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異形  作者: り(PN)
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61-70

61.教義の映像


 教義のN「(Nの内容に相当する映像と重なりながら)高温の宇宙が開闢し、その後冷却を続けて現在の宇宙が形成されたといわれていますが、初期の高温・高エネルギーだった宇宙の名残として、現在の宇宙には背景輻射と呼ばれるエネルギーが光子の形で飛び交っています。宇宙のあらゆる方向から地球に届くこの背景輻射を高い精度で測定してみますと、それには方向による『ゆらぎ』があることが明らかになってきました。さらに観測されたこの『ゆらぎ』を詳細に調べてみますと、波長の短い『ゆらぎ』は数多くあるのに、波長の長い『ゆらぎ』はあまり存在しないということがわかってきました。

 この事実は、たとえば以下のように説明できます。

 長い弦では、押さえる位置を変えることによって、原理的には高い音でも低い音でも出すことができます。しかし短い弦では、低い音を出すことはできません。出される音の波長が、弦の長さを超えられないからです。

 このことから何がわかるかというと、宇宙の大きさには限りがあるこということがわかるのです。波長の長い「ゆらぎ」が少ないのですから……」


62.パラメトリックス教団・応接室


 で、それまでの教義を説明していたのは、背の高い、四角い顔の老人。

 そしてその話を聞いている、鳩谷と戸田。


63.パラメトリックス教団・全貌(東京近郊)


 宗教法人の建造物というより、何かの研究所といった外見の教団ビルを訪れる鳩谷と戸田。

 受付をし、応接室に案内される。

 しばらく待たされた後、件の老人=パラメトリックス教団会長・志木陽一郎が現れる。

 その容貌を見て、驚く二人(ここまで無声)。

 教義のN「(鳩谷たちの映像に被って)得られた観測データと種々の三次元多様体とを比較しながら宇宙の構造を探ってみますと、その固有振動数――いわば天界の音楽ようなものが――合致するのは、正十二面体空間だということが判明しました。

 正十二面体空間とは、いわゆるポアンカレの球面と呼ばれる三次元構造体のひとつのことです。

 ではどうしてその正十二面体で、それまで無限と考えられていた宇宙を担うことができるのでしょう?」


64.教義の映像


 教義のN「(内容に合わせて説明図が映し出される)それには、同一視という考えが用いられます。

 同一視とは、たとえば面Aと面Bが同一視されている場合、面Aを通って立体の外に出ようとすると、それと同一視されている面Bから立体の中に戻ってしまう、というような現象によって説明することができます。正十二面体の場合は、各面をその反対側の面と、面を三十六度回転させて、同一視が行われます。

 この外に出ることができない空間を、宇宙そのものなのだと考えるわけです」


65.パラメトリックス教団・研究室


 先のシーンと重なり、鳩谷と戸田が、志木にパラメトリックス教団各所を案内されている映像が映る。最初は研究室で、多くのパソコンと、まるで研究者に見える教団員が物静かに研究している映像が映される。その中には、ボリュームのついた携帯電話のような装置を試験している、ヘッドフォンを被った教団員の姿も見える。教団員が覗くパソコンの画面には、振動する波形が表示されている。

 志木のN「しかし明らかになったことは、それだけではありません。正十二面体空間は、それ自身がその要素を含む多重の重なり構造を持っていることが知られていますが……」


66.正十二面体


 が多くの別の正十二面体と複雑に組み合わさりながら入れ子になり、蠢いている(ネイチャー誌、二〇〇三年九月号表紙のような図(ポアンカレの正十二面体空間)参照)。


67.パラメトリックス教団・瞑想室


 を、鳩谷たちが歩いている。

 志木のN「(必要に応じて『教義の映像』『パソコンの映像』などを挿入)詳しくは申しませんが、宇宙を記述するアインシュタインの方程式は、計量、すなわちメトリックという宇宙各点の時空の曲がり具合を示すものです。しかしこれまで説明してきましたように、宇宙が正十二面体構造を取っているとしますと、その頂点や面に当たる部分で方程式が完全には成立しなくなります。いわゆる時空の構造が連続ではなくなってしまうからです。われわれの教団と協力関係にある多くの大学や企業の研究者たちの研究から、実はその不連続となる部分は宇宙の中に無数にあり、さらに時々刻々とその位置を変えているということが明らかになっていきました。(わずかな間)さて、もうおわかりでしょうか? その時空の特異点は、地球上にも存在するのです。かつて『神隠し』や『蒸発』と呼ばれた現象のいくつかは、それら特異点と関連づけられるのではなかろうかと、われわれパラメトリックス教団は考えています。さらに過去、地球上で起こった原因不明の様々な災害……」


68.災害の映像(各種)


 隕石が落ちたような山の中の巨大な窪み。しかし、その中心に隕石の痕跡はない。

 気候に異常はなかったのに、突如発生する津波。

 それまで正常だった大陸下プレートに、突如歪みが生じて発生する地震。

 原因不明の原子力発電所の爆発や火災(上記は、その他のものでも良い)。

 突如、洋上に発生した空間自体の亀裂が豪華貨客船を飲み込み、直後、爆散する。


69.パラメトリックス教団・実験室

 

 何らかの薬品の研究をしているらしいその部屋を歩く、鳩谷たち。

 志木のN「(同上)地球上に不連続に発生した特異点や特異面は、いわゆる時空の虫食い穴、ワームホールの働きを持つだけでなく、その近傍で極限までねじ曲がった計量から発生する圧倒的なパワーの解放口にもなり得ます。(間)われわれパラメトリックス教団は、それら特異点と接触することにより、宇宙の構造をより一層詳細に解明することを目的とし、果たせるならその特異点から、制御された無限のパワーを獲得することを目指しておるわけです」


70.パソコンの画面(応接室)


 に、日本列島の図が表示されている。

 沖縄、福岡、広島、大阪、名古屋、静岡、神奈川、東京の部分に五角形で印がつけられている(鳩谷たちには見えない)。


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