悔しいし腹が立つ
「失礼いたします」
そしてメイドに案内されてわたくしの部屋に入って来たのは想像していた通りの人物、男爵令嬢であるモーリーである。
「お久しぶりですね」
「ええ。一か月ぶりでしょうか。しかしながらこれ程早く顔を合わせる事となるとは想像もしてませんでした」
そういうモーリーの表情は暗く、そして怒りの感情を耐え忍んでいるかのようであった。
「そうですね………」
そしてそれは私も同じであろう。
「一応階級的に失礼と分かりつつも公爵家へとこちらからお手紙を出したのですけれども、返って来た手紙の返事は『最早公爵家の人間でない者の事等知らぬ』という一文のみでございました。これが、実の娘に対する親の対応ですかっ」
モーリーはシャーリーの境遇を知って即座に公爵家であるダルトワ家へと手紙を送ったみたいであるのだが、公爵家から返って来た手紙の返事を聞き私は驚愕してしまう。
傍から見ている限りでは娘の事を溺愛していた様にも見えたのだが、実際にはシュバルツ殿下の《・》婚約者という肩書を愛していただけだという事だったみたいである。
もし私の親が婚約破棄をきっかけで昨日までの態度が一変し、私に対して赤の他人の様と接する様な態度をされた上に家から着の身着のまま放り出されたと想像するだけで胸が苦しくなり、自然と涙がこぼれて来る。
そしてモーリーも私と同じ気持ちなの怒りと悔しさを抑え込みながらも涙をその両の目から溢れ出している姿が見える。
当たり前だ。
泣く事が我慢できない位に悔しいし腹が立つ。
「そう言えばシャーリーの行方は分かったのかしら?」
「ええ。最終的な目的地と待遇については既に調べはついてます。シャーリーですがタリム領領主であられるシノミヤ家の妻としてグラデリア王国ラインハルト国王陛下より婚姻が昨日発表されました。この婚姻にはシャーリーの気持ちは一切の配慮はされていないと思います。しかしながら、護衛も付けられず追い出されたという目撃情報もある為、タリム領へ生きて着くことができるのかすら怪しいですね。シュバルツ殿下と公爵家当主グリム・フェルディナン・ダルトワ上卿の性格からして身包み一つで追い出したという事からも間違いなく暗殺計画は立てられ、実行されている事でしょう」
そしてモーリーは拳を震わしながら今現時点で得た情報と、そこから考えられる状況について説明していく。
もし私に王族や公爵家を相手取るだけの力と権力があれば、と思わずにはいられない。
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