのSFとかにありそうな状況っていつまで続くのかしら。
そういう作品にありがちな展開だと、もう一度同じ状況を再現しないと戻らないってのがよくあるんだけど、もう一回美紀と自殺未遂するなんて絶対にしたくないわね。
気が付いたら元に戻ってたっていうのが一番いいんだけど。
あ、でもそうしたらどんな状況かは知らないけど、集中治療室の真紀のカラダでちゃんと目覚められるのかしら。
逆に、目覚めない方が痛みとか感じなくて済むんだったらそっちの方がいいかも。
最悪は、目覚めないけど痛みは認識できちゃう状況ね。
それは最早拷問よね。それだけは勘弁してほしいわ。
とりあえず真紀のカラダの美紀と早く会いたいわね。
話せれば何か進展するかもしれないもの。




