『かれー』という料理
「それでは食べましょうか。頂きます」
「………神に感謝を」
ミヤーコは食事の準備を終えると獣人間での食事の挨拶なのか、手を合わせて変わった挨拶をするのでわたくしもそれに続くように食事の挨拶を簡潔に済ませ、スプーンを手に取る。
匂いは確かに美味しそうではあるものの見た目だけはどうしようもなく、スプーンが全く進もうとしないのだがミヤーコが涎をたらさんばかりにわたくしが食べるのを律儀に待っている為心を決める。
ええい、ままですわっ!!どうせ殺される運命であるのならばこの料理を食べる事くらいなんてことございませんわっ!!
「っっっ!!?」
その一口はまさに衝撃的であった。
今まで食べたどの料理とも違う、むしろ似ても似つかない味であるにも拘わらず美味しい、いや物凄く美味しいと感じてしまうと同時にわたくしはこの料理に大量のスパイスが使われている事を知る。
元公爵家の娘であったわたくしですら一体このお皿一杯作るにはどれ程のお金が必要であるか想像しただけで眩暈がしそうなくらいである。
おそらく、実家で食べていた料理よりも、王宮でのパーティーで出されたどの料理よりも原価が高いという事が容易に想像できてしまう程にスパイスが使われている事が一口で分かってしまう。
なんと贅沢な………そして、スプーンが止まりませんっ!!
見た目は確かにアレな見た目ではあったのだが、一口食べてしまったらもう元のわたくしには、この料理を知らなかったわたくしには戻れそうにもありません。
わたくしは罪深い女でございます。
「では、私はカレーのおかわりを貰いますねー」
そしてわたくしはこの『かれー』という料理に舌鼓を打ち、お茶を飲みながら食後の余韻に浸っているとミヤーコからおかわりという言葉が聞こえてくるではないか。
「わたくしもっ!!…………わ、わたくしもおかわりしたいですわ」
「かしこまりました。奥方様。沢山作っておりますので遠慮せずおかわりを仰せ下さいませ」
思わず声を上げてしまい羞恥心がわたくしを襲ってくるのだがそれにも増してあの料理をおかわりしたいという欲求が勝り、ミヤーコにおかわりを要求する。
そんなわたくしを見てミヤーコがとても優し気な笑みを浮かべておかわりをよそってくれるのであった。
◆
「では今日はここで野営と致しましょうか。早くて明日の夕方にはつきますので今日一日だけ辛抱して下さいませ」
衝撃の昼を終え、更に四時間ほど進んだ所で今日は野宿をするようである。
野宿する用のテントなどを馬車に積んでいる様には見えない為恐らくこのまま馬車で眠るのであろう。
しかしながら嫁ぎ先の夫も、そしてわたくしのお父様もこのルートを通る事は把握しており必然的に野宿しなければならない事は分かっているにもかかわらず野営用の道具一式が用意されていないという事が何を意味するか、分からないわたくしではない。
恐らく今夜暗殺する算段なのであろう。
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