こんな生活から解放されたい
「そう申されましても、わたくしはもう他の家々に睨みを効かせる理由も無ければ、もともと男爵という低い家格ですので見下されないように気を張る理由もございませんもの。 見下したい方は見下してくださっても実害など無いに等しいにも関わらずわざわざ精神的にも疲れる腹の探り合いや嫌味の言い合いなどの相手をする意味が分かりません。 それに、それらのしがらみから解放された今の生活が快適過ぎて、元のように過ごすなど考えられませんわ」
そうわたくしが返すとペトラは一瞬だけ目を見開き、俯いてしまう。
「正直、羨ましいですわ。 私だってあなたのように着たい衣服を着て、見下されてもいちいち言い返さずに無視して、こちらからもわざわざ口撃する必要もない生活を送りたいと思いますもの。 ですがわたくしたちは舐められたら終わりですので常に見栄をはり、言われたら言い返し、弱みを見つければ攻撃して、逆に決して弱みを見せず、歩き方から話し方まで全てにおいて決められた枠組みで過ごさなければならないこんな生活から解放されたいと幾度思った事か……」
そしてあのペトラが他の令嬢もいるにも関わらず、自身の弱さをさらけ出すではないか。
流石のわたくしもこうなる事は想定しておらずおろおろしてしまう。
こういう時に旦那様であれば気の利いた言葉をスッと言えたのだろうか?
そして、この状況をどう対処して良いのか分からないのは他の令嬢達も同じなようで、少しずつざわつきが大きくなっていく。
「そ、そうですわっ!! どうせわたくしに対して見栄を張ったりマウントを取ったりする必要性はあまりないと思いますので、ペトラ様さえよろしければわたくしの前だけでも貴族令嬢のしがらみなど忘れて過ごして頂くというのはどうでしょか?」
はやくこの状況を何とかしなければ、ペトラ様に至っては泣きそうになっているような気がするので思わずそんな事を言ってしまったのだが、その瞬間ペトラ様含めた周りの令嬢たちの目が輝いたように見えたのだけれども気のせいでしょうか?
「じゃ、じゃあわたくしの事はこれからペトラと呼んでくださいましっ!!」
「そ、そんなっ、流石に恐れ多いですっ!!」
「あら? 先ほど申した事は嘘だと言うのですか?シャーリー様がまさかそんな方だなんて……よよよ」
「わ、分かりましたわっ!分かりましたからウソ泣きは心臓に悪いので止めてくださいましっ!! ペトラ様のメイドさん達が遠くの方であからさまに聞き耳を立てながらこちらを訝しげに見ているではございませんかっ!!」




