溜息も吐きたくなる
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まるで夢のような一週間であった。
わたくしの身の安全の為という名目ではあったものの、一週間で戻るという事を考えればむしろ一人着の身着のまま嫁がされた私の事を考えて気分転換に小旅行というのが主な目的であったのだろうと、最終日になりようやっと理解できるくらいには、嫁いで来た初日と比べてかなり精神的に楽になれ、客観的に物事を見れるようになったのだろう。
そしてこの小旅行を旦那様がわたくしの事を考えて企画してくださったと思うと、胸のあたりが温かく、そして幸せな気持ちがいっぱいになり溢れ出て来てしまいそうである。
そして、この一週間を思い出せば、楽しい思い出と美味しい料理の数々が大量に思い出されて来て、そしてまたわたくしは幸せな気持ちになる。
嫁ぐ前はそれこそ死にに行く覚悟で四宮家を訪れたのだが、今となってはここへ嫁ぐことができて幸せだと心からそう言えることが出来るのだから人生どうなるか分からないものである。
そんな事を日本ではなくグラデリア王国側の四宮家の母屋、その縁側で池を見ながら思い出していた。
初日の事も昨日の事のように鮮明に思い出すことが出来るくらい、全ての日常が夢のようで、そして驚きの連続であった。
「奥方様、招待状でございます」
「招待状?」
そしてわたくしは思い出を噛みしめながらゆっくりと時間を過ごしていたのだが、そんなわたくしにミヤコが、わたくし当てに招待状が届いたと封筒を一通持ってくるではないか。
「おそらくお茶会の招待状かと思います。 そうですね、このシーリングスタンプに使われている家紋から見るに、伯爵家であるクヴィスト家であり、恐らくペトラ様からではないかと推測します」
そういうミヤコの説明を聞きながらわたくしはペーパーナイフで慎重に封を開ける。
ここに嫁いできた時点でわたくしにとって貴族社会とは切り離されたものとばかり思っていたのだが、こうして未だに繋がっている事を考えると思わず辟易してしまう。
最初こそその事を寂しく思ってはいたのだけれども、無くなったものと思っていた今となっては『面倒くさい』がどうしても前に出てきてしまう。
そもそも車ではなく馬車で、しかも数日かけて向かうのも、当初こそ美味しいと思っていた菓子類も日本で食べた菓子類と比べるとどうしても見劣りし、そして何より集まった令嬢たちの顔色を窺いながらの会話をしなければならないと思うと溜息も吐きたくなるというものである。
しかも公爵家から男爵家へと嫁いだわたくしは格好の嘲笑の的であり、それ目的で呼んでいるのだという事がひしひしと伝わって来る。




