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03:エスコート相手探し

 


 卒業パーティーの規模は大きく、卒業生はもちろん在校生も参加可能。昼の部と夜の部が有り、どちらかの参加でも良い、とにかく豪華なパーティーだ。

 そんなパーティーには『二人で来ること』という暗黙のルールがある。

 つまりエスコート必須。貴族の通う学園だけあり卒業祝いと言えども社交界でのパーティーを模しているのだ。

 ちなみにエスコート相手が外部の者の場合は招待状が作成されるシステムである。生徒の中には既に婚約者がいる者も居り、それが学園の生徒とは限らないからだ。



「申し訳ありません、ヒューバート様。私、既に他の方にエスコートをして頂く約束をしているんです」

「ヒューバート様に誘って頂けると分かっていればお待ちしたんですが……。残念ですわ。もっと早く誘ってくださったら良かったのに」

「今になって誘っておりますの? もうこの時期ですし、皆さんもう相手を探す段階ではありませんわ。お早い方は既にドレスとスーツを仕立て終わっておりますのよ」

「本気で誘ってるの? ヒューバート、あなた正気? もしかして半年ぐらい記憶を無くしてた?」


 声を掛ける女子生徒みんなが揃えたように断ってくる。

 誰もがみな「今この時期に?」という疑問を表情に浮かべ――中には表情どころかはっきりと口にし――、そして「素敵な方が見つかると良いですわね」という励ましの言葉を添えて去っていく……。



「駄目だ、誰も居ない……。もう三ヵ月切ってるし当然と言えば当然だよな……」


 卒業パーティーについてをフレッドから聞いた数日後、俺はラウンジの一角で項垂れていた。


 頭の中で女子生徒達からの断りの言葉が浮かんでは消える。彼女達は品良く丁寧に、誘われた事を光栄だと感謝し、それでも既に相手がいると断ってきた。

 それもそうだ。エスコートの誘いは最終学年の開始と共に解禁されており、早い者は開始当日にアプローチをし始める。

 それどころか、中には直接的な言葉こそ使いはしないが解禁前からそれとなく匂わせ、周りを出し抜こうとする者もいるのだ。

 早い者は解禁当日に、遅い者でも一ヵ月経つ頃には誰と行くかを決め、当日の装いはどうするかと次の段階へと移っていく。


 むしろ学園に入学した時点で既に婚約関係を結んでいる者もいるのだから、最終学年になって数ヵ月、それどころかパーティーまで三ヵ月を切って相手を探し始める俺は遅いどころの話ではない。

 行く気があるのか? と問われてもおかしくないレベルである。それは自覚している。実際に問われもしたし。


「こんな事になるなら最初から出ることにしてればよかった……。そうすればエスコート相手に説明して理解して貰うだけで済んだのに……」


 欠席を決めた過去の己の判断が悔やまれる。

 そんな俺の向かいにいるのはフレッド。誘えそうな女子生徒を片っ端から回って玉砕した俺がラウンジで項垂れていると、どこからともなく現れて向かいの席に座ったのだ。


「そもそもヒューバートってどうして卒業パーティー欠席する予定だったんだ? キスの話すら出来ない初心で純情な青少年だとしても、学校行事のパーティーに女の子と行くぐらいの甲斐性はあるだろ。暗黙のルールだからって恋愛感情無しで誘い合ってる奴だって多いし」

「喧嘩売ってるのかお前は。……俺が欠席するのは、魔法鉱石の採掘に出るからだ」

「採掘? 王立魔法研究所の?」

「あぁ、俺から同行したいって希望したんだ。俺がずっと行きたかった場所だからな」


 採掘旅行は卒業パーティーの二週間前に出発し、パーティー当日の夕方に帰宅する。体力的に両方を取るのは難しいと判断した結果、俺は採掘を取ったのだ。

 確かに卒業パーティーは記念すべき行事である。俺だって何の予定も無ければ出席していただろう。だが俺にとっては魔法鉱石の採掘旅行の方が大事だ。

 そもそも卒業パーティーこそ出られなくても、その後にもまだ式典だの謝恩会だの、更には卒業生だけの集まり、友人達との卒業旅行……。と、割と色々な催しが控えていたりする。それに貴族という立場上、卒業したっていずれ社交界で顔を合わせる者は多い。


 規模と豪華さでは卒業パーティーが一番だが、かといってこれだけというわけでもない。

 そう話せばフレッドが納得したと言いたげな表情を浮かべた。実際、卒業パーティーよりも他を優先する生徒は毎年多少なりともいるらしい。


「なるほど、それでパーティーは欠席ってことか。それは理解出来たが、出来たからと言ってお前の窮地が変わるわけじゃないんだけどな」

「……好きに言いやがって。でも事実、エスコート相手が居ない事には出席できない。……わけじゃないんだが、さすがに一人は嫌だ。だけどもう女子生徒は皆相手がいるし、かといって男同士で行くわけにもいかないだろ」

「まぁ別にエスコート相手は異性とは決まってないけどな。実際に友人同士で行くっていう女子生徒も結構いるみだいだし」

「……俺にエスコートしてくれるか、フレッド」

「ごめんだな。友人同士で行くのは殆ど女子生徒だし、そもそも俺には相手がいる」


 きっぱりとフレッドが断ってくる。

 もっとも、俺だって本気でフレッドを誘ったわけではない。それ程までに切羽詰まっているという危機感の表れと、それと若干の自棄である。

 そんな俺の胸中を知ってか知らずか、フレッドが「ところで」と話を改めてきた。


「良い情報と悪い情報がある。どっちから聞きたい?」


 思わせぶりな口調。ひとの窮地を楽しんでいるような色すら見える。

 だが今更それを指摘する気にはならない。


「上げて落とされるのは嫌いだ。悪い情報から話せ」

「ディル王子が婚約破棄を宣言する場所はメインホールの広間。あそこは一番ひとが集まるし、十時に大時計が鳴るだろ? そのタイミングを狙うらしい。取り巻きの一人から実際に聞いたから確実だ」

「そうか……」

「ちなみにこの話は、お前の従兄弟であるブルーノから聞いた。自信たっぷりに話してくれたぜ」

「……あの馬鹿。やっぱり卒業パーティーで一発殴って無関係を証明するしか無いか」


 だけどそのためにはパーティーに一緒に出る相手を見つけなければならない。

 それとも周りの目は気になるがいっそ一人で出席するか。

 その時がくるまでは一人でひっそりとどこかに隠れて、ディル王子の騒動が始まった時にだけ場に出て、終わったら即帰る。……考えるとなんだか泣きたくなる卒業パーティーだ。

 だが公爵家の怒りを買うぐらいなら一人でパーティーに出るくらいは我慢しなければ。そう己に言い聞かせて覚悟を決めようとする俺に、フレッドが少し待てと制止してきた。


「良い情報をまだ聞いてないだろ」

「そういえばそうだな。良い情報ってのは?」

「まだエスコート相手が決まっていない女子生徒がいる」

「本当か!?」


 思わずガタと立ちあがってフレッドに詰め寄ってしまう。

 急かすように誰かと問えば、フレッドが勿体ぶったように口を開いた。


「箱庭の魔女だ」

「箱庭の……、ティギー・マイセンか」


 俺がその名前を口にすれば、フレッドが正解だと頷いた。



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