表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

月に兎がいる理由 ~TSUKUYOMINOMIKOTO~

 そこは、夜之食国(ヨルノオスクニ)の宮殿。ツクヨが手に携えたウサギのヌイグルミを目にして、月の女神のルナは、

「また、隠し子(お子さん)ですか?」

 軽蔑(ケーベツ)の念がこもったジト目を貼りつける。

「ち、違うし? 君たち俺のこと…」

 反論するツクヨに、

「「「夜のシツコイ男(スッポン)」」」

 執務室の女神たちは異口同音。なにがシツコイかの言及は、ここでは避けさせていただこう。

「これは違うのぉッ!」

長官(カシラ)、もう認めようぜ?」

 数少ない男性陣のひとりコンスが、冷ややかな軽口を叩く。十代(なか)ばほどの少年の姿をしている月の神さまだ。

「なにをだよぉ?」

助平(ベースケ)だって。いいじゃん普通(フツー)だよ」

 畳み掛けるコンスに、

「イダダダッ! ぼ、暴力(ボーリョク)反対(ハンターイ)ッ!」

 ツクヨは制裁(セーサイ)発動(ハツドー)。コンスの顔面を鷲掴みにして吊し上げ、吊るされるコンスは、イダダダと悲鳴(きゃあ)

(シツケ)だ。悪小僧(クソガキ)

 忌々しげにケッと吐き捨て、ツクヨは解放(リリース)。ウサギのヌイグルミを執務室の机に飾り、

報告(ホーコク)

 長官席に腰をおろすと不機嫌そうに促した。シツコイ男(スッポン)渾名(ふたつ名)は、伊達じゃない。そこは執務官(スタッフ)理解(わか)ってる。ヘソを曲げるとシツコイことも。うん。面倒臭い(メンドクセ)執務官(スタッフ)たちは適宜(テキギ)に報告をあげる。


☆ ★ ☆ ★ ☆


 まだ、スサが顕現しきる前のこと。高天原(タカマノハラ)にて――

「おまえ、また泣いてんのかよ?」

 大柄(オーガラ)な少年は、幼いツクヨの顔を覗き込んで呆れたように尋ねる。ここで、砂埃をあげながら突撃してくる少女がひとり、

「うちのツッくん泣かせてんじゃねえッ!」

 叫ぶや否や、少女は大柄(オーガラ)な少年に、回し蹴り(ローリングソバット)を叩き込む。紙一重に蹴りを(かわ)して、

「泣いてっから、気にかけてやってんだよバカテラスオトコ女ッ!」

「アマテラスだ。このカマ野郎(ヤロー)ッ!」

 うん。御転婆(オテンバ)許容量(キャパ)を超えている。もう、御理解(おわか)りだろう。十歳前後の御転婆(オテンバ)許容量(キャパ)超過(オーバー)少女が、幼い日のテラスで、大柄(オーガラ)な少年がオーゲツだ。オーゲツは、ウザすぎるフリルの着物を着ていない。では、あれは?

「あ、あれは、おまえが泣いてっから、姉貴の服着て笑わせてやったんだろうが?」

 理由があるようだ。

「泣いてないッ! ツッくん。お姉ちゃん泣いてないからね?」

 ここで、

「「いっ痛ぁ~いッ!」」

 ふたりの頭に拳固(ゲンコ)

「ケンカしちゃダメだよ」

 通りすがりの道祖神(ドーソ)である。そこへ八意(ヤゴコロ)、深く嘆息、

「すまないな道祖神(ドーソ)

 このために呼び出した道祖神(ドーソ)に礼を言い、道祖神(ドーソ)は右手を上げて爽やかな笑顔に応え、黄色い安全帽子(ヘルメット)を被りなおすと、鶴嘴(ツルハシ)を肩に担いで現場に消えた。

 八意(ヤゴコロ)は、(かが)んで、ツクヨの目を覗き込み、

「ツクヨさま。また恐い夢ですかな?」

 少し心配そうな声音に尋ねた。ツクヨはコクンと(うなず)き、

「おおきなみずたまりしかないところで、じっとしてるんだ」

 たどたどしく、ツクヨは口を開く。五歳前後と言った容姿か。

「あたしとおなじだ…」

 ポソリとテラス。

「つか、おまえ、なんでヌイグルミなんか()っこしてんの?」

 オーゲツは、ふと気づいたことを尋ねる。ツクヨは泣き虫小僧(コゾー)だが、安心(セーフティ)毛布(ブランケット)は、装備していない。

「目がさめたら、なんかもってた…」

 うん。ちょっとした怪談(ホラー)だ。ここで八意(ヤゴコロ)

「いいですか。テラスさま、ツクヨさま。夢は夢です。間違っても、大海原にある、(ホコラ)を訪ねたりしちゃダメですからね」

 釘を刺す。ふたりの育て親である、次兄のカグチが、大海原に居るヒルコの長兄の話を漏らしたからだ。近づけぬよう封印も施したし、子供では到達できないだろうが。

 ここで、オーゲツ、テラス。

「「はぁ~い」」

 よい子のお返事、悪い笑み。

「うん」

 ツクヨがコクンと(うなず)くと、

「よろしい」

 八意(ヤゴコロ)は、満足げにこたえて仕事に戻る。


★ ☆ ★ ☆ ★


 案の定に、

「どうしてこうなった?」

 姉とオーゲツに連れられ大海原。ツクヨは危惧(リスク)を回避する性質(タイプ)の幼児である。対してふたりは、享楽(キョーラク)の為に危険(リスク)に挑む性質(タチ)悪小僧(ワルガキ)だ。ここで、ツクヨの感情(こころ)に変化が起きる。

「おいゴリ。おまえ空中蹴れるか?」

「え、なに言ってんのおまえ?」

 不思議を呟くテラスにオーゲツはキョトン。そこでテラス、ピョンと跳び、空を蹴って方向転換。華麗に着地、ドヤァっとし、

「なんだ二段跳びかよ…」

 オーゲツもピョンと跳んで、空を蹴り、二度ほども方向を変え、更には一段高くまで跳ね、ドスンと着地。ドヤァを返して、テラスをグヌヌとさせた。

――障壁(ショーヘキ)張って、そこ蹴れば良くね?

 変化した感情(こころ)でツクヨはジト目。

「お、おい…この絵面(えづら)、おかしくないか?」

 テラスの肩の上にオーゲツは仁王立ち。

「おまえ空中二段跳び、できねえじゃん」

 シレッと(のたま)うオーゲツに、テラスはグヌヌ。

 両の掌にオーゲツの足を乗せると、そのまま屈伸。からの全身の発弾(バネ)をギリギリまで圧縮、オーゲツも同じく発弾(バネ)を圧縮からの解放(リリース)脳筋(のうきん)発射台(キャノン)の出来上がり。オーゲツは上空に空を二段跳び。からの着地。

「「行くよツッくん!」」

 ふたりは、ツクヨの有無を問わずに、ヒョイっと抱え、

「どこにだよ…」

 幼いツクヨは、諦観(テーカン)(にじ)声音(こわね)に現状を受け入れる。

「「()ッッけぇぇ~ツッく~ん!」」

 大音声(ダイオンジョウ)な掛け声の元に、脳筋(のうきん)発射台(キャノン)は、ツクヨを発射。

――もうヤだ。この脳筋(ノーキン)共…

 ここでツクヨの感情(こころ)が、現在の形に完全固定(フィックス)。たどたどしく、言葉を紡ぐ幼児(オサナゴ)はもう居ない。

 投げ飛ばされた先に障壁(ショーヘキ)を展開して、足場を築き、ヒルコの長兄の元へと、ウサギのヌイグルミを全力投球にお届けし、脳筋(ノーキン)な二段跳びで中空から帰還していたオーゲツと姉にジト目を貼りつける。

「「そ、その手があったか…」」

 呆れた言葉に、吐息をひとつ。

()は、連れて来られただけだからな。ジイ…」

 冷静(クール)幼児(オサナゴ)は自己弁護。

 華麗(カレー)に着地するが、

「「「いっ痛ぁ~い!」」」

 三人の頭上に道祖神(ドーソ)拳固(ゲンコ)が落とされる。悪さをすれば叱られる。子供の義務だ。仕方がない。


☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆


 再び夜之食国(ヨルノオスクニ)にて、

「ふぅ~ん。昔から可愛げなかったのね長官(カシラ)

 執務室で昔話を聞き終えたルナは辛辣。

「ルナくん…す、少しは長官(カシラ)を立てたまえよ…」

 ツクヨはクスン。ルナには頭が上がらない。その故は?

「あの子は、元気にしてましたか?」

禿げ(ゲーハー)(ヅラ)(いじ)られたよ」

「あら長官(カシラ)よりは可愛げありますこと」

 ルナ、どこまでもすげない。

「カトリのことは、仕方ないと思う…」

 ツクヨは小声でポソリ。カトリとは?

「別にそこは怒ってません。あの()が決めたことに否やはありません」

 どうやら、ふたりは夫婦のようだ。カトリは娘のようである。

「まったく長官(カシラ)は押しが弱いのよ。カヅチに養女(ヤカミ)を娶らせようと中津国(ナカツクニ)に降ろしたのに…しかも、また振られてるしカヅチ…隔世遺伝してるじゃない長官(カシラ)が…」

 隔世遺伝とは、祖父母の異能(ちから)が遺伝すること。つまりは孫の不甲斐なさをツクヨに重ねて責めている。ツクヨはグヌヌ。隔世遺伝していることは否めない。

「しかも、また受入れちゃって。長官(カシラ)、捨て猫拾って放置するタイプでしょう?」

 また苦言(チクリ)。ルナは、どこまでも辛辣だ。その故は、

「チャースッ! 夜之食国(ヨルノオスクニ)付き駐留武官のタマモと」

「ミイです。トコシヨとの折衝役は、すべてミイが承ります。()()()さま」

 白兎小隊(ホワイトラビット)の駐留を、ツクヨが承認してしまったためだ。

「く、クマノさまに頼まれたら、こ、断れないって…」

 ツクヨはオヨヨ。危惧(リスク)は回避する性質(タイプ)なのは、昔も現在(いま)も変わらない。

「これで夜之食国(ウチ)は、怪談(あっち)(サイド)確定(カクテー)ですからね。卑猥(エロ)(サイド)じゃなくて残念だったわね長官(カシラ)…」

 白兎小隊(ホワイトラビット)は、怪異(アヤカシ)仙人(シャンレン)で構成された混成部隊だ。なにより女子が多い。全体の二割ほどが夜之食国(ヨルノオスクニ)に駐留するようだ。

「いや、仕方なくない? 昼に怪談(ホラー)よりよくない?」

 ツクヨの弁明(ベンメー)は、

「いいですか、ふたりとも、長官(カシラ)節操(セッソー)なしは、ここでも、高天原(タカマノハラ)でも中津国(ナカツクニ)でも有名(ユーメー)です。なにかされたら、このルナに密告(チク)りなさい。粛清(シメ)るから」

 あんまりなルナの宣言に退けられる。

「ジャンル孫に手ぇ出すかッ!」

 ウガァと噛みつくツクヨにふたりは、

「「ウッス。ルナ先輩(パイセン)ッ!」」

 トドメ。ツクヨは、机に突っ伏しオヨヨとした。

 さて、隔世遺伝のカヅチとやらは?


☆ ★ ☆ ★ ☆


 神州九州(しんしゅう)での移動手段は主に徒歩だ。飛翔鰐(ホバーバイク)は使わない。御神徳が漏れるから。当然のようにごねる男が約一名。ハラシコ。隠れた御名(ミナ)は、カヅチ。正式名称は武甕槌(タケミカヅチ)。ツクヨの孫である。母はカトリ、父はフツ。正式名称、経津主命(フツヌシノミコト)である。

(つ~か)~れ~た」

少女(ギャル)かテメェは?」

 ごねるハラシコの尻に、イワノが(したた)か蹴り飛ばす。尻を押さえて、

「いッ(テェ)ぇ~。テメ割れたらどうすんだよ?」

 ハラシコはオヤクソク。

「それ初めからよ」

 カワノは呆れて指摘、音速(マッハ)で、

「マジで? 見してみ?」

 切り返すハラシコの尻を、

「いッ(テェ)ぇ~!」

 ヤチホコ、(したた)か蹴り飛ばす。

「ホウとミナも居るんですからね。悪影響が出るようなら、金箍(キンコジ)付き罰則(ペナルティ)帽子(キャップ)着けるわよ?」

 カワノ。総隊長(エベっさん)から受領した哀愁漂う逸品(イッピン)を取り出し牽制(ケンセー)する。

「ちぇ~。わかったよぉ~」

 ハラシコは、口をすぼめて不承不承(シブシブ)に歩き出す。進む方位は、南西だ。白虎(ビャッコ)(レイ)と言う拠点(ベース)を目指している。案内人(ガイド)のふたりのお(すす)めだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ