黒い水
「はい、生卵でございます。奥方様」
「茹で卵ではなくて………?」
「生卵でございます」
生卵だと言い切るルルゥに思わず聞き返してしまったのだがこの卵が茹で卵ではなくて生卵であるという驚きは消えてくれない。
むしろ生の卵を食べて大丈夫何かという心配の方が大きい。
コレが貴族界のパーティーであった場合一人だけ生卵というのもありえそうなのだが、わたくしはシノミヤ家の人達を信用してみたいと少しだけ思ってしまう。
「まぁ、外国人からすれば日本食で出される関門はホテルの朝食で出される生卵か納豆だしな。無理そうならば茹で卵にしてもらうが?一応生卵が残った者や茹で卵が食べたい者は茹で卵に変えてもらっているから気にする事はない」
『ここでは俺が外国人なんだが』と言いながら旦那様がこの生卵を茹で卵に変えてくれると言うではないか。
思わずその提案に乗りそうになったのだが先程のわたくしの決意を思い出す。
わたくしはもうシノミヤ家の人間であるのだ。
「い、いえ。そのまま生卵で大丈夫で御座います」
「まぁ、無理するなよ」
そしてわたくしはようやっと朝食を食べ始める。
まず初めに『さけ』という魚の切り身を焼いたものから手を出そうとするのだが、周りの方達が黒い水の様な物を焼き魚へかけ、隣にある何かを擦り下ろした白い物を上に乗せて一緒に食べているではないか。
あんなにも黒い水は身体に悪く無いのか?と思いつつも毒を喰らえば皿までだと黒い水が入った小瓶を手にして見よう見真似で焼き魚へと垂らす。
怖いので数滴なのは許してくださいまし。
とりあえずは黒い水をかけていない反対側を食べてみるとフワフワの身に『さけ』という魚の持つ独特の風味がある油の味が口いっぱいに広がって行く。
美味しいのは美味しいのだが、ほんのりと塩味が付いているだけで薄味と言えよう。
それに少しだけ油がしつこい気もする。
そして次は黒い水をかけた箇所に何かを擦り下ろした白い物を乗せて口へと入れる。
「お、美味しい………美味しいですわっ!」
「当たり前だよっ!なんてったってこの私が作った料理だからねぇっ!しかし、自分の作った料理を褒められるとそれが誰であれ嬉しいもんだねっ」
わたくしが美味しいと言うとリンダさんが嬉しそうに微笑みながらそんな事を言ってくる。
どうやらこの料理はリンダさんが作った料理みたいである。
そして何と言ってもあの黒い水である。
初めて味わう独特の味であるのだが油の甘味で緩くなった味を一気に引き締めてくれる。
そして、それでも少しばかり多いと感じてしまう油のむつっこさを何かを擦り下ろした白い物で中和してただの焼き魚であったそれをまるで貴族界のパーティーに出てもおかしく無い程の料理へと変貌する程の変化であった。
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