【第4話 契約の儀、夜に咲く】
「私と、正式な契約を結ぶ覚悟はあるか?」
或の問いは、静かな夜の風に紛れながらも、千歳の心に深く突き刺さった。
「契約って……どんな?」
或は千歳の目をじっと見つめる。
「“器”としての君が、私の霊力の依代となる。そうすれば、君の中で私は完全に現世に定着できる」
「じゃあ……先生は、もう消えないんですか?」
彼は微かに目を伏せた。
「消えない代わりに、君の命は“儀式の宿主”となる。常に呪いに身を晒すことになるだろう」
それでも——と千歳は心の中でつぶやいた。
もし先生がいなくなるくらいなら、自分が呪われてもいい。
そう思ってしまう自分がいる。
「……わかりました。やります」
夜、儀式の間が設けられた。
封域の奥深く、灯籠の火だけが揺れる静かな空間。
或と千歳は向かい合い、古の契約式に則って、互いの手のひらに血を滲ませる。
「——“神尾千歳”、その名をもって、我、或を迎え入れん」
彼女がそう宣言した瞬間、空間に黒い霧が満ち、彼の姿が淡く光を帯びる。
「次は、君の“名”を私に贈ってくれ」
千歳は、戸惑いながらも頷いた。
「……私は、神尾千歳。先生にこの命、託します」
或が彼女の手を取り、静かに唇を重ねた。
掌に、額に、そして——
「これで、君は私の“器”となった」
契約が結ばれた瞬間、千歳の背後に淡い白狐の姿が浮かび上がった。
その眼差しは、或と同じ色をしていた。
「この姿は……?」
「君の中に宿った、私の式神の核だ」
それは新たな力の証。
だが——その式神の目は、一瞬だけ“別の誰か”の影を映していた。
誰かが、遠くから見ていた。
契約を妨げるためか、それとも——