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71.パラメトリックス教団・応接室
に、戻ってくる鳩谷たち。椅子に腰掛け、
鳩谷「だいたいのお話は了解しました。まあ、正直言って、わたしの頭でどこまで理解できたのかは難しいところですが……(志木を見て)ところで、こちらからもいくつか伺わせて戴きたいことがあるのですが……」
志木、「何なりと」という表情を見せる。鳩谷が鹿浜の写真をポケットから出し、
鳩谷「この方に見憶えがありませんか?」
志木が写真を手に取り、目を凝らす。
鳩谷「パラメトリックス教団員の方です。名前は……」
志木「(あぁ、)鹿浜くんですね。考えていたのですが、いま思い出しましたよ。で、彼が何か?」
鳩谷「失踪されました。……しかしそのご様子では、ご存じではなかった?」
志木「初耳です。たしかに最近、姿を見かけないとは思っておりましたが、教団員といえども皆、それぞれの仕事を持つ身。忙しければ数ヶ月、ここに詣でないことだってありましょう」
鳩谷「最近、近しく何か話をされはしませんでしたか? 頼みごとなどをなされたとか?」
志木「いえ、それはありません。……はてどうして、そのように思われたのか?」
鳩谷「(その質問には答えず)では、こちらの女性はご存じでしょうか? やはり、教団員の方ですが……」
鳩谷、葛西美菜の写真を志木に渡す。
志木「(写真を見ながら)(教団員なのは、)顔を憶えているのでわかりますが、すぐに名前が出てきません。申し訳ございませんが……」
鳩谷「葛西美菜さんとおっしゃられる方です。不思議なことに、こちらの女性も最近、失踪されました」
その言葉を聞いて、志木の目が嫌悪感を抱かせるような禍々しい光を放つ。
志木「……」
鳩谷「何かご存じでしょうか?」
志木「(首を振りながら)さて、わかりませんな……」
鳩谷「そうですか。残念です。(戸田を見て)きみの方からは何かあるかね?」
戸田「いえ、特には……」
鳩谷「(志木に頭を下げながら)本日は大変ありがとうございました。また伺う機会もあるかと存じますが、そのときはまたよろしくお願いいたします」
鳩谷、志木に握手を求める。一瞬の躊躇の後、それに応じる志木。
志木「詳しいことは教えてもらえませんでしたが、一市民として、せいぜい警察には協力させていただきますよ」
礼をして応接室を去る鳩谷と戸田。
72.パラメトリックス教団・廊下
戸田「いいんですか、鳩谷さん。あの教祖、きっと何かを隠してますよ」
すると鳩谷が唇に右手の人差し指を当て、
鳩谷「しーっ、『壁に耳あり、障子に目あり』って言うだろう……」
73.廊下の角
鳩谷たちから死角になっている廊下の角で、舌打ちするパラメトリックス教団員。その先の壁際にも別の教団員がいる。
74.パラメトリックス教団・応接室
志木がどこかに電話をかけている。
志木「鹿浜の足取りは、まだ掴めないのか? いま、警察の者が来た。事件のことには(まだ)気づいていないようだが、いずれ勘づかれるかもしれん。早く見つけださねば……」
75.どこかの街角
で携帯に出ている、イケ面だが退廃的な感じがする男(葛西美菜のマンションに現れた男と同一人物)。
志木の声「次は相模原市だったな! こちらでできるだけ詳しく特定はするが、それに頼らず奴の足取りを追ってくれ。頼むぞ!」
携帯の男「(静かな声で)わかりました」
76.パラメトリックス教団応接室
志木「それから、これは初耳だったが、葛西美菜が失踪したらしい。もしかしたら鹿浜の失踪と関連があるかもしれん。そちらの方も調べてみてくれ!」
77.どこかの市街
男「了解しました」
78.パラメトリックス教団応接室
志木「まったく荻中、お前があの宝物を盗まれさえしなかったら、こんな面倒なことには……」
79.葛西美菜のアパート近く(荻中泰之の回想)
美菜から五角形が複雑に組み合わされたペンダントを奪った荻中が、近くに止めてあった教団の車に向かう。煙草を吸おうとポケットに手を突っ込むが、切らしているとわかる。仕方がないので、近くの煙草屋で煙草を買い、火をつけながら車に戻ってくる。すると車の死角から、悪鬼のような形相をした葛西美菜が現れ、それにまったく気づいていない荻中を大理石の灰皿で殴り倒す。地面に倒れて呻く荻中。その彼から盗まれたペンダントを取り返して美菜が逃走。逃げて行くその後ろ姿が一瞬、(ペンダントから発した)閃光に包まれる。
荻中の声「すみませんでした……」
80.パラメトリックス教団応接室
志木「(ま、)過ぎたとことをとやかく言ってもはじまらん。あとは任せだぞ!」
ガチャンと電話を切る、志木。
と、すぐに呼び出し音が鳴る。すぐさま電話に出て、
志木「(ふむ、)特異点間隔が狭まってきているのか? 円を描くように東京23区内で収束していると……」