【第6話 手のひら、熱を分けて】
呪詛の気配が、日毎に強まっていた。
千歳の背に宿る白狐の霊核は、常に何かを探るように揺れている。
「あなたの式神は、……ずっと誰かを警戒してる気がします」
千歳の言葉に、或は静かに頷いた。
「“彼”だろうな。私の過去に縛られた存在……君を巻き込みたくはなかった」
「でも、もう契約したんです。だから私も……先生の過去を知りたい」
その言葉に、或はわずかに目を細め、優しく微笑む。
「……少し疲れただろう。今日は術の訓練をやめて、休もう」
帰り際、校舎裏の小さな庭で、千歳はふと膝をついてしまった。
体が重く、意識がぼやける。
「……あ……」
倒れかけた千歳を、或が即座に抱き留めた。
その腕の中、彼女は彼の体温と、胸の鼓動を感じる。
「大丈夫か」
「せんせ……ぃ……」
指先が熱い。肌がふれるたび、胸が高鳴っていく。
——このまま、意識を手放してしまいたい。
そんな感情が、心の奥から湧き上がってきた。
そのとき、或の指が千歳の頬に触れた。
熱を移すように、優しく撫でる。
「君の霊力が、不安定だ。私の力を、少し渡そう」
彼は千歳の額に額を寄せ、小さく術式を唱える。
すると、不思議と心が落ち着き、視界が晴れていく。
「これで少しは楽になる。……だが、本来なら、もっと深い“口伝”が必要だ」
「……口伝?」
或はそれ以上は語らず、ただ「いずれ分かる」とだけ告げた。
千歳は頷いたが、内心では鼓動が早まっていた。
彼の言葉の裏にある何かを、確かに感じ取ってしまったから。