考えなくとも分かる事
そして俺は苛立つ感情をそのままダグラスへぶつける。
この事が明るみになれば王位継承など吹き飛び、そのまま弟へとその王位継承権が移行してしまうのは考えなくとも分かる事である。
その『考えなくとも分かる事』をこのダグラスは失敗してしまったのだ。
馬鹿でも分かる事を、分からなかったという言い訳など通用するはずがないし、その様な言い訳などしようものならば即刻打ち首ものである。
「失敗してはならぬと知らず失敗するのと、失敗してはならぬと知っていて失敗するのとでは同じ失敗であってもその内容は大きく変わって来るのは当たり前だよなぁ、ダグラス」
「も、申し訳ございませんっ!つ、次こそは必ずや暗殺して見せましょうっ!今一度この俺にチャンスを頂けませんかっ!?」
「フン、どうだか。あれ程大口を叩いた上でのこの失敗だ。今更『必ず成功させます』と言われても信用できまい?」
そして俺の前で縋るように土下座をし、許しを請いながらチャンスをくれと図々しくも言上して来るダグラスを見下しながらそう問いかけると、恐怖からかダグラスの方がビクリと一つ跳ねるのが見えた。
「シュバルツ殿下ぁー、もう面倒臭いからこいつにもう一回やらせれば良いんじゃないの?もしまた失敗しても全てダグラスの暴走であり、知らぬ存ぜぬを貫けば大丈夫だしぃ、ダグラスだけ罰して終わりでいいじゃない。それよりもあの女がまだのうのうと生きているってのを想像しただけで私、いつ復讐されるか怖くて怖くて夜も眠れないの………っ!」
そんな時近くにいたアイリスが俺にしなだれかかり、涙目になりながら上目遣いで話して来るその内容に、それもそうだなと納得する。
例え失敗しても全てダグラスのせいにすれば丸く収まるではないか。
今までと変わらず使えないのなら切り捨て、使える様であればそのまま使っていけば良い。
こんな単純な事が思いつかないなど、どうやら俺は自分でも思っていた以上に頭に血が上っていたらしい。
その事を反省すると共に、やはり俺にはアイリスが必要であると再確認するのであった。
◆
「ご主人様、いやもう旦那様と呼んだ方が良いか?」
「ご主人様と呼ぶなと言っているにもかかわらず、お前たちは相変わらずそう呼びつつけているのだから例え俺が止めろと言ってもどうせそう呼ぶのだろう?好きにしろ」
「分かって無いなー、旦那様は。勝手に呼ぶのと一応確認を取ってから呼ぶのとでは全然違うよー」
「全く、あー言えばこー言う。しかし何で旦那様なんだ?」
この、俺にズケズケと話して来る平民の男性は俺が異世界で拠点にしている別荘、その庭の手入れを任せている庭師の一人である。
腕は確かなのだが、その飄々とした態度が彼の評価を下げているので勿体無いとは思うものの別に咎めやしない。
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