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ⅴ話「追いかけっこ」

 「やったわ、ミア! 成功よ成功!」

 「もう跡形も残ってないんじゃね?」

 「全く、また軍学校の奴なんて、本当にむさ苦しくて嫌になるわね」

 「いいじゃん、これで終わりなんだから。どうせ明日から来ないって」

 杖を持った男女それぞれの生徒達が、一斉に扉に向かって走ってくる。

 その顔は、笑いから呆れまで多種であったが、その心は清々しさの一点で合致していた。

 扉の後ろで防御魔法を構えていたミアは、瞑っていた目を開き、目の前を見る。

 そこには、一部分が丸く焦げた扉と、石畳があった。

 「ミアも、ほら立って! 今日の授業は終わりだから、さっさと帰るわよ」

 「さっさとトイレで着替えてきなって」

 「う、うん!」

 「さー、帰ろ帰ろー」

 「今日はピーチ・メルバの気分なの。ミアには奢るから、一緒に喫茶店に行くわよ」

 「やったあ!」

 ミアは、先程の衝撃からしばらく座ったまま硬直していたが、その言葉で元気が出たのか、すぐにお尻の埃を叩いて払い、立ち上がった。

 そんな、明るくも不良的な空気に呑み込まれた集団を、一気に変える声が後ろから聞こえてくる。

 「君達は、集団でトイレに行くような奇怪なクラスなのか?」

 その声に、先程まで杖を構えていた生徒から、ケラケラと笑っていた生徒まで全てが凍りつき、その雰囲気を制された。

 生徒達は、恐る恐る後ろを向く。

 そこには、体育館のちょうど中心辺りで、銃を担ぎ、つま先で地を叩いている男がいた。

 その、コツコツという音は、広い体育館を始めとし、その外まで響いていた。

 生徒の目に映ったのは、赤の上着に紺のズボン。

 「な、なんで」

 「お、おい、誰だよ、加減したの」

 「そんなっ、はずは」

 生徒達は集団で動揺している。

 ざわめき始めたところで、ルカは歩き始めた。

 生徒達の方に向かって。

 「三段階目の雷と炎魔法、それに二段階目の水と、あれは四段階以上の氷だったかな。随分とぶっぱなしてくれたが、そんなのは戦場の常套句。防御魔法で二秒耐えれば、あとは跳躍を使って、縦に跳び、壁を使って後ろをとる。これが何もない荒野なら通じたかもしれないが、こんな壁で区切られた部屋じゃ、通用しないさ」

 担いだ銃の銃身を、肩で軽くバウンドさせながら近付いてくる。

 その姿に、生徒達は完全に統制を失っていた。

 そう、“これまでは”それで終わっていた。

 大怪我を負い、その場で座り込んでいる先生を自称する男の横をさっさと通り、授業終了と称して帰る。

 これは最早、誰にでも通じるものだと、集団で確信を得ていたのだ。

 だが、それは早々に破られた。

 これ以上の対自称先生用の策など、用意していないのだ。

 「さあ、おトイレタイムが終わったら、帰っておいで。授業はしてあげるから」

 その言葉を聞くや否や、生徒達は駆け出した。

 この研究棟から出ようと。

 あの、今までとは違う“化け物”から、逃げようと。

 「初回の授業は追いかけっこか。いいよ、やろうじゃないか」

 ルカは早々に逃げ出した生徒より先に、残っている生徒の捕獲から始めた。

 全十人と言われたクラスの内、既に六人は捕獲できる状態にいた。

 「この中で、拘束魔法を使えるものは?」

 六人の逃げようとした先に立ち塞がる。

 誰もがその姿に恐れ、言葉が出なくなっている。

 「ちなみに、いない場合は一人一人の足を撃って、動けなくするまでなんだけどな〜」

 「わ、私が使えます」

 「じゃあ、早く縛って」

 「は、はい」

 その中の一人、水色の髪を左側に、短く纏めている少女が手を上げる。

 ルカは、逃げ出そうとする生徒に向けて銃を向け、一つに固まるようなジェスチャーをする。

 「ほら、そんなに離れていると、足を撃つことになるよ」

 「は、はいっ」

 一つに固まった五人を、魔法によって生まれた縄で強く、それは怨念をぶつけるかのように縛る。

 「い、痛いです」

 「あれが当たっていたら、俺はもっと痛かったかもね」

 完全に被害者のような顔だが、協力者であることに違いはないため、加減をすることはなかった。

 そう、ルカは最初の“あれ”を、相手にとっての弱みとして利用しようと考えた。

 「じゃあ、君にはついてきてもらうから」

 そう、指をさしたのは、縄を出した水色髪の少女。

 「わ、私ですか?」

 「当然。縄がなかったら縛れないしね。あっ、断ってもいいよ? そしたら、ここの子達の足を」

 「い、行きます」

 「頭がいいね、さすが特待生」

 すると、ルカは少女を片手で抱きかかえる。

 「右手で足を持つから、首に巻いている手は離さないでね。落ちたら怪我しちゃうから」

 「は、はいぃぃぃっ?!」

 少女が首に腕を巻いたのを見ると、すぐに足を使って加速する。

 短い廊下をすぐに抜け、研究棟からは出て、辿り着いたのは教育棟の中であった。

 他の生徒が授業をしている中、少女を抱え、銃を片手に駆ける様は、真っ当に座学をしている教授からしたら異様な光景のそれであった。

 「Kクラスは?」

 「……」

 恐怖のせいか、あるいは加速による風圧か、どちらにせよまともに口が開けられなくなっている少女の目には、小さな雫が溜まっていた。

 「階段登った二階の、上がってすぐ隣だね?」

 「……」

 だが、そんな中でも何とか返事をしようと頷く。

 恐らくも何もなく、これは恐怖によるそれであった。

 階段のある一番奥まで駆け、そこから早く、小刻みに階段を登っていく。

 ペースの乱れぬ駆け上がりは、ルカにとって学生時代の訓練を思い出させるものであった。

 そんな時は、学生時代のように早く過ぎ去り、気付けば教室の前であった。

 「さあ、開くぞ。せーのっ」

 ルカが思い切り蹴ると、扉を抑えていたらしき生徒が、きゃっ、という甲高い声と共に後ろに吹き飛ぶ。

 中は、横に長く繋げられた机が横に三つ、縦に五つあり、その間に通り道として階段が置かれている、ルカの立っている位置からすると前の方が下り坂となっているような配置となっていた。

 人数の割には大き過ぎる教室、そして、その前方に集まる生徒。

 三人。

 「二方向にしか別れないなんて、撹乱にすらならないで包囲されるよ……ん? 君は確か、ミアとか言ったね?」

 「……」

 扉と共に後ろへ飛ばされていたのは、キャラメル色の髪で三つ編みを結っている、今まで見た生徒で唯一セーラーの服を着ていた、つまりは誘導員であった。

 「アイヴィー!? ちょっと、アイヴィーを離してよ!」

 前方にいた、桃色の髪をした少女は、声を張る。

 今、自分の身すら危うい状況だというのに、友達のために声を張れるほどの度胸。

 リーダーシップとも言うべき素質があることを推測をするルカだが、それ以上は考えなかった。

 「アイヴィー? ああ、この子ね。そうだな……この子は人質だ」

 「ええっ!?」

 一番驚いていたのは、その抱きかかえられている、アイヴィーと呼ばれた水色髪の少女であった。

 「さあ、降伏して大人しく体育館に戻るんだ」

 「い、嫌よ! あんたみたいな、軍学校出の猿の言うことなんか、誰が聞くか!」

 「そうだ! これでも喰らえっ」

 少女の隣に立つ、恐らく、最初に雷魔法を撃ってきたと思われる少年が、杖を出して再びルカに向けて魔法を放つ。

 しかし、突発的に出したもののため、それは見えない膜によって簡単に防がれてしまった。

 「雷魔法か。よく見るから対策はできるけど、厄介そうだから始末させてもらうね」

 アイヴィーを地に下ろすと、茶色い革製のウエストポーチから、青白い光を纏った弾を手に取り出す。

 そして、ブリーチ部を閉めると、撃鉄を引く。

 「ま、まさか、子供に向かって銃を……?」

 「なあに、ちょっと痛いだけ、さっ」

 魔法を返すかのように、容赦なく引鉄を引いた。

 火薬が爆発した、大きな音が部屋中に響き渡る。

 茶髪の、雷の使い手であった少年は防御魔法を使うが、弾はそれをすり抜ける。

 「な、なんでっ」

 「やっぱり、対魔法用の防御魔法しか教えられてない、か」

 小さく呟いた声に気付く者はいない。

 何故ならば、隣にいたアイヴィーですら、発砲に絶句して、手で顔を覆っているからだ。

 防御をすり抜ければ、当たるのは少年の胸であった。

 「うっ」

 当たった瞬間、その場で胸を抑えて倒れ込む少年を、周りの九人は見ている。表情には驚きしかない。

 アイヴィーは衝撃を受けたような顔で、それでも心配なのかベネットの下へと近寄っている。

 「う、うそ、でしょ?」

 「ねえ、ベネット? ベネット!」

 そんな中、ルカは近くに倒れているミアを担ぎ、近寄っている。

 「安心して、死んだりはしない。そもそも、貫通すらしない。ちょっと痛いだけ」

 「なっ、あ、あんたっ! もし、ベネットになにかあったら」

 「この仕事を辞める、それで解決」

 「っ……!」

 優雅なステップの勢いで口から出したような、軽い口調に怒りの目線を向ける少女。

 だが、それをも気にせずに、ベネットとの距離をゆっくりとだが、詰めている。

 「と、止まりなさいっ! さもなくば」

 「俺は、君が防御魔法を貼る前に撃てる。ちなみに、今度は実弾だ」

 「っ……」

 「う、うぅ」

 この睨み合いを傍目に、ベネットは起き上がる。

 「ベネットっ、大丈夫!? 血は? 痛みは!?」

 「ち、血は……ない」

 「ほらな?」

 ルカはその光景を見下ろしている。

 撃たれた箇所を確認するが、本当に何もなく、跳ね返った弾が落ちていた。

 それを拾い上げる。

 「対魔法用弾。対魔法用の防御魔法しかなければ、実弾という利点によって貫通し、当たった人の魔法を無にする。まあ、本来の防御魔法を使っていれば、簡単に防げるから、実戦向きではないけどね」

 「それって、どういう」

 「防御魔法を使わないから、魔法使ってみてよ、クソガキ」

 「なっ、てめえ!」

 少年が近くに落とした黒の杖を拾うと、それをルカに振る。

 その瞬間、ベネットは杖を落とす。

 まるで、痛みから逃れるようにして。

 「いっ、つ」

 「そういうこと」

 黒の杖には、青白い光すら集まっていない。

 「フられたね、雷小僧」

 「そんな、魔法が」

 「さあ、この子の二の舞になりたくなければ、大人しくお縄にかかりな、君達? ちなみに、逃亡したらどんな防御魔法も貫通する特殊弾を使って、一生魔法の使えない身体にしてあげるから」

 ルカは、今までよりも高く、声を上げる。

 今の、ベネットへの容赦のない攻撃や、宣言の内容に震え、怯える生徒は他の三人であった。

 「アイヴィー、縄を」

 「……」

 「聞こえてる? 縄だよ、縄」

 銃身でコツコツと頭を軽く叩くと、それを見て小さく震え、ひいっ、と小さく悲鳴を上げてその場に座り込み、その手元に縄を出した。だが、それと同時に股の部分から出たものを、ルカは見て見ぬ振りをした。

 光に包まれた縄で、担いでいたミアと、アイヴィーを含んだ四人を強く縛ると、手を叩く。

 「これで全い……」

 達成感に満たされ、あの五人の元へ強制連行しようとした矢先、何かが頭の片隅にあった。

 人数が合わない。

 「ねえ、クラスの人数は?」

 「……」

 「十人、だったよね」

 先程の、桃色の髪をした気の強い少女は、無意識だが首を振る行為をしてしまった。

 「だよね……つまり」

 それで確信を得たルカは、その片隅にある疑問の結論へと辿り着いた。

 そう。

 一人足りない。

通学の暇潰しで書いてるので、いつ失踪するか分かりませんけど、なるべく頑張ります。

けど、物語の畳み方は考えているので、とりあえずそこまで行けたらと思います。


最後になりますけど、なぜ本文で「10」みたいな数字を「一〇」で表現しないかと言うと、単純に僕からしたら見にくいからです。

なので、「一〇」みたいな表現は、「二〇〇〇年」みたいな、年を表すときに使いたいと思ったんですけど、この物語は皆さんお分かりの通り、ヨーロッパ風世界を舞台にしているので、漢数字より普通の数字を使いたいんですよね。

つまり、上記の表現は使いません。

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