表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

未来視の姫 ~SUHIDININOKAMI~

 雷撃を受けたヤチホコは、髪が逆立ち、顔は(スス)で少し黒くなっている。しかし、意外にもケロリとした表情で、痺れた手をさすった。

「やるじゃん、あの()。なかなか骨のある攻撃だったぜ」

 獰猛(どうもう)にニヤリと笑うヤチホコに、カワノは呆れたようにため息をついた。

「まったく、戦闘狂(あんた)は…平気なの?」

「おうよ。これくらい、いつものことだ」

 ヤチホコはそう言うが、その目は明らかに楽しんでいる。戦闘(バトル)(ジャンキー)の血が騒いでいるようだ。

「まず、顔を拭け…」

 そう言ってカワノ、ヤチホコの(スス)けた顔を手巾(ハンカチ)強目(ゴシゴシ)拭く。気分は母親(オカン)である。

「も、もぉ~、なにやってんのさ四人もいてッ?」

 総隊長(エベっさん)憤然(オコ)である。シバの姿が雑踏に消えて、雑踏(らんにんぐと)失踪(ぅほらいずん)だから当然だ。

 群衆は、先ほどの騒動に一瞬ざわついたものの、すぐにウケイ国の喧騒に飲み込まれてしまったようだ。シバの姿は、どこにも見当たらない。

「あの勢いで逃げれば、すぐに見失いますよー、しょうがなくない?」

 カヅチが、先ほどまでシバがいた辺りを見つめながら他人事(ヒトゴト)に呟くと、

旋回(スピニング)(バード)回転脚(ソバット)ッ!」

 総隊長(エベっさん)、滞空するようにカヅチの腹から顔にかけて強目(ゲシゲシ)回し蹴り。カヅチ、轟沈。フンと苛立ちを鼻息に捨て、

「まあ、いいさ。どうせまたどこかで顔を出すでしょ…」

 キンとギンは、まだ英傑(ヒーロー)(ショウ)の方に気を取られているようだ。カワノが声をかけると、二人は、慌てて駆け寄ってきた。

「ねえねえ、今の見た? すっごかった!」

 ギンが目を輝かせながら言う。キンも興奮した様子で頷いている。

「「「「さすが、大黒天(ビッグブラック)隊ッ!」」」」

 子供たちにとって、シバの雷撃やヤチホコの演武のような動きが、英傑(ヒーロー)(ショウ)の一部に見えたのだ。

「「「やめてください! お願いしますッ!」」」

 カワノたちは、子供たちに懇願。

「なんだ? その中二(チューニ)?」

 ヤチホコは、キョトン。

「許すッ! 呼べ(やれ)ッ!」

 総隊長(エベっさん)は、悪い笑みに、既成事実を積み上げる。


☆ ★ ☆ ★ ☆


 ウケイ国の喧騒は夜になっても衰えることを知らなかった。ギラギラと輝く電飾飾り(ネオンサイン)のもと、キンとカヅチは虎耳(ケモ耳)手配師(ディーラー)がいるカジノに興味津々で吸い寄せられそうになる。

「掴め」

 カワノの冷たい一言と、耳に響く金箍の締め付け音が、二人の足を現実に引き戻した。

「ジェ、嫉妬(ジェラシー)っスか、カワノさん?」

 カヅチが涙目で抗議するが、カワノは冷たい視線を送るだけだ。その後ろでは、ギンがポツリと呟いた。

卑猥(エロ)河童(ガッパ)

 みんなとは少し離れて、総隊長(エベっさん)は賑わう人混(ひとご)みの中に、どこか寂しげな佇まいの女性を見つけた。紫色の瞳が印象的な、美しい顔立ちの姫君。なぜ情報(それ)を? 総隊長(エベっさん)だからだ。女性の表情には深い憂いが漂っている。彼女こそ、隣国から来たカッサンドラ、ふたつ名はパンドラだった。

 宇比地邇神(ウヒヂニノカミ)ことウラシマと、妖艶な年齢不詳の美女、オトヒメこと須比智邇神(スヒヂニノカミ)の娘である。聞けば、異能(ちから)神の爪(ツメ)は、箱に封じられているらしい。

 パンドラは、人混みの中でもひときわ目立つ存在だったが、周囲の喧騒とは隔絶されたような雰囲気をまとってた。時折、何かを予見するように顔をしかめるが、その言葉を誰かに伝える様子はない。

――彼女が、パンドラか…

 総隊長(エベっさん)は、静かにその姫を見つめていた。

「どうかしましたか、総隊長(エベっさん)?」

 カワノが訝しげな表情で問いかけると、

「う~ん? 行くよ大黒天(ビッグブラック)隊」

「「「「それやめてください! マジ、お願いですからッ?」」」」

 ウケイ国の夜はまだ始まったばかりだ。それとは別に、総隊長(エベっさん)は着々と既成事実を積み上げる。

 賑やかな通りを歩いていると、キンが突然立ち止まり、興味津々(キュピン)とした瞳で何かを見つめた。

「ねえ、あれ見て? 美味しそう!」

 指さす先には、湯気を上げる屋台があり、見たこともないようなカラフルな団子が串に刺して売られている。

「ちょっと、寄り道しても良いッスか?」

 カヅチも興味津々(キュピーン)といった様子で、鼻をヒクヒクさせている。

「ちょっとだけよ」

 カワノは嘆息、子供たちのウズウズした様子に少しだけ歩みを緩めた。総隊長(エベっさん)は、視線でパンドラの動線を捕捉する。

 屋台に近づくと、甘い香りが鼻をくすぐる。キンとギンは、それぞれ違う色の団子を一つずつ買い、頬張り始めた。

 ギンは、

「ん~!」

 キンは、

「味の直球(ストレート)勝負(ショーブ)やぁ~」

 美食(グルメ)評論(レポート)

 二人の笑顔を見て、カワノも少しだけ心が和んだ。カヅチも、何やら香辛料の効いた肉の串焼きを満足そうに頬張っている。

 そんな時、総隊長(エベっさん)がふと、近くの暗い路地に目をやった。そこには、先ほど見かけた紫の瞳の姫君、パンドラが一人、寂しげに佇んでいた。周囲の喧騒とはまるで別世界のようだ。

 総隊長(エベっさん)は、そっと彼女に近づき、獰猛(どうもう)な笑みを湛えて声をかけた。

「気づいてて、気づかないフリとか余裕(ヨユー)じゃんか?」

「変えられない未来なら見えない方がいい…出雲(イズモ)八重垣(ヤヱガキ)八十神隊(ヤソガミタイ)総隊長少彦名(エベっさん)。あたしになんの用?」

 悪びれることなく、パンドラは口を開く。先ほどの寂しげな憂いを帯びた眼差しが、嘘のよな乾いた視線。少彦名(エベっさん)は、この視線の意味を知っている。絶望と諦観だ。この瞳をしていた親友(クロ)を慰めていたから。

禁断の箱(パンドラボックス)を開いて…」

 少彦名(エベっさん)の言葉に被せるように、

「断る」

 低い声音にパンドラは即答する。ふたつ名の由来は、禁断の箱(パンドラボックス)の守護者からきている。

神代(かみよ)から人の世に移る準備が…」

 また、言葉を被せようとするパンドラに、

「ヨぉガフレイルッ!」

 少彦名(エベっさん)、フレイルビンタ。容赦(ヨーシャ)がない。ヨガフレイルは、釣竿の先に付いた鯛を象った神鋼輝石(オリハルコン)製の分銅が付いた強力な武器だ。

 乳房にフレイルビンタを受けたパンドラは、涙目に踞ってる。

女子(おんな)乳房(オッパイ)にビンタって…」

「おまえ女神じゃん。ならばヨシッ!」

「いいわけあるかッ?」

 噛みつくパンドラに、

「なら、ウケイをしようぜ未来視の姫(カッサンドラ)? どうせ、このままじゃ平行線(ヘーコーセン)だ。ぼくが勝ったら、禁断の箱(パンドラボックス)の封印を解いてもらう」

 少彦名(エベっさん)は、ウケイを持ちかける。

「あたしが勝ったら?」

 まだ痛みに涙目のパンドラに、

「カヅチをやろう」

 少彦名(エベっさん)、人身取引を持ちかける。ここで当事者、

「なんて?」

 キョトン。

「カヅチ? 誰よ? ん? あの人の孫? 顔は面影があるわね…」

 未来視に情報を得たパンドラ、獰猛(どうもう)に笑って、

「乗ったぁ! 好きにしていいのよね?」

 乗る。ウケイに。

「ああ、煮るなり焼くなり好きにしな」

 総隊長(エベっさん)、不穏。当事者(カヅチ)は、

「だ、だから、なんて?」

 狼狽(アワワ)

総隊長(エベっさん)命令だ。拒否は認めないッ!」

 総隊長(エベっさん)は、狼狽(アワワ)棄却(バッサリ)

「え、ちょぉ、総隊長(エベっさん)? ん、その美女(ねぇ)ちゃん、に、うん。バッチコォーいッ!」

 カヅチ。状況を把握し安請け合い。

「あら、可愛らしい禿げ鬘(ゲーハー)ね。それに似てるわ怨敵(アイツ)に。嬲りがいがある…」

 パンドラは、獰猛(どうもう)嗜虐的(ドS)な瞳を輝かせて、ペロリと舌舐り(ペロン)。カヅチ、身の危険を感じ、

「どゆこと? 総隊長(エベっさん)ッ?」

「ツクヨとなんかあったらしいよ」

 総隊長(エベっさん)情報開示(絨毯爆撃)

「じ、祖父(じい)ちゃ~ん!」

 カヅチは、悲鳴。

「ウケイの方法は?」

 当事者(カヅチ)()いて、話は進む。

「未来が変われば、君の憂いは失くなるんだろ? ヤチホコとイワノを貸してやる。この二人が、君の見た未来を変えたならぼくの勝ち、ダメなら、カヅチ(そいつ)を好きにしなよ…」

 総隊長(エベっさん)は雑。カヅチの扱いが。

「あたしの未来視は絶対よ? 神さまに――」

 今度は、パンドラの言葉を、

「ぼくは君と違って諦めないし、変えられない未来に絶望しない」

 ピシャリと被せる。

「変えてやる。過去も未来も変えてやる」

 獰猛(どうもう)に嗤う総隊長(エベっさん)。ここで、

「「「「え、じゃあ黒歴史も変えてください御自分で」」」」

 事代主(コトシロヌシ)隊は異口同音。

衝撃的(ソニック)二重基準(ブゥ~メラン)ッ!」

 総隊長(エベっさん)制裁(セーサイ)発動(ハツドー)

 みんなは、屈んで(かわ)すが、身体を起こすや、

「「「「いッ痛ぁ~いッ! 総隊長(エベっさん)、これ人に向けちゃ駄目なヤツぅ!」」」」

 オヤクソク。からの、

「「あんたら神さまじゃん」」

「ならばヨシッ!」

 様式美。総隊長(エベっさん)、パシリと二重基準(ブゥ~メラン)を掴むや、キンとギンの手を様式美にハイタッチ。

「「「「二重基準(ブーメラン)は、総隊長(あんた)だよ!」」」」

 事代主(コトシロヌシ)隊は、不平不満(ブーイング)。ここで、

「それで、なにをすればいいんです?」

 カワノの(マナジリ)に力がこもる。能天気(ポンコツ)に見えて総隊長(エベっさん)がやると言ったら必要なことだからである。声音は、厳かなものに変わっている。

「この未来視の姫(カッサンドラ)は、ウケイ国の隣国の姫だ。国の名は亡霊(ファントム)の国トロイア。定期的に滅びる。彼女はそのたび――」

 ここで、言葉を未来視の姫(カッサンドラ)が引き受ける。

卑猥(エロ)いことされて殺される。もう慣れたわよ…あたしは、亡霊(ファントム)たちの慰み者、永遠のね」

 過酷な境遇を、さらりと流す未来視の姫(カッサンドラ)ことパンドラ。ここで、

「「()け」」

 イワノとカワノ冷たな声音に、会話からパンドラを()く。

「怒るな女子ズ。()()も未来も変えてやれるって、証明(ショーメー)してやれ…そこのイジケ虫にな…」

 総隊長(エベっさん)、無駄に不屈の抵抗(ハードボイルド)獰猛(どうもう)に嗤う。実績がある。過去を()調()する。

「おい、さりげに黒歴史ぶっ込んだぞ? この永遠の少年(ピーターパン)…」

 総隊長(エベっさん)は、少年神、永遠の少年(ピーターパン)である。カヅチのツッコミに、

竜巻旋風掌タツマキセンプぅショウッ!」

 総隊長(エベっさん)、カヅチの頬の高さで竜巻旋風掌(クルクルビンタ)。ヌイグルミの時のノリでやっているが、

「痛い痛い痛ぁ~い」

 少年の姿で、これをされると割りと痛い。

未来視の姫(カッサンドラ)予言(警告)に、トロイアの亡霊(ファントム)たちは耳を傾けない。未来視の姫(カッサンドラ)異能(ちから)で亡国を回避させれば、ぼくらの勝ち。できなければカヅチをやる。気負わずやれ…」

 総隊長(エベっさん)は、アンマリ。

「気負ってッ! 全力で気負ってッ!」

 カヅチは悲鳴。

「え、俺が撃退するんじゃ駄目なんスか?」

 ヤチホコは、脳筋(ノーキン)脳筋(ノーキン)なヤチホコに、

「いいよ」

 パンドラは了承、

「ただし、神の異能(ちから)は封じる。それ――」

「いいッスよ」

 ヤチホコ。脳筋(ノーキン)に制約を受け入れる。

「「じゃあ」」

 ここで、キンとギン、

「俺もッ!」「あたしもッ!」

 面白そうな冒険に参戦。

「ま、負ければ…死ぬんだよ? 亡霊(ファントム)になるんだよ?」

 パンドラは狼狽(アワワ)と警告。

 イワノは嘆息、

「チビたち脳筋(ノーキン)に預けられっかよ…」

 不承不承(シブシブ)に参戦。

「まあ祖父(じい)ちゃんの変わりに殴り砂袋(サンドバッグ)になるのヤだし」

 カヅチも参戦。

「達する。事代主(コトシロヌシ)隊、これより作戦名称(オペレーション)未来視の姫救済(カッサンドラ)を開始する!」

 カワノが作戦の開始を宣言して参戦した。

「ゆけぇいッ! 大黒天(ビッグブラック)隊、別動小隊事代主(コトシロヌシ)隊よ」

 総隊長(エベっさん)は、既成事実を積み上げ、

「「了解(ラジャー)! 総隊長(エベっさん)ッ!」」

 キンとギンはノリノリだ。

「「「「それやめてッ! マジでッ!」」」」

 四人は悲鳴(オヨヨ)と懇願した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ