はじめちょろちょろなかぱっぱ
流石に無言の馬車は疲れてしまった。だが、無事にタウバッハの街に到着した
「ようこそ、タウバッハの街へ」
「物資運搬の依頼できました、クレスです」
「商人ギルドのキースです。それで、物資のほうはどこに?」
「あ、収納魔法ですべて持ってきました」
「え、収納魔法で全部?」
「はい、全部」
「……御冗談を」
「いえ」
「……わかりました。荷物搬入場所へ行きますので付いてきてください」
なんだろう、このやり取りは……多分、キースさんは信じきれないといったご様子。
そんなキースさんには俺一人でついていくことに。
護衛の二人は宿を取ったり帰りの準備をしてくれるという。ガイディンはめっちゃ気が利く仕事のできるヤツだ。
「あの、私は、疲れたので一足先に宿屋へ向かってもいいですか?」
本日初めて聞くナーテさんの声だった。特に何かを手伝ってもらうこともないので俺もガイディンも止める理由はない。
その後、俺がキースさんに連れられてきたのは王都と同じように倉庫が並ぶ場所。そして、その倉庫の中には大量の穀物が貯蔵されていた。
「それでは、こちらの穀物を整理しますのでしばしお待ちください」
どうやら穀物と王都から持ってきた物資を入れ替える手筈のようだ。しかし、時間もかかるし面倒なので持って帰る穀物をまず収納魔法で格納してそれから王都から持ってきた物資を空いたスペースへどんどん出していく。
あっという間に物資と穀物の入れ替えが終了した。
「なっ……」
キースさんはやっと信じてくれたみたいだ。ただ、開いた口が塞がらないのかよだれが垂れていた。
本来ならこの入れ替え作業だけで一日かかる仕事なので、空いた時間を有効活用しようと思っている。
そう、この穀倉地帯の中心街タウバッハには米があるのだ!あ~早く食ってみたい異世界の米。
「あのキースさん」
「……っは!いかがされました?」
「米を食える場所って知ってますか?タウバッハでは米を食えると聞いたのですが」
「米?ああ、コ・メですね。最近は出すお店が少なくなってきているんで、最後の一軒となっているワッフル亭で食べれますよ」
なぬ!米文化があるのに衰退しているのか……けしからんな。俺は米の衰退の原因を調べるためワッフル亭にすぐに足を運ぶ。ただ、そのワッフル亭は閑古鳥が鳴くとても静かなお店だった。
ウェイターは赤毛でそばかすが特徴的な顔をした女の子。パタパタと俺の方によって来る。
「あ、いらっしゃいませ。何になさ……」
「米下さい」
「え?あ、もしかして、コ・メですかね」
「うんうん、たぶんそれ。コ・メで」
それにしてもこの店は随分とさびれているな。正直、味が心配になってきた。
「はい、お待ちどうさまです」
「ありがとう、いただきま……あの」
「はい?」
「これが、コ・メですか?」
「はい、そうですよ」
俺は確かに米としか言ってないから仕方ないのかもしれない。ただ、これはどう見ても重湯だ。
「えっと、コ・メのメニューってどんなものがあるの?」
「メニュー?コ・メはそのドロッとしたのですが」
「……んーそうだな、炊いたコ・メってあるかい?」
「炊く?あーグツグツ煮てますよ」
なんとあろうことか折角の米を煮て食べているのか……けしからん!実にけしからん!
「もしよければ俺にコ・メを料理させてもらえないか?」
「へ?珍しい人ですね。ちょっと待ってください。お父さんに聞いてきます」
赤毛の女の子は厨房へと行き店主であるお父さんと話をつけてきてくれた。
「あんたかい、コ・メを料理させてくれっていうのは」
「ああ、すまないが鍋と蓋を貸してもえらえないだろうか?」
「構わないがどうするんだ?」
「精米してから炊く、そして、にぎる!」
「は?」
どうやら店主は俺の言葉を理解できないみたいだが大丈夫。食えばわかる。
どうやらこの世界でも精米を行っている。だが、肝心の調理方法が煮ているのだ。しかも、煮汁を捨てているのだもったいない。
米のでんぷん成分を米粒にしっかりと閉じ込めることがお米を美味しく炊くコツだというのに、捨てるとは……けしからん!
「ねえ、ぜんぜん煮えている感じがしないけどいいの?」
「大丈夫です」
お嬢ちゃん、始めはちょろちょろで行くんだぜ。これだからトーシローはいけねえ。
「もうできたんじゃない?蓋を取るよ」
「おっと、ダメだ。まだとったらダメ」
お嬢ちゃんよ、蒸すという工程があるからこそ、ふっくらと炊き上がり米本来のうま味が味わえるのだ!どうだ、参ったか。
出来上がったコ・メを俺は手に塩をつけてふっくらとにぎる。
「よし、出来た。食べてみてください」
「どれどれ……うまい!」
「本当だ、これがコ・メだなんて」
俺は店主に調理方法を教えてほしいとせがまれたので伝授する。
「よかったら、これをうちの店で出したいのだが?」
「構いませんよ」
「助かるよ」
「よかったね、お父さん」
勇者たちはこの世界に残るだろうから是非とも米を普及してもらいたものだ。
俺はその後、ガイディンとの待ち合わせ場所で合流して宿屋へと向かう。
本日、俺は異世界の米を堪能することが出来たので満足していた。しかし、靄の様なものが晴れずにすっきりしないのも確かだった。原因は分かってるナーテさんのことだ。裏切られたと思っているが、そう思うこと自体が俺の傲りだとわかっている。俺が勘違いするのが悪いのだ。
気持ちを整理しなくてはいけない、だけど、簡単には出来ないことに苛立ちが募る。
コンコン
夜も更けてこれから寝ようする時にドアがノックされる。正直、面倒くさいので無視をしようとしたのだが。
「ナーテです。あの、クレスさんよかったら……その……」
俺はベットの上に寝転がっていたが飛びあがりドアを開ける。ドアの向こうにはナーテさんがいることは声で分かっていた。しかし、ドアを開けて驚いたのはナーテさんの服装だ。こんな刺激的な服は童貞の俺にはきつすぎる。
「あの……こんな時間にすみません」
「ど、ど、どうしました?」
「えっと……その……」
なんとも歯切れの悪い返事しか返ってこない。俺は半開きドアの向こうにいるナーテさんに動揺して思考停止していた。ただ、この姿を他の人に見せたくない気持ちが湧いてくる。
「入りますか?」
「……はい」
部屋にはイスなどはないのでベットに腰掛ける二人。
少しばかりの沈黙がとても長く感じる。二人とも一言目が出てこないのだ。
「あのお仕事はどうでした?」
沈黙を破ったのはナーテさんだった。俺の方を振り向いてしゃべってくれるがかなり近いので位置での会話に少々荒ぶり始めている。それと、いい匂い!
「おかげさまで問題なく物資の入れ替えは終わりましたので明日の朝には出発します」
「クレスさんは、本当にすごいですね」
彼女の豊かな双丘が俺の腕に押し付けられる。しかも、薄い布地1枚しか俺とナーテさんの間に邪魔者はいない。むしろすでに堪能出来ている状態だ!
ただ、こうやって娼婦として、お店では男を誘惑しているんだよなって考えると俺はとても冷静になってしまう。ちなみ頭は冷静だが下半身は荒ぶっている。
「実はクレスさんに聞きたいことがあるんです」
「はい、なんですか?」
「あの、私が……娼婦って、その……」
「気にしないでください。俺も元は商売人です。娼婦っていうのも立派な職業ですよ」
ナーテさんが小声でつぶやく
「……いて下さい……」
「え?」
「私を抱いてください!」
まさか、そう来ますか……ナーテさんはプロの人だ。正体がばれたから思い切って商談をもってこられたのですね。商売人としては良いのでしょうが、なんか金が絡んでいると思うとなんか嫌だな。
「すみませんがお断ります」
「……え?」
「俺は金を払ってナーテさんを抱きたいとは思いません」
「え、そこまで……」
「俺はもう寝ます。その格好は風邪引くかもしれないので部屋に戻ってください。部屋まで送りますから」
「……」
俺はその後、ナーテさんを部屋まで送った。おやすみなさいを言っても何の返事もない。
一人部屋に戻ってきた時、俺は正直、後悔した。やっぱ……抱きたかったな……はぁ。プロの娼婦が商売するのだ。その必死が伝わってくるので俺は手を出すの気にはならなかった。純粋に恋愛としてナーテさんを抱きたいと思うからこそ、俺はいまだに童貞なんだろうな……トホホ
次の日の朝、宿屋の食堂でガイディンと一緒に食事をしていると商人ギルドのキースさんがやってきた。
どうやら追加の依頼を頼みたいらしい。それは王都からタウバッハの街道から少し外れたクーク村というところに穀物を輸送してもらいたいというものだった。
「クレスさん、昨日の分が全て収納魔法に収まっているから馬車に積んで持って行ってもらえないか?」
「いいですよ。ガイディン、悪いけどナーテさんを王都まで送ってくれないか?俺一人でクーク村に行くよ」
「え?護衛しますよ、街道から外れるので危ないと思うのですが」
「あ、大丈夫。安全なルートで行くから」
その後もガイディンは付いていくときかなかったから、ナーテさんの護衛依頼として金を払い王都へと還ってもらった。
ナーテさんには悪いけど、今の状態で一緒に行動をしたくない。
金づるにしか見られていないかもしれないと思うとショックなんだよね。