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21.繁華街(東京・山の手)
を鳩谷が歩いている。今度は同僚刑事と一緒だ。目的の店を捜して路地を入ったところで、少女と再開。擦れ違った後、急に思いだして振り返ると、その姿が消えている。戸惑う鳩谷。
そんな鳩谷を不審そうに見つめる同僚刑事。
鳩谷のN「だが今度も、何かの影にでも隠れたのだろうと思った」
22.電車の踏切(深夜)
自宅への帰り道。閉まりつつある踏切の向こうに、鳩谷は少女を発見。少女の胸には、いくつもの多角形を複雑に組み合せたような形のペンダントが輝いている。
やがて電車が来て去り、少女の姿が消えている。目を見開く鳩谷。
鳩谷のN「気の迷いと思うには、出遭った回数が多すぎた。だが……」
ひたすら首を傾げながら、帰路を辿る鳩谷。自宅のすぐ近くの小さな児童公園にさしかかる。何故か、引かれるようにブランコに近づく。
23.児童公園(深夜)
ブランコの鎖を持ち、無人の児童公園で、ジャングルジムや滑り台などを見るとはなしに見ている鳩谷。
すると――
少女の声「おじいさんを信頼してもいい?」
ぎょっとして声のした方向――自分が握っていた鎖が支えるブランコ――を見る鳩谷。
すると、そこに件の少女が座っている。吃驚して声が出ない鳩谷。
しかし――
鳩谷「年寄りを脅かすもんじゃないよぉ」
さすがにベテラン刑事だけあって、内心の動揺を制御できているようだ。
鳩谷「で、お嬢ちゃんは、誰なの?」
が、実はそうでもなかったらしい。
少女、魔法のように掌から一枚の写真を取り出すと、それを鳩谷に渡し、
少女「この人を探してください」と呟く。
写真には、二十代後半か、三十代前半と思われる病的な感じの男が写っている。
鳩谷のN「その男が鹿浜信二だった」
鳩谷「(写真を手に持って、少女に)この人は、お嬢ちゃんの誰? 知り合いかな?」
少女「それは、(少女の口のアップ、静かな声で)わたしを殺した人」
その言葉に当惑する鳩谷。少女の肩を押さえて目を見つめながら、
鳩谷「お嬢ちゃん、それはどういう意味だい?」
だが、少女は答えない。そのとき、空から一粒の雨が落ちてくる。一瞬、それに気を取られ、鳩谷が空を見上げると、次の瞬間、少女の姿は消えている。
些か恐怖の表情で辺りを見まわす鳩谷。しかし、少女はいない。
鳩谷のN「そしてそれ以来、あの少女には会っていない」
24.鳩谷の家(深夜)
家に帰り、真っ暗な玄関に電気を点ける。仏壇には妻の遺影。その隣には身重の次女と彼女の夫の遺影が立てかけてある。その近くには娘二人の披露宴写真。本人の他には誰もいない鳩谷の家。
鳩谷のN「妻は三年前に亡くなり、次女夫婦も昨年、不幸な交通事故で亡くなった。長女夫婦は、近いが別の場所に住んでいる。ということで、いま、この家には自分しかしない」
茶の間で、ひとりでお茶を入れる鳩谷の脳裏に……
25.少女の映像(回想)
が浮かぶ。
鳩谷のN「(お茶を飲みながら)ともかく成行き上、引き受けてしまったのだ。調べないわけにはいかなかった」
26.東京の町(四月)
鳩谷が写真の男を調べている(聞き込み)。
27.北堀署内のデータベース(四月)
鳩谷がパソコンと格闘しながら、写真の男に前科がないかなどを調べている。
28.東京の町(五月初旬)
鳩谷が写真の男を調べている(聞き込み)。
29.東京の町(五月下旬)
鳩谷が写真の男を調べている(聞き込み)。
鳩谷のN「別の事件を受け持っていたこともあり、男の身元がわかるまで、三月近くかかってしまった」
30.古びた工場(夕方、六月)
の前で、鳩谷が工員に男の写真を見せている。
工員「(あ、)その男だったら、前にこの近くで見かけたことがありますよ。(考えながら、アパートを指差し)そこの先のアパートで、たしか、背の高い四角い顔の年輩の方と話していたような気がします(自信がないのか、語尾が濁る)」
鳩谷「そうですか! いやぁ、助かりましたよ。……で、それは、よく見かける人物だったのですか?」
工員「いえ、あのときだけだったと思います。二週間前の水曜日で……」