草で編んだ様な床の上で土下座
それがこの家のルールであるのならば嫁いできた私は守らなくてはならない。
そして恐らく、間違いなくこの家にはわたくしには知らない仕来りや暗黙の了解といった目に見えない、かつ今まで培ってきた常識が通用しない独自のルールが存在するのであろう。
故に、わたくしはここへ嫁がされたのだという事なのだと納得する。
シュバルツ殿下かお父様か、はたまたその両方であるかは定かではないのでが間接的に『お前の今までの人生で培って来た様々なモノは全て無駄であった』という表れであるのだろう。
そんな事などシュバルツ殿下から婚約破棄を受けたその時からわたくしはそう思っていたにも関わらず、嫁ぎ先までこれでは一体わたくしは何のために産まれて来たのか。
何でわたくしを産んだのか。
何で今まで育てて来たのか。
何でシュバルツ殿下と婚約させたのか。
婚約破棄を受けてから何度目かの『何で』が頭の中を埋め尽くして行くのだが、今現在わたくしの目の前にはわたくしの夫となる者がテーブルを挟んで座っている為かぶりを振り頭の中を埋め尽くし始めた様々な『何で』を取っ払うとそのまま対面まで行きそのまま何かの草で編んだ様な床の上で土下座をする。
「………何の冗談だ?」
そんなわたくしの姿を見て旦那様になられるお方は不機嫌な声音で何をしていると問うてくる。
以前のわたくしならばいざ知らず、今のわたくし等この者の一言で殺されてしまう事だってあり得るのだ。
旦那様が床に座っているのがはしたないなど最早どうでも良い事だ。
緊張で震えはじめる身体、筋肉が強張り締まり乾く喉。
そして逃げ出したくなる弱さを押し殺してわたくしは絞り出すように喋り始める。
「わたくしは社交界、貴族界から一歩外に出てしまえば無知な一人の小娘でしかございません」
「それで?」
「わたくしは何も旦那様に望みません。愛人も何人作っても咎めませんし金品が欲しいとも贅沢がしたいとも言いません。ただここに居させて頂ける事をお許し下さい」
何分経っただろうか?
五分のようにも感じるし十五分のようにも感じる。
旦那様の反応が無い無言の時間が長ければ長い程、そのプレッシャーで押し潰されそうになってくる。
「まったく、国王陛下は俺を何だと思っているのか。若い娘の心のケアなど俺に求められても困るというのに。お前もいつまで頭を下げているんだ。もういいから頭を上げろ。これでは俺が無理やり頭を下げさせているみたいで気分が悪い」
「も、申し訳ございませんっ!!」
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