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第1話  魔族の国、出会いの冬

こんにちは。作者のヒカリです。

この作品は、私にとって二作目の物語になります。


プロローグでは、あえて多くを語らず、静かに物語の幕を開けました。

ですがここでは、作者として少しだけ、この物語への思いを綴らせてください。


前作では、魔王と勇者が運命に翻弄されながらも戦う物語を書きました(今も絶賛継続中です!)。

その中でふと思ったんです。


その物語では、運命の絶対的な力を“神”として描いていますが――

現実の私たちの世界にも、「運命」とは呼べないまでも、自分ではどうしようもない“大きな力”に抗いながら生きている瞬間があるな、と。


それは国家だったり、社会の仕組みだったり、人の意思だったり。

さまざまなファクターが重なって、私たちの現実の“物語”ができていくのだと感じました。


この物語では、そうした見えない大きな力に翻弄されながらも、それでも信じたいものに手を伸ばしていく人たちの姿を、リアルに描いていけたらと思っています。


――とはいえ!

それだけでは重たすぎるので、もちろん、恋愛や学園生活、さらには魔法と剣のバトルまで盛り込んでおります!笑


どうか最後まで、お付き合いいただけたら嬉しいです。

寒い。


馬車の車輪が、凍てついた石畳を重々しく踏みしめていく。

雪は音もなく降り積もり、視界を無垢な白で覆っていた。

吐く息はすぐに凍り、空気そのものが刃となって頬を刺す。


南の帝国〈アストリア〉とは、まるで別世界だ。

陽光が降り注ぎ、果実の香りが漂う街路――それがアストリア帝国皇太子レイハルト•マルキディウスの“日常”だった。


今いるのは、北の魔族の王国〈リリシア〉。

同じ島国とは思えぬ極寒の地。死人のように青白い肌、尖った耳、血のように赤い瞳を持つ人々が作った王国だ。

アストリアの民は密かにこの国を「魔界」、そこに住む人々を「魔族」と呼び、蔑んできた。


(……よりによって、こんな所に)


この派遣は、父である皇帝セレノス・マルキディウスの決断だった。

理由はただ一つ。悪化する両国関係を、少しでも改善するため。


きっかけは、国境の大森林。

アストリアでの人口増加に伴う伐採と開墾が緩衝地帯を削り取り、リリシアは激怒。

瞬く間に関係は冷え込んだ。


そこで、セレノスは、戦を避けるための賭けに出た――皇太子を敵地に送るという大胆な手。

命の危険すらある任務を託されたということは、それだけ自分が信頼されている証だ。

ならばやってやる、とレイハルトは胸を張っていた。

……もっとも、そのやる気がしばしば空回りすることは、自覚していない。


 


「殿下、そろそろ到着です。マントをどうぞ」


隣に座る青年、カイ・エステルムが厚手の毛織の外套を差し出す。

アストリア騎士団長の息子で、剣の腕は随一。何より、幼い頃から仕える腹心だ。


「……“レオン”だ。ここではそう呼べと、何度言えば分かる」


「失礼しました……レオン……様」

わずかな間を置き、カイは苦笑した。


「やっぱり慣れませんね。……でも、油断は禁物です。通りという通りに紅い目が光ってます。どう見ても俺たちは歓迎されてません。」


「ふん……」とレイハルトは鼻を鳴らし窓の外に目を向ける。



雪をかぶった石畳は、淡く輝く魔力灯によって融かされている。

屋根からは温かな蒸気が立ちのぼり、街角には浮遊する光球。

鉄製の魔導滑車が荷を運び、露店では魔法で温められた果実が売られている。


「……すごいな。アストリアじゃ、夢物語ですよ」

カイが呟き、一瞬だけ視線を逸らす。

その目は、魔導滑車の動きに一瞬輝きを宿し――すぐに、騎士の硬い色へと戻った。


レイハルトは無意識に息を呑む。

アストリアでは、魔法は貴族の道楽に過ぎない。

だがここでは、人々の暮らしのすべてに魔法が息づいている。

この差は脅威であり、同時に――羨ましくもあった。


 


やがて、白銀の魔石をあしらった荘厳な門が見えてくる。

中央には、三本の剣を抱いた翼竜の紋章――〈リリシア王立国防学院〉。


将来の軍と政を担うエリートたちが集う場所。

今日からレイハルトとカイは、この学院で学ぶことになる。


門兵の魔族は直立不動で、紅い瞳を細め、二人を射抜くように見つめていた。

額の小さな角が雪を弾き、鈍く光る。


(歓迎されてないのは、明らかだな)

アストリアから遠く離れたこの地でーーアストリアの名を背負う自分に、怯む選択肢はない。


 


馬車が門をくぐると、魔石の光が中庭の雪を柔らかく照らした。

雪は魔力の影響か、微かに不自然な渦を描いている。

吐く息は白煙となってすぐに消える。

カイが肩にマントを掛けてくる。


「とにかく、目立たないように。問題は絶対に――」


「分かってる。それ、お前の口癖になってるな」


 


学院の敷地内は重厚な石造りの建物が並び、ステンドグラスには魔法陣が浮かんでいる。

その魔法陣が、一瞬だけ不自然に脈動し、レイハルトの胸に冷たいものを走らせた。

扉は音もなく開閉し、目に見えない暖気が肌を包む。

……同時に、遠くから低いうなり声のような魔力の響きが耳に届いた。


(これが……リリシアか)


感嘆の息を吐く間もなく、視線がある一点で止まった。




訓練場の片隅――寒風をものともせず剣を振るう男。

銀白の髪が雪と舞い、青白い肌に浮かぶ魔紋が淡く光る。

吐く息は白く、体からは湯気が立ち、剣筋は重く、しかし流れるように美しい。


一瞬、その剣先で魔力が黒い靄のように揺らめき、レイハルトの剣士としての直感を鋭く刺激した。

アストリアで幾多の強者を倒してきた彼でさえ、感じたことのない異質な気配だった。


さらに周囲を見れば、他の魔族たちは遠巻きに彼を見つめ、誰一人近づこうとしない。

足元の地面には、剣の軌跡が刻んだ浅い傷が幾筋も残っていた。


一瞬、ルークスの紅い瞳がレイハルトを捉え、剣を振る手を止める。

その視線には、獲物を値踏みするような冷たさと、魔族特有の得体の知れない魔力が宿っていた。


「ルークス・フェルゼイン。魔族でありながら、剣聖に最も近いと噂される男です」


カイの声を最後まで聞く前に、レイハルトの唇が吊り上がる。


(剣聖だと? ……面白い)


次の瞬間、雪を踏みしめる音と共に、レイハルトは訓練場へ向かって歩き出していた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


剣と魔法、偏見と理想、冷たい国と熱い魂――

そんな対比を描きたくて、この第1話ではじっくりと「出会い」までを描いてみました。


次回、第2話ではついにルークスとの衝突、そしてあの男の登場……

本格的に物語が動き始めます。


感想・ブクマなど、本当に励みになります!

特に感想は、創作する上での原動力です。この物語は、読者の皆さんとの対話も大事にしたいな、と思ってますので、ぜひぜひ感想をお聞かせください。


それでは、どうか、彼らの行方をこれからも見守ってください。

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