説教三倍
そして、楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去るもので、気が付けばお茶会の時間は終わりを迎え、皆様馬車にのり帰って行く。
その際さりげなくシャーリーの馬車へご一緒しようとしたのだが鬼の顔をしたメイド長に肩を掴まれてしまい、長い長い説教が始まる。
このメイド長の説教は一度始まると日が暮れて夜が明けるのではないかと思う程長いので面倒くさい物に見つかったものだと、その点だけは反省し、次に生かそうと思う。
やれ『誘拐されたと勘違いしたらどうなるのか少しは考えないのか?』やら、やれ『勝手についていった場合相手方には失礼だと思わないのか』やら、やれ『その結果我が家が常識のない家だと思われでもしたらどう責任を取るつもりなのだ?』などと、言われたのだが、私とシャーリーの仲である。
私とシャーリーは今日一日で『親友』と言っても過言ではない間柄になったとわたくしは思っております。
親友ならば別にアポイントを取る必要などないであろうし、むしろアポイントを足らずに出向き、びっくりさせる方が喜ばれる場合だってあるのだ。
そんな事も知らないのなんて、メイド長は寂しい人生なのね。 そんなのだから一向に良い人が出来ないのではなかろうか。
「何か言いましたか?」
「い、いえ。 何もないですわ」
「そうですよね。 先程からお嬢様の思考が口から駄々洩れで『メイド長は寂しい人生』ですとか『そんなのだから一向に良い人が出来ない』だとか聞こえた気がしたのですが、お嬢様がそうおっしゃるのならば、きっと気のせいで、私の聞き間違い──」
「そ、そそそそそ、そうに決まってますわっ! 聞き間違いですわっ! きっとメイド長は頑張り屋さんでいつも人一倍頑張ってお仕事をしてらっしゃるので疲れているのでしょう。 私の事はもう大丈夫ですのでお休みになってはいかがでしょうか?」
「──などとお嬢様の話を信じるとでも思いましたか? 私はお嬢様の言い訳よりも自分の耳を信じますので。 それでは、説教三倍で行かせて頂きます」
「そ、そんなっ!?」
うぅ、大変な目に合いましたわ。
説教されすぎて頭がくらくらする。
そんな事を思いながらわたくしは父上がいる書斎へと向かう。
その手にはシャーリー様から『お父様とお母様にお渡しください』と言われた『びーふわさび』と『かきぴー』、そして瓶に入ったエールを二本持っていた。
「お父様、私です」
「……入れ」
そしてわたくしは書斎の扉の間へまで行くと、ノックを三回、お父様の返事を聞いてから入室する。




