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結成! 大黒天隊! ~DAIKOKUTENN~

 ちょっとした緊張が、大練兵場で起きていた。

 鋭い(マナジリ)で対峙するクロとオーゲツ。床にはアナムチはじめ、ヤソ8の精鋭たちが白目を剥いて伸びている。

御神徳(パワー)反響(リフレクション)障壁(シールド)展開」

 ツクヨが厳かな声でミイたちに下知。オーゲツの元にテラスにウカノ。参陣する。クロは乾いた笑みを浮かべ、

「狡くない?」

 苦言。もとい苦情。もとはヤチホコたち精鋭たちの不在からくるオーゲツの助太刀だったはずだ。とは言え、双璧の一角ヤカミは、

「ウカノ姉ちゃん…ぐ、グレープフルーツジュース…」

 そう悪阻(ツワリ)。第二子御懐妊のため不参加。ウカノは苦笑し、目でサシクニに依頼。

「お、お義母様? い、いえ自分で…」

 狼狽(アワワ)と遠慮するヤカミに、

「いいから」

 サシクニはピシャリ。黙らせる。

「参るぞゲン(にい)さま」

 ここでテラス、転瞬に消えるや仕掛ける。

――ど、どーして、こーなった?

 テラスの蹴りを往なしたクロは苦笑(トホホ)


★ ☆ ★ ☆ ★


 ことの起こりは半刻前。天鳥船(バードシップ)作戦会議室(ブリーフィングルーム)にて、

出雲(イズモ)八重垣(ヤヱガキ)八十神隊(ヤソガミタイ)の組織改正を行おうと思う」

 集めたのは、ヤソ(エイト)のみ。その故は、

「え~、ヤカミ隊長の第二子御懐妊に伴い、組織の改正が必要になります」

 クロの言葉を引き取ったのはスセリだ。

「ヤカミは黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)中継局のアダシノ局長に任ずる。アナムチはヤソ(エイト)の後継特殊小隊の隊長を任ずる。主な任務は常世国(トコシヨ)の治安維持。今と変わらねえ」

 ここでクロ。意を決して、

大黒天(ビッグブラック)隊――それが後継特殊小隊の名称だ。構成員は事代主(コトシロヌシ)隊と、ヤカミ以外のヤソ(エイト)だ」

 ここで、

事代主(コトシロヌシ)であるカワノにはヤカミの補佐に付ける。花が減ることはない。イワノの他に一人女子が補充される」

 スセリ、モニターに表示されたピンク髪の美女を投影、

「大黒天。彼女の通称だ。名はシバ。見ての通り、クロの()()です」

 そして、情報中継(リンク)をクリック。シバ子に熱狂するライブ会場が中継される。

「「「いい…」」」

 クニタマ、正式名称、大国玉神(オオクニタマノカミ)、モノモチ、正式名称がふたつある大物主神(オオモノヌシノカミ)こちらはスサの特殊要員(エージェント)としての符合名称(コードネーム)大名持神(オオナモチ)、こちらは機敏な肥満体(デブ)としての本名だ。そして、ミモロ、正式名称、御諸神(みもろのかみ)は思わずにウットリ。

 一方で隊長就任のアナムチは、

「なんか、スセリやミイに似てる…」

 と、愛娘と重なり複雑。スサは母親似だ。その直系の孫であるミイの容姿が先祖であるスサに似るのは自明であり、妹のスセリにも似てる、シバのアイドルダンスはアナムチにとって気恥ずかしいだけで響かない。

「諸君らには、大黒天と共に、憧憬(アイドル)楽団(ユニット)大黒天(ビッグブラック)隊としても活躍し、妖魔(アヤカシ)仙人(シャンレン)たちの懐柔にもあたってもらう。いいか? これは非常に重要な任務だ。拒否は認めねえ」

 クロは強く言いきり、スセリとヤカミ、堪らずに、

「ガンバ、お兄ちゃん」「……」

 吹き出す。ヤカミはツボだったのか、声を殺して笑い涙に涙目だ。

「しょ、承服できませんッ!」

 アナムチ、断固拒否を表明。

「ならウケイをしようぜ大黒天(ビッグブラック)隊。俺と組手して一本でも取れたら流してやってもいい...」

 クロ、獰猛(どうもう)に嗤って恫喝(ドーカツ)。別に大黒天(ビッグブラック)隊に異議のないクニタマたちは、

「「「いいんじゃねえか? シバ子可愛くね?」」」

 巻添えを断固拒否。

「すまんなリア充で…」

 アナムチ、不敵に微笑(フフン)。これには三人。

「「「長官代理(ダイコー)。やっちゃいましょう!」」」

 苛立つ三人、あっさり反旗を翻す。ここで、

「「呼んだ? ゲン(にい)さまッ!」」

 侵入者。オーゲツとテラスだ。そして、

伯父御(オジゴ)さま。ごめんなさい。すぐに…」

 ウカノ。両親を諌めるように宥めるが、

「ウカノさん。長官代理(ダイコー)が組手してくれるそうですよ」

 アナムチ。悪い笑み。計算通りだ。五十年の研鑽は伊達じゃない。こっそり享楽的な偉いさんに情報提供しておいて正解だ。

「上等じゃねえかって言いたいとこだけど、これは出雲(イズモ)の問題だ。高天原(タカマノハラ)の方々は…」

 ここでウカノ。指をパチン、景色が大練兵場へと切り替わる。

伯父御(オジゴ)さま。ウカノの成長をご覧ください」

 満面の喜色を前面に押し立てる。

 オーゲツ、テラスをチラリとし、

――な、なにやる気出してんだよ…

 神の爪(ツメ)を纏っていることにゲンナリ。宙空から轟く排気音にガクリ、

「ツクヨ。初めの号令(ごう)を任せます」

 ツクヨが開始を告げるや、アナムチたちヤソ8を瞬殺に沈黙させ、右手を挙げて結界展開を下知。


★ ☆ ★ ☆ ★


 大練兵場の砂埃が舞い上がる。三対一。数的不利を覆すべく、クロの全身から神気が奔流のように迸り、地を穿つ。オーゲツ、テラス、ウカノは、その圧力に一瞬足が止まった。

「参るぞゲン(にい)さまッ!」

 テラスが吼えた。彼女の脚が、肉眼では捉えきれないほどの速さで加速する。

 地面を蹴りつけ、空気を引き裂くような音と共に、まるで弾丸のようにクロへと突進した。放たれた回し蹴りは、完璧な姿勢(フォーム)から繰り出される。

 普通ならば一撃で意識を失うだろうが、クロは冷静(クール)だった。上半身をわずかに捻り、その蹴りを紙一重でかわす。

(いって)ぇ~ッ!」

 その刹那、テラスの逆の脚が、すでに次の攻撃のために地面を踏みしめていた。流れるような動作で繰り出される裏回し蹴り。クロは寸でのところで腕を交差させ、その衝撃を吸収した。腕が痺れるが、表情一つ変えない。嘘だ泣きそうだ。痛い。

 その隙を逃さず、オーゲツが雷鳴のような咆哮と共に突進してきた。

「待たせたわね、ゲン兄さま!」

 ゴリマッチョな体躯が、まるで質量を持った旋風のようにクロへと迫る。彼はその巨体からは想像もつかない軽やかさで跳躍し、空中で身を翻すと、全身の体重を乗せたかのような拳を振り下ろした。クロは両腕を上げてその拳を受け止める。鈍い衝撃音が空間を震わせ、大練兵場の床に僅かな亀裂が走った。オーゲツの怪力がクロの腕を押し下げ、膝が僅かに沈む。だが、クロは持ちこたえた。彼の眼光は鋭く、

――これ、キレていいよな…

 オーゲツの次の動きを読み切っていた。

 オーゲツが着地し、さらに追撃を仕掛けようとした瞬間、視界の端からウカノが滑り込むように現れた。彼女の動きには、オーゲツの力強さとテラスの流麗さが融合していた。

 ウカノは低く身を構え、大地を蹴り上げると同時に、掌底をクロの脇腹へと叩き込んだ。クロは咄嗟に体をひねり、威力を殺そうとするが、その掌底は的確に急所を捉えていた。一瞬、呼吸が止まるほどの痛みが走る。

「この脳筋(ノーキン)共がぁ」

 クロは苦悶の表情を浮かべながらも、不敵な笑みを浮かべた。彼の右手に宿る微かな光が、次第に輝きを増していく。すべての丹田で練り上げた神気が、クロの全身を駆け巡る。

 テラスが再び蹴りを放つ。今度はその軌道が読めない。フェイントを織り交ぜた複雑な足技だ。クロは冷静にそれを見極め、最小限の動きで回避していく。テラスの攻撃は止まらない。蹴り、手刀、そして肘打ち。次々と繰り出される連撃が、クロの防御を切り崩そうとする。

 オーゲツは、その巨体を巧みに使い、クロの退路を断つように動き回る。彼の拳は、まるで重機関銃のように次々と放たれ、一撃一撃が周囲の空気を震わせた。クロはオーゲツの猛攻を捌きながら、テラスの素早い動きにも対応しなければならない。左右からの挟撃に、クロは完全に防御に徹するしかなかった。

 その隙を狙ってウカノが動く。彼女は両の拳に神気を集中させ、流星のような速さでクロの顔面へと打ち込んだ。クロはとっさに頭を逸らすが、拳が頬を掠め、鮮血が飛んだ。僅かに体勢を崩したクロに対し、ウカノはさらに追い打ちをかける。まるで影が舞うように、彼女の拳が連打でクロの体に吸い込まれていく。

「ウカノ、攻め急ぐな! 間合いを詰めろ!」

 テラスが冷静に指示を飛ばす。

「オーゲツ、回り込みなさい! 挟み撃ちよ!」

 オーゲツもまた、テラスの言葉に反応し、クロの背後へと回り込もうとする。

 三人の連携は、まるで一つの巨大な生物のように滑らかで、寸分の隙もなかった。クロは徐々に追い詰められていく。彼の呼吸は荒くなり、額には汗が滲む。

「もう俺、キレちゃいました…ぷっつんします…」

 全身から立ち上る神気が、もはや目視できるほどに強烈な光を放つ。その光は、周囲の砂埃を吹き飛ばし、三人を一瞬ひるませる。

 クロは、神気が漲る右拳を振り抜いた。それは、三人の攻撃をまとめて弾き飛ばすほどの、純粋な力の塊だった。拳が空気を切り裂き、轟音と共にテラス、オーゲツ、ウカノへと向かう。三人は咄嗟に防御態勢を取るが、その威力は想像を絶するものだった。

『ドォンッ!』

 と言う激しい衝撃音と共に、三人の体が大きく宙に舞った。オーゲツの巨体は、まるで木の葉のように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。テラスは空中で身を翻し、どうにか着地しようとするが、その勢いを殺しきれずに数メートル滑っていった。ウカノもまた、地面を転がり、ようやく体を起こす。

「ぐっ……」

 オーゲツが呻き、地面に拳を叩きつける。

「まさか、ここまでとは…」

 テラスは呼吸を整えながら、クロを睨みつける。

義伯父御(オジゴ)さま、すごい…」

 ウカノは、その顔に驚きと、そして誇りにも似た感情を浮かべていた。

 クロは息を整えながら、倒れた三人を見下ろす。彼の全身から立ち上る神気は、依然として猛々しい。

「組手で神気纏うな脳筋(ノーキン)共ッ! やるんだったらカクリヨでやれッ!」

 クロは強く大音声(ダイオンジョウ)に言い放った。その声は、疲労の色を帯びながらも、確かな勝利の響きを宿していた。

「「「ちぇー、怒んなよぉ~」」」

 シレっと宣う三人をキッと睨み付け、

「寝たふりしたままでもかまわねえが、ウケイは俺の勝ちってことでいいよな?」

 伸びているアナムチの頬を足の裏で軽く叩き質す。

「な、なに言ってんスか、長官代理(ダイコー)命令(メーレー)ッスよ? 背くワケないじゃないっスかぁ~」

 アナムチ、即座に正座、反省(ハンセー)表明(ヒョーメー)。上空のミイは、そんな父にジト目を貼りつける。ここで、

『クロぉ~、背中(こっち)は片付いたぜ?』

 少彦名(エベっさん)。シバの捕獲完了を報告。

「こっちも片付いたぜ少彦名(エベっさん)…アナムチが快諾してくれた。大黒天(ビッグブラック)隊の誕生だ」

『『『『ムナゲッ! テメェこの野郎ッ!』』』』

 事代主(コトシロヌシ)隊は無線越しに全力非難。

「いや、無理だってこんな大魔王…」

 アナムチは苦笑(トホホ)とした。

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