世紀末スタイル、ガイディン
俺は日本に一人で帰ると決めた、ニ日後に商人ギルドへと足を運んだ。そこでは商人としての身分証を作ってくれていた。どうやら収納魔法持ちってのは商人からしてみたら喉から手が出るほど欲しい魔法なのだろう。
商人ギルドのジャンさんに連れてられてやってきたのは大きな倉庫が並ぶ場所だった。
「それでは、説明します。ここにある倉庫の荷物をすべてタウバッハの街へ運んでもらいます」
「これ、全部ですか?」
「はい、それと帰る時にタウバッハの穀物を持って帰ってもらいます」
俺は正直、馬車2台で運ぶからと高を括っていたが、かなりの量がある。
倉庫一つだけでも20tトラック何台分になるだろう?
「それと、依頼は一週間以内で達成してもらわないと次の荷が到着します。穀物も長いことタウバッハに置いておくわけにもいきません」
「え?一週間?」
「はい、よろしくお願いします」
それにしてもそうだよな、この量なら馬車で往復三日かかる街へ物資の移動となると納得できる。
だからこそ、俺の出番って訳だろう。俺はインベントリへ荷物を次々と入れていった。まあ、何事もなく全部入ったのでこれなら一往復で終了だろう。
「す、すごいです。クレスさん」
「ありがとうございます」
「収納魔法のキャパシティがここまである方は初めてお目にかかりました」
「そうなのですか?」
「はい!」
ふむ、どうやら収納魔法というのはレア魔法で使える人が少ないのと使えたとしても限界重量が低い人が多いみたいだ。
「もし、よろしかったら別の街への輸送依頼をこなしてもらえないでしょうか?報酬は今回の倍は払わせてもらいます」
流石に今後もこの世界にとどまる気はないしもう少し冒険したら帰る予定なので丁重にお断りをした。非常に残念そうにするジャンには悪いと思っている。
俺は荷物を回収したので、今度は冒険者ギルドのニーニャさんのところへ向かった。
冒険者ギルドの前には馬車が用意されていた。そこにはニーニャさんとナーテさんと男性4人組が待っていた。
「ニーニャさん、こちらは?」
「はい、今回の輸送依頼での護衛になります、ランクDのドラゴンファイトというパーティです」
なんと護衛のパーティが付いてくるらしい。しかも、ランクDということらしい。正直、俺はナーテさんと二人きりでいいのだが……そんなこといったらニーニャさんにボコボコにされそうなのでやめておこう。
「おう、ドラゴンファイトのリーダーのガイディンだ。よろしくな」
「クレスです。よろしくお願いします」
とさかの髪型をし肩には角が生えた服を着る世紀末に出てきそうなお兄さんがリーダーってこのパーティ大丈夫か?
ただ、その他の方は一般的な冒険者スタイルだったので一安心。
「それともう一人、冒険者のナーテだ、彼女もランクDになる」
ニーニャさんが紹介してくれたのは帽子とマフラーで顔の面積の80%を覆ったパンツスタイルのナーテさんだった。
「クレスです。よろしくお願いします」
「……」
俺は手を差し出して握手を求めたが彼女は返事がなく握手だけしてくれた。
「それでは、クレスさん。荷物をどれぐらい収納魔法に保管できました?」
「あ、全部です」
「そう、全部ですか……え?」
どうやら馬車にも荷物を積む予定だったので馬車が10台用意されていたが結局1台で行くことになった。
「まさかここまでとは、正直呆れます」
「あはは」
俺達は最初の野営ポイント日が暮れる前に行くことになっているので時間厳守で出発することにした。
御者をやってくれたのはなんと世紀末スタイルのリーダーだった。「俺に任せな」と張り切ってやってくれる。どうやら悪い奴ではなさそうだ。
俺達は予定通りの場所で野宿をすることになった。テントや野営用の料理などは収納魔法に入れてきていたのでとくに不自由のないキャンプ感覚で野営を楽しんでいた。
「クレスさん、最高だよ。俺、クレスさんならいつでも護衛しますぜ」
「あ、ありがとう」
なぜか世紀末スタイルのガイディンが俺に懐いた。まあ、見た目はあれだが根はいいヤツみたいだ。御者もほぼ彼が一人でやっていた。
交代でやるでもなくただ乗っているだけで、野営の準備などもリーダーのガイディンは率先して手伝ってくれたがその他のメンバーは見ているだけだった。まあ、俺も手伝えなんて言ってないからな。
ただ、その夜にドラゴンファイトのメンバーの魔の手がナーテさんに襲い掛かる。
「あの、やめてください」
「なんだよ、いいじゃねえか。店では散々やってんだろ、アリス」
「ここはお店じゃないです」
「大丈夫、金は払うよ。だから」
「お願い、やめてください」
ナーテは女性なので一人用のテントで寝ていた。どうやらそこにドラゴンファイトのメンバーの一人ジョセフが忍び込んだらしい。
ナーテさんの衣服が乱れている……よし、殺そう!
「おい、何やってんだ」
「あ、なんだ、依頼主か。今、お楽しみ中なんだ邪魔しないでくれ」
「おいおい、ナーテさんは嫌がっているように見えるが、何が楽しいんだ?」
「何言ってるんだ。こいつはプロの……」
「やめて」
ナーテさんは大声で叫んだ。俺は初めてナーテさんの怒鳴り声を聞いたのでびっくりした。その様子を見ていたドラゴンファイトのジョセフは面白がって話を続ける
「なんだ、そういうことか」
「なにがだ?」
「依頼主はこのナーテとどういう関係で?」
「まあ、知り合いだ」
「本当に知り合いなんですか?深い関係では?」
「いや、そんなことは……」
「あはは、依頼主、あんた騙されてますぜ。このナーテって女は王都の高級娼館の№1なんだよ」
おいおい、ウソだろ。冗談にもほどがある。ナーテさんがヤリマンだと言いたいのか?
「アリスっていうんだけど、伯爵様御用達で一晩の金額がべらぼうに高いんだよ。だから、冒険者でアリスを抱いたら一人前なんて最近では言われてるんだぜ」
「おいおい、そんなでまかせ」
「噓じゃないぜ、本人に聞いてみな。それか、王都の紋白蝶という娼館でアリスって女を指名してみな、そこのビッチが出てくるからよ」
俺は冷静にジョセフの話を聞けなかった。湧き上がる怒りを抑えるのに必死で今にでも目の前の男を本当に殺しかねなかった。
ただ、俺がジョセフをワンパンで肉片に変える前にジョセフをぶん殴る奴が現れた。ドラゴンファイトのリーダーのガイディンだ。
「ジョセフ、黙れよ、あまりいい趣味じゃない」
「イッテ―な。クソリーダー」
「すみません、クレスさん。それとナーテさん」
ガイディンがジョセフを思いっきり殴ってくれたので俺は少しだけ冷静になれた。それから俺はナーテさんの方を見たが血の気はなく真っ青な顔で座り込んでいるのにようやく気が付いた。
「ナーテさん……」
俺はナーテさんを腫れものを触るように触れる。すると
「イヤぁ」
「……っ」
「あ、違うんです……クレスさん」
「いえ、すみません」
ナーテさんは酷く怯えていた。どうやら乱暴にされたのが原因だろう。
その後、ガイディンはジョセフをテントに連れ戻した。俺もテントに戻ろうとしたのだが
「あ、クレスさん、もしよかったらこちらで寝て下さい」
「え、でも」
「この辺りは比較的安全です。クレスさんは護衛対象ですので、俺は朝まで起きますから心配いりません。ナーテさんもいいかい?」
ナーテさんは首を縦に振る。正直、俺は信じられなかった。ただ、冷静に考えて先ほどの話が本当なら俺はナーテさんに上客として数えられているのかもしれない。そう考えると少しばかり納得ができる。
やはり、俺一人が舞い上がっていたんだな。そう考えると少しばかり自分に腹が立つ。なんて情けないのだと……
「あの、クレスさん」
「なんですか?」
「あ……なんでもないです」
少しばかりきつい口調で返事をしてしまった。まあ、ビジネスとしての付き合いなら別にいいだろう。
俺達は少し距離を取って寝ることにした。しかし、ナーテさんは値付けないのか俺の傍によって来て服のすそを掴む。
これもビジネスなのか、それとも先ほど男性に乱暴にされそうになったことが怖くなったのか?だた、もしプロだとしたら後者はなく必然的に客を捕まえに来ているだけと考えるのが自然である。
だから、変に反応せずにそのまま寝ることにした。
翌朝、ドラゴンファイトのメンバー達とリーダーのガイディンが揉めていた。どうやらリーダーのガイディンのやり方が気に入らないらしい。
「悪いがこの依頼が終了したらドラゴンファイトから脱退する」
「……ああ、分かった」
「ガイディン、まじで気に入らないんだよ」
「……」
リーダーのガイディンが責められているが俺はそれを見てガイディンならもっと良いメンバーのほうが似合っていると素直に思った。
「えっと、ガイディン。提案があるのだが」
「なんですかクレスさん」
「ここで護衛の依頼を完了できないかな?」
「え?それはどういうことで」
「いや、ドラゴンファイトよりガイディン一人の方が信頼できる。だから俺はガイディン一人に依頼を頼みたいんだ」
「報酬はここで俺が払うよ。ここから先はガイディンとナーテさんだけで行こうと思う」
「わかりました」
どうやらドラゴンファイトのメンバーも報酬が貰えるなら構わないということで金を渡したらあっさりと来た道を帰っていった。
この後は3人で半日ほど馬車に揺られて穀倉地帯の中心街タウバッハへと到着した。
この半日でナーテさんは一言も喋らなかった。どうやらもう客として俺を見るのはやめているのだろう。