第12話 リハビリ
昼頃になって士郎が病室に来たわ。
真紀は相変わらず声もうまく出せないし、カラダも上手く動かせない。
士郎はそんな真紀の様子を確認すると一度部屋を出ていき、女性医療スタッフを連れて戻ってきた。確か理学療法士の須藤さんだ。
理学療法士っていうのは、怪我や病気で身体に障害を負ったり、障害の発生が予測される患者さんに基本動作能力や運動機能の回復や維持、障害の予防を目的に運動療法や物理療法を用いて、自立した日常生活が送れるように支援するリハビリ専門職のことだ。
似たような専門職に作業療法士っていうのがあるんだけど、こっちは体の運動機能や認知機能、精神面に困難がある患者さんをサポートして、日常生活・社会生活に復帰できるようリハビリを行う役割を持ってるのよ。
ちなみに理学療法士は英語でPhysical Therapist、作業療法士はOccupational Therapistだから医療現場ではそれぞれ略してPT、OTって呼ばれることが多いのよ。
「美紀さん。私と一緒に頑張りましょうね。」
ベッドの上でカラダのあちこちを動かしてくれるが、自分のカラダじゃないように重くてされるがままにしかならない。
このカラダが美紀の身体であるなら文字通りに真紀のカラダじゃないんだけどね。
若い男女が入れ替わる話の中だと普通にお互いの身体を動かしてるけど、今の状況を考えるととてもそんな簡単にできるとは思えないわね。
双子のワタシ達でさえこんななのに、男女の性別の違い、体格・骨格の違いとか何の違和感もなく生活できるなんてあり得ないでしょ。
あ、でも男性のカラダになったら立ちションは是非とも体験してみたいわね。
お母さんに何度言われても家のトイレで座って用を足さないお父さんにどうしてそこまで頑ななのか聞いてみた時に「これは男の特権で尊厳だ」なんて言ってたから。
なんてあほなことを考えてるうちに須藤さんは部屋を出て行った。
明日以降も毎日一時間ほど付き合ってくれるらしい。
早く体の自由を取り戻せるといいわね。もしくは声を出せるかのどちらかね。
真紀から意思を伝えられなくてもどかし過ぎるもの。
早いうちに誰かに鏡を見せてもらいたいわね。
そうすれば、このカラダが真紀のモノか美紀のモノかはっきりするはずだもの。
二日後になんとかぎこちないながらもカラダの動きを制御できるようになってきた。
声も少しだけ出るようになってきたので鏡を見たいと須藤さんに伝えると渋々ながら小さい鏡を持ってきてくれた。
「せっかくの美貌がこんなことになってショックでしょうけど、髪はそのうち生えてきますし、痣も治りますから気を強く持ってくださいね。」
須藤さんは真紀を元気づけようとしてくれるが、別に髪や傷、痣のことは今はどうだっていいわ。
真紀は鏡の中の顔をじっと見る。
真紀の顔じゃないことは間違いないようだ。
開頭手術のために髪が一部なくなっているが事故前に見たベリーショートの長さの時点で既に美紀の顔だと思われる。
傷や痣があることで毎日見てた自分の顔とはかなり違うことは違うが、これが美紀の顔だっていうのが断言できるかってのも微妙なところなのよね。
だって、真紀の知ってる美紀の顔とは左右逆なんだもの。
でも多分、今のこのカラダは十中八九、美紀のモノなんだろうと思う。
よし、なら真紀にできることをするまでだ。
このカラダがすい臓がんだっていうなら徹底的に治療しなくちゃね。
抗がん剤とかの苦しみは真紀が全部引き受けてあげるわよ。
でも、途中で元通りになっちゃったらごめんね。
笑って許してくれるといいんだけど。




