2 抜けられない森
はっきり言って、舐めていた。
あまりにも現実味のない状況で、そうはいってもなんとかなるだろうという気持ちで、適当に歩き回ってしまった。
歩けば道や、あわよくば町とかにたどり着くだろうと高をくくっていた俺だったが、現実は非情である。
というか、この森は変だ。
五日歩き回ったが、人どころか獣にも出くわさない。
それどころか、三日目あたりでもしかしてこれ同じところをぐるぐる回っているのでは……と思い至り、試しに木にナイフで傷を付けて歩くことにしたが、見事に木に付けた傷の始点に戻ってきて膝から崩れ落ちた。
それから先はもうグダグダである。
叫んだり意味もなく走ってみたり、いろいろしたがどこにも行けないし誰も来ない。
安全面でいえば安全だ。ただ、俺の体力はどんどん減っていく。
マジックバッグに入っていたパンと水もなくなってしまった。
「死ぬのかな、俺……」
地面に倒れたままつぶやく。
どこにも行けないのにどうすればいいんだ。
何で俺はこの異世界にいるんだ。
何もわからない。
このまま、わけのわからない森で、一人さみしく飢えと渇きで死ぬのか。
――いや、流石に死ぬのは嫌だ。
ぐっと手を握り、なんとか上体を起こす。
その時、うっかりその辺に生えていた草を引き抜いてしまった。
……待てよ、草?
「これ……この草……か、鑑定!」
ピコン!と音がして、表示される『食べられる』の文字。
そうだった。まさかこんなに飢えるとは思っていなかったので忘れていたが、鑑定が事実ならこの草は食べられるのだ。
シソに似た形の大きく広がる葉がたくさんついている。茎は細く柔らかい。
試しに、葉を一枚千切り、恐る恐る食べてみる。
「……葉っぱだな……」
葉っぱだ。おいしいとかおいしくないとかそういうレベルではない。
食べられるハーブといった感じ。主食にしようとは思わないが、ドレッシングがあればサラダとしては食べられるのではないか……そういった味だ。
しかもそれだけではない。葉を千切った後の茎の部分から、草の汁が垂れてきていた。
試しに舐めてみる。無味無臭の液体。ほぼ水だ。茎ごと齧ると茎はあまり食感がよくなかったので、咥えて汁だけ吸う。ゴクゴクと飲むほどではないが、少し喉が潤った。
周りを見渡すと、この草は群生といってもいいほど茂っている。
俺は手当たり次第に葉を食べ、茎を吸った。
「うう……一生サラダ食いたくないくらい草食っちゃった……」
飢えと渇きがとりあえず落ち着き、俺は力なくため息を吐いた。
これで飢えと渇きはなんとかなるかもしれないが、根本的な問題を解決しなければジリ貧である。
草はたくさん生えているとはいえ、この勢いで食べ続けていればいつかはなくなるだろう。
探さなくては。この森から抜け出す方法を。