国籍
すると旦那様はわたくしの肩をそっと抱き寄せてくれる。
たったそれだけで恐怖心は消え去り、ガラスの向こう側の景色を楽しむ事ができる。
そしてわたくしの目に入って来るは何処までも広がる『びる』の景色である。
この景色一つ見ただけでどんな者であろうとも分からされてしまうだろう。
王国は『にほん』には勝てない事を。
しかしそれは政に携わる、またはそれに近いポジションの人物が考えるべき事であり、以前のわたくしであればいざ知らず、今のわたくしには何の関係も無い事だ。
この光景を見てただただ凄いという感情と、ここまで発展するまでの歴史を慮る事ができるのも、それら含めて素直に感動できるのも、それら全てあの時わたくしを婚約破棄してくださり、嫁ぎ先をシノミヤ家にしてくれたシュバルツ殿下とわたくしの父上のお陰である。
当初こそシュバルツ殿下だけでなく家族に捨てられたという事と、今までの苦労がまるで意味のない事だとなったショックでどうにかなってしまいそうだったのだが、今では恨むどころか感謝でしかない。
この様な体験を真っ新な気持ちで素直に感じ取る事ができるのも、異国の文化や王国よりも遙かに発達したアーティファクト、そして何よりも体験した事の無い甘美なる食事や飲み物の数々と出会う事ができたのだから。
そんな事を思っていると『エレベーター』という箱の様な部屋はいつの間にか最上階に着いたらしく、「ぽーん」という音と共に扉が開く。
扉の向こうは既に部屋の内部とつながっており、その部屋の中には幾人かの人物が既にわたくし達を待っている姿が見えた。
そして各々わたくしと挨拶した後名刺として、木の板では無くはがきよりも小さな紙切れをわたくしに渡してくるのだが異国の文字で書かれた名刺には何と書かれているのか、当たり前なのだが全くもって分からない。
恐らく大きく書かれているのが名前で、そして貴族階級等が書かれているに違いない。
ようはここからがわたくしの、シノミヤ家の妻としての初仕事に違いない。
そう意気込むのだが、当然異国の言葉など分かる筈もなく全て旦那様が重要な部分は翻訳してくれる。
なんと情けない事か。
恥ずかしさから顔でお湯を沸かせそうな程真っ赤に染まっている事が鏡を見なくても手に取るように分かる。
それでも恥ずかしいからとその場を離れるのは流石に無礼の何物でも無い為必死に耐えながらもどうにかこうにか全ての業務を終わらすことが出来たみたいである。
外を見れば既にオレンジ色に染まっており、わたくしが思ってた以上に時間が経ってしまっていたらしい。
そして本日行われた事を一言で説明すると【わたくしが日本国籍を取得する事により、有事の際は日本国民として国家を動かす事ができる】といった内容であり、その為に必要な手続きを行ったという事である。
勿論それだけが理由では無いのだが。
そして、今のわたくしは王国民では無く日本国民となってしまったという事なのだが今更王国民としての誇りもプライドも何も無い為二つ返事で了承した。
一応わたくしに便宜を図って下さり王国民とし名乗っても良いと言われたのだが、流石に無礼に当たる上に今のわたくしはシノミヤ家に嫁いだ身である。
王国民である理由が見当たらないし、わたくしを捨てた王国の国籍を捨てる事に何ら未練などあろう筈がない。
誤字脱字報告ありがとうございますッ!
ブックマークありがとうございますッ!
評価ありがとうございますッ!
(*'▽')




