『にほん』への第一歩
昨日の晩が王国の料理であったためやはり次は『にほん』風の食事かもしれないという期待をしてしまっていたのだが、これに関しては『日本』の食事が美味しすぎるのが悪いのであってわたくしが悪い訳ではない。
これから否が応でも三食『にほん』での食事となる為今日から一週間王国の料理は食べれなくなるのだが、最早一生『にほん』の食事でもかまわないとすら、わたくしは思うのであった。
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「では、これより点呼を行う。名前を呼ばれた者は返事をするように」
執事のローゼンにより全員が大広間に揃っているかの点呼を始め、名前を呼ばれた者は元気とテンポよく返事をしていく。
その光景から『早く行きたいっ!』という皆の気持ちがダイレクトに伝わってくるのだが、わたくしもそう思っている一人である。
そう思っている一人であるのだが、その逸る気持ちとは別に違う緊張が今わたくしを襲っていた。
「良いか、シャーリー。絶対に俺から離れるなよ?」
「は、はい」
「恥ずかしいかもしれないが、はぐれてからでは遅いから手は必ず握って歩くぞ。なんなら紐を付けたいくらいなのだが流石に世間の目もあるからな」
「は、はい」
もう何度同じ事を聞いたであろうか。
旦那様がわたくしをまるで子供に対する注意事項を何度もわたくしへと言い聞かせる様に言ってくる。
それは良いのだが何故だか旦那様から子供扱いされているのでは?と思うと少しだけ悲しくなるわたくしがいた。
腹が立つのではなく、悲しくなるという摩訶不思議な感情の変化に自分の事ながらその原因が分からないのが何だかもどかしく感じてしまう。
「ほら、旦那様もしつこいと嫌われますよ」
「そうは言ってもな……」
「心配なのは分かりますけど私達もちゃんと奥方様をサポートしますから」
「ルルゥは逆にふらっと居なくなってそうで一番迷子の心配しているんだが?」
「何故ですっ!?」
「では、俺達は先に行って向こうで皆が来るのを待つか。鳥居がある部屋で混雑するのも避けたいしな」
そんな会話をしつつ旦那様はわたくしの手を取り、こないだの変わった形の転移門のあった部屋へと移動する。
そして今から『にほん』へ行くというのにわたくしは旦那様に握られた手が汗をかいていないか、と今まで他人と手を握る時にそんな事を一度も気にして手など握った事が無かったのにも関わらず何故か今日だけは手汗を気にして不安に思う。
その事を何故だと考えた所で答えなど出る筈もなく、わたくしは『にほん』への第一歩を踏み出すのであった
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