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31.顔が四角く、がっしりして背が高い老人の映像
工員のN「(悩みながら)たぶん、一緒に話をしていた老人の顔が珍しかったんで、記憶に残ったんだと思います」
32.古びた工場(夕方)
工員「(鳩谷を見て)写真の男だけだったら、憶えていなかったかもしれません」
鳩谷「では、その老人の方は、その後、見かけられましたか?」
工員「(きっぱりと)いいえ、見かけていません」
33.鹿浜のアパート近く
鳩谷が、写真の男と先の工員から聞いた背の高い四角い顔の老人について調べている(聞き込み)。
数人に訊ねた後、写真の男を知っているという主婦に出会う。厭らしい目つきで数回見つめられたので憶えていたらしい。
34.厭そうな主婦の顔の顔の回想
35.鹿浜のアパート近く
期待を胸に、指し示されるまま男が住んでいるアパートに向かう鳩谷。
が、辿り着いた部屋の郵便受けには新聞が溜まっている(表札は鹿浜)。ドアには鍵が掛かっていたが、窓を試すと開いたので中を覗く。が、当然のように人影はない。近くの住人に聞き込みをし(「そういえば数日前から居ないようだった」という住人の素振り)、同じアパートに居住している大家に協力を頼んで、鍵を開けてもらう。部屋は几帳面に片付けられていたが、少女に関連するような品は見つからなかった。
机の横に一枚の写真が落ちている(ここまで、無声)。
鳩谷のN「そのアパートを見つけたとき、すでに鹿浜は失踪していた」
写真を拾い、見つめる鳩谷。うら若い美人の女性が映っている。
鳩谷のN「写真の女性は、後に葛西美菜と判明する」
36.商事会社
鳩谷が受付で会社の課長に鹿浜の写真を見せている。
鳩谷「そうですか。鹿浜さんは、こちらの会社にも三日前から出勤されておられないと……」
課長「これまで無断欠席したことはなかったのですがねぇ。(首を捻りながら)一人身ですし、ひどい病気の場合も考えられますので、そろそろ連絡してみようかと思っていたところなんです」
鳩谷「仕事の面で何か悩まれておられたとか?」
課長「さあ、入社以来、可もなく不可もない成績でしたので、もしかしたら飛躍を望んでいたのかもしれませんが、わたしにはわかりかねます」
鳩谷「そうですか?(自分に)つまり、これまで特に問題を起したことはないと…… ふうむ。(気を取り直し)では、教えていただける範囲でよろしいのですが、ご家族のこととか、わかりますれば……」
課長「前に何かの機会に聞いたと思いますが、直属の家族はいないようです。幼いときに死に別れたそうで…… 親戚の人はいるのかなぁ?(首を傾げる)」
鳩谷「ご出身は?」
課長「確か、沖縄ですよ。でも、そこが生まれた場所かどうかはわかりかねます。おーい(と部下を呼び、やってきた部下に)鹿浜くん、どこで生まれたって言ってたっけ?」
部下「生まれた場所まではわかりませんが、たしかご両親が亡くなられてすぐ沖縄の親戚に預けられ、そこで育った、と聞いたことがあります」
課長「(しばらく無言。ついで、不審げに)鹿浜くん、何か仕出かしたんじゃないでしょうね?」
鳩谷「(相手の顔をじっくりと見つめてから)現時点では何とも申し上げられません。(が、つい口をついて)探して欲しいとという依頼を受けてしまったので……」
鳩谷、しまったという顔を見せるが、課長も部下も気づいた様子はない。そこで、件の女性の写真を内ポケットから取り出し、
鳩谷「(では、)この女性に見覚えはございませんか?」
課長、部下とも目を凝らして写真を見る。が――
課長「存じかねますね。(部下に)きみは?」
部下「いや、わたしにもわかりません。(唾を飲み込み)でも美人ですねぇ…… もしかして、この方が失踪依頼を?」
鳩谷「(いや)残念ですが、それは申し上げられません。(時宜を見て)では、ありがとうございました。そろそろ失礼させていただくことにします。(頭を下げながら)この先何かございましたら、また伺わせていただくことになるかもしれませんが、そのときはまたよろしくお願いいたします」
37.北堀署(夜)
鳩谷が忙しそうに報告書を纏めている。それを、「さて、どうしたものか?」という表情で遠くの机から二課課長が見つめている。他に人がいなくなったところを見計らい、鳩谷に近づくと、
課長「ベテラン刑事のガヤさんに、こんなことをいうのは気が引けるのですが、(意を決し)最近小耳に挟んだので言います。(実に困ったという表情で鳩谷を見て)どうやら、捜索願いが出されていない仕事をされておられるようですね。知らなければそれで、ま、見過ごせたのかもしれませんが、知ってしまった以上、これはどうしようもない。(間)で、このままだと管理上拙いのですので、まずすそれを何とかしてくださいませんか?(ニヤッと笑う)」
鳩谷「(課長の真意を測りかね、困惑した様子で)了解しました」と頭を下げる。
課長が席に戻ると、鳩谷、思い出したように電話をはじめる。
38.鳩谷の長女(三井眞奈美、三四歳)の家(夜)
眞奈美「(受話器を取って)あら、お父さん。何の用なの?」
鳩谷の声「えーと、明日、ちょっと会えんかなァ。頼みたいことがあって……」
眞奈美「うん、いいけど。(勘ぐるように)どうせまた、つまらないこと企んでるんでしょ!」
鳩谷の声「あ、ううん。ま、そうだな……(苦笑)で、場所は、前に啓二くんたちと会ったあの喫茶店でいいかナ?」
眞奈美「(即座に)いいわ! で、何時?」
鳩谷の声「お前が閑なのは何時だ? それに合わせるよ」
眞奈美「じゃ、三時ね。午後の……」
鳩谷の声「おう、わかった。では、そのときに……」
39.北堀署(夜)
鳩谷「(送受器に)バーカ、誰が夜中の三時に娘と会うか!」
40.博多の街(夜)
夜の道を歩くうち、路地に迷い込んむカップル。そこに伸びる両腕。何者かに襟首を掴まれ、路地の奥に引き摺り込まれる。