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ⅱ話「仕事」

 「君達、国連を目指しているようだね?」

 「そうでもしねぇと、行き先がないですからね」

 「お喋りより、さっさと始めろよ」

 ルカの向かった先では、身なりだけは軍人風の若い青年達が、砂に吹かれて待ちぼうけていた。

 「上の人間への口の利き方も分からないんじゃ、どこも受け入れてくんねぇぞ?」

 「ああ、すぐにでも上に行けるので、そういうのを習っていないんですよ、腑抜け先生」

 「腑抜け?」

 ルカは、ふらふらと定まらない身体を固める。

 目はそれを言った、砂で汚れた白いシャツを着た、ガタイのいい金髪の男を睨んでいる。

 「国連から落ちこぼれてふらついてるって聞きましたよ? そんなのが腑抜けじゃなくてなんだと?」

 「……どうやら、本当にお喋りは必要ないようだ。身体に国連の厳しさを刻み込んでやる」

 「おう、それを待ってたんだ」

 その言葉を合図にしたかのように、ケラケラと笑い出したり、逆にオドオドとしているといったような、極端な三集団を見回す。

 (さっきの金髪が仕切るアホ集団に、頭のイカれた集団、動けなさそうな集団で、六四五の全十五人か……まずは)

 ルカは、思考を整理すると、始めの合図のように勢いよく飛び出す。

 青白い光を纏った足は、先程までその場にいたルカを瞬時に移動させ、気付けば二集団の後ろで固まっていた、自主性のなさそうな集団の後ろにいた。

 「これが戦場だよ、諸君」

 そう言い放ったのを確認しようと後ろを向こうとしたその時には、その一人の足に弾が入っていた。

 血が溢れる革靴を見て、他の三人が更に怯えだす。

 「は、はあ、はあっ」

 血を止めようとしゃがみ、痛みを和らげようと呼吸をしている、平均より髪の伸びた眼鏡の青年の肩に足をかけ、後ろに倒す。

 腕で足を抱え、苦しむ姿に、他の集団も思わず立ち止まった。

 「いいか、国連は無能の受け皿じゃない。ちゃんと覚えておくことだ、なっ」

 ルカは肩にかけていた足を、隣にいた、同じような見た目の痩せた青年の顔に向ける。

 青年は何かを言おうと口を開けていたが、それが災いし、見事に頬が口内に入り込む。

 その顔は、頬の部分だけ凹んでいた。

 「面白い絵が描けただろうな、その顔」

 人一人分ほどの距離まで吹き飛んだ、頬の凹んだ青年を見て、次は自分の番かと身構え、顔を守ったもう一人の青年の、その痩せた腹を思い切り蹴る。

 「があっ、は」

 今度は、相当な距離飛んだ。

 飛ばされた青年は、腹を抱えながら、横になって蹲る。

 その横で逃げる仕草を見せた者の右足の関節を、銃床で強く殴る。

 骨が折れたのではないか、と思うほどに強い音が響くと、その場でよろけて倒れ込む。

 最後の一人は、銃床で下腹部を叩き、踞ろうとしたところで見えた項に、再び、今度は力強く銃床をぶつけた。

 「蛙のようだな」

 そう言ってケラケラと笑うルカに、先程までの余裕そうな表情をしていた二集団は、その余裕を見せなくなっていた……いや、正確に言えば、見せられなくなっていた。

 「面白くない。次は?」

 「ぜ、全員でかかるぞ!」

 さっきの、真っ先にルカに向けて喧嘩を売った金髪の青年の合図で、二集団が連携を取ったかのように銃を構え、放とうとするが、狙っていた地点にルカはもういない。

 「ど、どこに」

 「ここさ」

 「なっ……はあっ」

 声が聞こえた先を見ると、そこは不健康を写したかのような、背だけ高い情緒不安定な―ルカ曰く、キチガイ―集団の一人の後ろにいた。

 軍に入るにしては伸びすぎな黒髪を思い切り掴むと、それを引っ張り、勢いよく地面に倒す。

 それから、顎に銃床をぶつけると、その衝撃でか気を失いかけていた。

 「まず、その髪で軍は無理だ。剃るんだな」

 「て、てめぇ!」

 同じく、髪を掴もうとした、両隣の同じような奴らだったが、明るい茶髪があったはずの地点に、ルカはいない。

 「そして、魔法反応に気付けないで、近接格闘で掛かろうとしてる時点で、もう希望はない」

 「はあ!? て、てめえ、さっさと出てき、いいぃぃ?!」

 怒りか、或いは狂ったのか、呂律が回りきっていない叫びをあげていた男の肩に、銃弾が撃ち込まれる。

 銃声の方を向くと、そこには、銃でなければ届かない距離まで移動したルカが、銃を構えている姿があった。

 瞬時に移動したそれは、常人のなせる技ではない。

 「ほれ、もう一発」

 そう放つと、近くにいた不健康な男の腕にも撃ち込む。

 「ぐう、かぁはっ!」

 吹き出る血を片手で抑える。

 白のシャツが、徐々に徐々にと色を変え、片腕だけは赤く染まっていた。

 「ひ、ひいっ! お、おらあ、もう軍なんて目指さねぇから、許し」

 「そら無理でしょ」

 狂った集団の一人が、目を覚ましたてのような、やはり回っていない呂律で、しかししっかりと叫ぶ。

 だが、それを話している間には、既にルカは隣にいる。

 笑顔で、足を上げ、それは背中に勢いよく当てられる。

 「うぐっ」

 地に倒れ込む男の尻に、銃弾を撃ち込む。

 「ぐあああぁぁぁ!」

 「騒ぐなよ、穴が増えたんじゃないんだから」

 厚い紺のズボンでは、血は目立たなかったが、それでも流れているのが分かるくらいには、一部分が濡れている。

 既に十五人中の九人を、二分かからずに瀕死に追い込んでいる。

 しかも、それは今までの彼らが受けてきた体術訓練を例とした様々な訓練の比ではない程の、痛みと苦しみに満ちたものであった。

 この光景を見た、六人組は、足を震わせる者、逃げる準備をする者、それでも銃を構える者と別れていたが、その中で一番人数が少ないのは、最後の者だ。

 「ば、化け物だ……勝てるわけがない」

 「に、逃げよう! 俺達は法で守られてんだ、逃げたって」

 「そ、そうだ! 逃げたって、なんの問題も!」

 「あ、ああ、逃げよう」

 「あっ、ああ、ああ」

 戦意が失われ、統率の「と」の字もなくなった集団が放つ、負と諦めの空気に、それでも立ち向かうのは、やはり最初に喧嘩を売った金髪だった。

 「ば、馬鹿野郎! こいつを倒さなきゃ、俺達は負け組だと認めたことに」

 「ああ、負け組さ」

 ルカは、逃げ出す三人と、震えた足で動けなくなる二人を眺めながら、最後の一人に近付く。

 「逃げた奴を追撃はしない。逃げたきゃ逃げろ」

 「「「う、うわあああっ!」」」

 三人は、叫びながら逃げ、残った二人も、震えのせいで重く感じる足をなんとか上げ、徐々に動き出す。

 孤立。

 今まで、同じようにルカを、それだけでなく他の教官と呼ばれる者達を心の底から馬鹿にし、訓練すら誠意を出さなかったことで、満足感を得ていた仲間達が、今までの行いを裏切るかのように去っていくのを見て、その間接的に伝わる恐怖感に襲われ、目を大きく開く。

 「さて、一対一だ」

 「く、くそっ、くそおっ!」

 金髪は、その目を細めることで、少しでも恐怖を拭おうとしていた。

 だが、それで拭えていたら、楽だった。

 ルカと同じようにブリーチ部を閉め、防御魔法を唱えると、ルカへと狙いを定める。

 赤い上着は目立っている。

 当てられない。

 遠くへ、遠くへと飛ぶ。

 気付けば耳元に。

 「瞬時に防御魔法を使ったのは、流石だろう。相手が少年兵なら、褒めてもいい」

 「はあっ!」

 その一瞬の出来事に、完全に頭の理性を壊された金髪は、まるで耳の周りを飛び回る虫を落とすかのように、銃を斧に見立てて振る。

 しかし、狂った手先では上手くルカを捕まえられない。

 ルカは、銃を振り続ける金髪を見ながら、銃口の少し下に刃を着ける。

 その、銃身の半分を超えたほどまでに伸びた、鋭い刃を金髪に向ける。

 「さよならだ」

 足を金髪のいる方向に向け、真っ直ぐに飛び出す。

 一瞬で金髪に近付き、銃を振っているせいで疎かになっている腹の辺りに向けて、勢いに任せた蹴りを入れる。

 それによって、後ろに飛ばされ、背中を強く地に打つと、気を失いそうになる。

 最後に見た光景には、天高くから剣を突き刺そうと銃身を持つルカであった。

 「や、やめっ……!」

 ルカが地面に刺さる直前で止めたのを見ることなく、金髪は気を失った。

 股間部が濡れ始めたのを気付いたのは、ここには誰もいなくなった。

 「さて、最後の仕事をするか」

 ルカは、金髪から少し歩いたところ、つまりは逃走兵共に少し近付いた地点で弾を入れ替え、入れた部分の少し上に目をやり、立膝でしゃがむ。

 銃口は、逃げ出した男達の踵に向けられた。

 五発分の銃声が、何もない、広い砂と草の広場に響いた。

 遠くでは、踵の痛みに倒れ込む男と、足裏を抱える男がいたが、撃った本人はゆっくりと立ち上がり、金髪の背を踏みながらバラ撒いた薬莢を回収して、銃身を肩に置くようにして銃を抱えた。

 火薬の匂いが、砂煙に混ざって広場を舞っていた。

三日に一回のペースで投稿の予定でした。

もう五日目になろうとしています。

どうしてでしょうか。

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