温かな気持ちになる
「何をそんなに怯えてるんだ?これでは俺が日頃嫌がらせをしているみたいだな」
「す、すみませんっ………」
あぁ、旦那様を怒らせてしまった。
わたくしはいつもそうだ。
間違いに気づき指摘しようとしただけなのだけれども、いつも周りを不快にさせてしまっていた記憶しかない。
「ほら、そんな怯えた顔だとせっかくの綺麗な顔が台無しだろ?」
「…………………………………………へ?」
きっと怒鳴られ怒られこの家から追い出される、そう思い身構えていたわたくしだったのだが、実際はわたくしの予想と反して旦那様の大きな手がわたくしの頭にぽすんと乗せられたかと思うと泣いた子供をあやすかのようにやさしく撫で始め、そして優しい声音で綺麗だと褒めて下さった。
「え?ちょっ!?おいっ!?俺が何か嫌な事を言ったのならば謝るっ!だから泣かないでくれっ!」
ただ優しく頭を撫でられ、優しい口調で褒めて貰ったのが思っていた以上に嬉しくて、また不意打ちだった事もあり今まで張り詰めていた緊張感など一気に霧散してしまうと今まで溜めこんでいた物が内側から一気に涙として溢れ出てしまう。
「あぁー、旦那様が奥方様を泣かせたーっ!」
「か弱い女性を泣かせるなんて酷いな」
「その歳になっても女の気持ちが分からないからその歳まで独身だったんだよ、全く」
「俺かっ!?俺が悪いっていうのかお前たちっ!!」
「「「「「うん」」」」」
「なっ!?」
「そもそも顔がいつも怒っている様で怖い」
「いつもぶっきら棒な口調で怖い」
「態度が怖い」
「身長が高くて怖い」
「お、お前らなぁっ!言わせておけば────」
そんな、ぽろぽろと泣いているわたくしに狼狽える旦那様という構図が面白いのか使用人たちがここぞとばかりに旦那様をいじり始め、それにいちいち反応する旦那様。
その光景を見て『あぁ、この方たちは貴族や平民、雇う側と雇われる側など関係なく仲が良いのだな』と思うのと同時に、いつかわたくしもあの輪の中へ入りたいなと思ってしまう。
「いえ、いえ、違うのです。悲しくて泣いているのではなくて、嬉しくて泣いているのですわ」
「ほら見ろっ!!俺のせいでは無かったじゃないかっ!!」
「いや、悲し涙かうれし涙かの違いはあれど泣かせたのは間違いなく旦那様だよっ!ほんっとうに女心が分からないやつだねぇっ!」
「いいから早く飯食おうぜっ」
「お、お前たちと来たら………はぁ、分かった分かった。ほら、シャーリーも椅子に座って冷める前にご飯にしよう」
そう、旦那様に手を引かれて一緒に食事をしようとこの陽だまりのような団らんの中へ連れて来てくれる。
それはまるで、家族の一員へ迎え入れて貰ったような、そんな温かな気持ちになる。
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