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02:王子と取り巻き

 

「もしも本当に卒業パーティーで婚約破棄宣言をして庶民の女を選べば、ディル王子の今後に関わるだろう」

「当然だな。アリア令嬢には何の非もないわけだし、大衆の面前で恥をかかされたんだから公爵家だって黙っていられない。それに学園の卒業パーティーに泥を塗ったとなれば、いくら第一王子と言っても相応の処罰は下るはずだ」

「だよなぁ。王子も、取り巻き達も、どうしてこんな事を考えるんだか」


 やれやれと言いたげに首を横に振るフレッドの仕草はなんともわざとらしい。明確な言葉にこそしないがディル王子の行動を浅はかだと考えているのだろう。

 俺も同感だと返そうとし……、「ん?」と言葉を詰まらせた。嫌な予感がする……。


「今、取り巻き達って言ったか?」

「言ったよ。どうやらディル王子は取り巻きを引き連れて婚約破棄を宣言するつもりらしい。それも取り巻き達と共にアリア令嬢を糾弾する予定だと」

「糾弾? アリア令嬢が何をしたって言うんだ」

「それが、どうやらアリア令嬢が特待生のシェイラに嫌がらせをしていると考えているみたいなんだ。信じられない話だが、生憎とそれを指摘してやる奴はもうディル王子の周りには残ってない。ぼんくら取り巻き達が周りをがっちり固めてるからな」

「その取り巻きってもしかして……」

「もしかしても何も、ディル王子をいつも囲んで全肯定してる金魚の糞集団に決まってるだろ。お前の従兄弟のブルーノが筆頭だな」


 あっさりとフレッドが言い切る。

 彼の言葉に俺は血の気が失せるのを感じた。本当に自分の中でサァと音がして一気に体が冷え切っていったのだ。心臓が冷え切り手足の先まで凍てつくような感覚。

 だがこのまま大人しく凍り付いて硬直している場合ではない。


「ブルーノの馬鹿は確かに従兄弟だが仲が良いわけじゃない! 俺とも俺の家とも関係ない!」

「そうかもしれないが世間はそうとは思ってないぜ。お前、休暇で故郷に帰る時は必ずブルーノと一緒に帰ってるだろ」

「あれはあの馬鹿がいつまで経っても汽車の切符の買い方を覚えないから、おばさんに頼まれてるだけだ!」

「長期休暇の後やテスト前にはいつもブルーノの勉強を見てやってるよな」

「それだってあの馬鹿が課題をやらないしテスト勉強もしないから、どうにか卒業まで面倒見てくれっておじさんに頭を下げられたからだ。俺の意思じゃない!」


 件のブルーノは俺の従兄弟で、同い年というだけで昔から何かと世話役を押し付けられている。

 俺としては従兄弟と言えども同い年の男の面倒なんて見る義理はないのだが、あいつの両親であるおじさんとおばさんが良い人なだけに断りきれずに居るのが現状だ。彼等からは実の息子のように可愛がってもらっており、その恩は返さなくてはならない。実の息子は最悪な男だが。

 これでブルーノが両親譲りの善良な性格なら良かったのだが、当人は傲慢で横暴、強い者には露骨にへりくだり弱い者には強く出る。幼少時から分家筋の俺の事を見下して世話されて当然と思っていたようだが、ディル王子の取り巻き筆頭になってからはその態度がより顕著になっていた。


 だが世間は俺の気持ちなど無視して、俺とブルーノが親しいと考えているようだ。


「まずい……。卒業パーティーでブルーノが何かやらかしたら俺まで関係してると思われかねない……」

「俺は情報屋だからあくまで予想になるが、ブルーノは何かあればヒューバートの名前を出すだろうな。今までも何かとお前の名前を出して尻拭いさせてたし。下手すればヒューバートもディル王子一派だと思われて公爵家の怒りを買うなんて可能性もあるかも」

「冗談じゃない! そんな事になれば俺だけじゃなくて家族にだって迷惑が掛かるし、仕事にだって影響するかもしれないだろ!」


 卒業後、俺は王立魔法研究所で勤務することが決まっている。魔法鉱石の採掘と研究を専門とする部署で、俺の昔からの夢だった。

 さすがにそれが覆される事はないだろう。だが『パーティーの場で婚約破棄を宣言するディル王子の取り巻きの仲間』なんて不名誉な噂が流れれば、研究所の所員達にどう思われるか……。しかも公爵家を敵に回したとなれば尚更だ。

 王立魔法研究所は国のトップにある機関なだけに貴族や王族関係者も多く、反感を抱く者は多いはず。

 勘弁してくれ、と思わず頭を抱えて唸ってしまう。もっともこうやって唸ったところで事態が解決するわけでもないのだが。


「今からアリア令嬢に話をしてブルーノとは無関係と理解してもらうか……」

「アリア令嬢はディル王子やシェイラにはもちろん、取り巻き達に対しても最近じゃ冷たい態度を取ってるし、今更ヒューバートが近付いてもなぁ。卒業パーティーまであと三ヵ月だし、さすがに今からじゃ無理だろう」

「となれば、当日アリア令嬢や観衆がいる中でディル王子とブルーノを止めるか」

「それは確かに有効だな。必死になって止めればディル王子一派じゃないってアピールになるし」

「よし、それなら勝負は卒業パーティーだ。そこでディル王子を止めて、必要とあらばブルーノを殴る」


 最悪な事態が眼前に迫ってはいるものの、それでも解決策が出たのは不幸中の幸いだ。

 そう俺が考えていると、フレッドが「でもさ」と話を続けた。


「お前、パーティー出ないつもりだったんだろ? 今からエスコート相手を見つけるのか? 空いてる女の子が居れば良いけどな」


 他人事のようにあっさりと話すフレッドに、俺はまたも血の気が引く音を聞いた。



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