冒険者ナーテと出会う、仮名クレス
俺は異世界へきて一週間で魔王を倒してしまった。ただ、魔王シルヴァに言ったように俺を召還した国王や姫様に報告する気はない。というか会う気にならない。
さて、アイギスシステムのレベル100のボーナス特典「願い」を使って愛しの日本へ帰りますかな。……いや、待てよ。ここはファンタジーの世界だ、俺は最速でアイギスシステムのレベル100を目指していたので龍王を訪れた後すぐに魔王のところへ行って冒険という冒険をしてないのではないか。
やり残した冒険があるのではないか?
アイギスシステムのレベル100の特典は今すぐでなくても良いはずだ。ならば、ちょっとばかり冒険して帰ってもいいのではないか!
ということで、俺は異世界転移の冒険へと出発することにした。
まずは、冒険者ギルドだ。それらしき建物はすでに確認済みだ。まずは王都まで戻るとしますか。やっぱ、冒険の始まりは召喚された街だよな。
俺は急ぐことなくのんびりと空の散歩を楽しみながら王都へと帰っていた。途中途中で冒険者達が魔物と戦っている姿を見かける。みんなパーティで戦闘を行っていることに気が付いた。もしかして、ソロはいないのかな?
王都付近まで戻ってくるとソロで冒険している人を発見した。魔物と交戦中というよりも逃げ回っているといった感じだ。
どうしよう、助けていいのか?普通に考えていいよな?逃げる先に罠を張っている感じでもない。
逃げる冒険者は足を取られて転んでしまう。俺は転んだ冒険者と体長10メートルはある大きな猪の間に割って入り右ストレートを猪の鼻っ面に叩き込む。その攻撃で大きな猪は肉片へと早変わり。
俺は振り向いて冒険者の無事を確認して話しかける。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう」
座り込んだ冒険者はあっけない猪の最後に呆然として座り込んでいた。
お、今日は魔王に続いてまたもパンツを見ることが出来た。なるほど、なんともアダルティな白だな……って、女性冒険者か、帽子とマフラーで頭と顔の半分を隠しているから一瞬は分からなかったが一人ってのは訳ありか?
「どうして、一人で狩りをしているんだ?」
「私まだ、冒険者になったばかりなんです」
「そうか、でもパーティを組んだほうが安全じゃないのか?」
「そうなんだけど、時間が合わなくてやむなく一人でやっています」
「なら、俺なんてどうだ?今日はこの後も空いているぜ」
「いいんですか?あ、いや、でも配分が」
「あ、報酬はいらない。それよりも街に入る時に保証人になってくれ、身分証を失くしたこまっていたんだ」
「そんなのでいいのですか?」
ちなみに、身分証を失くしたのはウソだ。勇者である俺が帰ってきたことを知らせたくないというのが本音。
彼女はこちらの要求通り保証人になってくれるみたいだ。帽子とマフラーを外して握手を求めてくる。帽子の中に入れていた長い黒髪が陽の光に当たりキラキラと輝いていた。
「わかりました、それじゃあ、協力を頼みます。私はナーテ」
「あ」
「ん?どうされました?」
「ああ、いや、なんでもない」
「顔が赤いですよ」
「気にするな、街に入れるのがうれしいんだ。俺のことはそうだな、クレスだ」
俺はマフラーの下に隠された素顔に狼狽えてしまった。魔王シルヴァも美人だったが、この子も魔王シルヴァに匹敵するほどの美人だ。あ、でも胸は魔王の方が大きかったな。それにしてもこの世界の女のレベルは高すぎる。
「で、ナーテはどんな依頼をやっているんだ?」
「あ、クエスト内容ですか。私は薬草採取をやっていました」
「初級か?」
「はい、Fランクですから」
「それで、あとどのぐらい必要なんだ?」
「一応、もう数は揃ったからあとは帰るだけだったんですが……」
「そうか、そのタイミングで襲われるとは災難だったな」
「アハハ」
ナーテは困惑した笑顔で返事を返すのだが、俺はその顔を直視することができなかった。可愛すぎる……
「マフラーしといたほうがいいんじゃないか?」
「あ……そうですか……ごめんなさい」
なんでナーテは謝っているのか分からない。そのマフラーは魔法付与がされているので森の中では装備しておいたほうがいいはずだ。
あ、そういえばファンタジーの世界で魔物の素材って売れるのでは?さっきの猪……ぐちゃぐちゃだけど牙はしっかりと残っているな。
「あと、この猪だがもしかして売れるのか?」
「もちろんですよ、Cランクの魔物になりますので肉も牙も余すことなく売れます」
「それじゃあ、持って帰ろうか」
「はい、全部持って帰れないのがちょっと勿体ないですが」
「え?全部持って帰って売ろうよ」
「いえ、でも二人で持てる量はこの大きな牙だけになるかと」
「あ、大丈夫だよ。収納魔法持っているから」
「す、すごい!クレスさんは収納魔法をお持ちなんですね」
収納魔法はあまり珍しいものではないのだが、ナーテに褒められるとどうしても顔が火照って仕方がない。まあ、俺のは完全に特性の収納魔法だから収納重量無制限というチート魔法になっているが、それは黙っておきますか!キモイと引かれるの嫌だし……
顔が赤くなっているのを悟られないように俺は先ほどワンパンで倒した猪の肉片と牙を散らばった内臓をインベントリの中へ納める。
「それじゃあ、街まで帰りましょう」
「はい」
俺と並んでナーテも歩き始める。歩き始めてすぐに歩幅がきになる。大股になっていないか?あ、歩く速度も気を付けなくては。いや、それだけじゃなく、気の利いた会話を……
そんなことを悶々と考えているとあっという間に王都の入口付近へと到着した。
俺の保証人になってくれたナーテさんだが、冒険者以外の仕事もしていて有名のようだ。入り口の門番の鼻の下を長くするをみて不愉快になる。
俺たちはそのまま冒険者ギルドに向かった。冒険者ギルドでは受付の猫耳がキュートなニーニャが出迎えてくれる。どうやらナーテとは知り合いのようで、無事に帰ってきたことにほっと肩を撫でおろす。
「おかえりなさい、ナーテ」
「ただいまニーニャ、こちらはクレスさん」
「あ、どうも」
俺は素っ気ない態度で対応してしまっている。どうにも冒険者ギルドというのは人が多いので苦手だ。絡まれても怖いとは思わないが、変な噂を立てられるのがものすごく嫌なのだ……
「何、この変な奴?」
「……」
「ちょっとニーニャ、クレスさんは無償で私を助けてくれたの、命の恩人なのよ」
「無償?ナーテ、あなたマフラー取ったでしょ、あれほど言ったでしょ、冒険者に素顔を見せたらダメ。基本的に冒険者は信用ならないんだから」
冒険者ギルドの受付嬢がそれを言うのはまずいのでは?と思ったが、ここはナーテさんの手前、黙っておこう。
それよりもさっさと猪を買い取ってもらって……そうだナーテさんを食事に誘うのはどうだろうか……うん、そうしよう!
「ナーテさんと一緒に討伐した猪を買い取ってほしいのだがいいかな?」
「え?猪ってもしかして、ワルドボアのこと?」
「ニーニャ、実はワイルドボアよりも大きかったからラージワイルドボアだと思うの」
「……ええええええ」
モンスターの種類というのはいまだによくわからないがどうやら強い個体なのだろう。インベントリから出すからどこか場所を借りたいものだ。あのぐちゃぐちゃをギルドの受付前で出すわけにはいかないだろう
「あの、どこか猪を出す場所ありませんか?収納魔法で持って帰ってきたのですが」
「え、あなた収納魔法なんてレア魔法が使えるの?」
「一応」
「わかったわ、奥に部屋を用意するからそこでお願いするわ」
「了解」
なぜか片言になっている俺、キモイ!と自分で思う。
受付嬢のニーニャに連れられ解体場へと足を運ぶ。この解体場はしっかりと掃除がされているのだろうか?それとも解体場というのはこんなものなのか、血の匂いがむせ返るほど鼻を刺激する。
だが、ここなら汚れても大丈夫だろうと気兼ねなくインベントリから取り出した。
ラージワイルドボアはインベントリに入れたときとまったく同じ状態で取り出すことが出来きる。頭だけでも人間より大きいので部屋のほとんどが死体で埋め尽くされることになった。ただ、猪の遺体をみたニーニャさんがあることに気が付く。
「ちょっとナーテ。これラージワイルドボアと違うよ」
「え、そうなの?」
「ええ、これはね、さらに上位種のジャイアントワイルドボアなの。ランクBのかなり凶暴なやつよ。よく生きてたわね」
「そうなんだ、私、Bランクモンスターなんて初めて見るから、クレスさんはすごいのですね」
ナーテさんの笑顔が俺には眩しすぎた。ああ、幸せとはこういうことを言うのか。35歳になってもときめいちゃう。
「ニーニャ、これって相場はどれぐらいなの?」
「そうね、流石にここまでバラバラになっていると値が下がると思うけど、牙がかなり立派な個体だから金貨20枚ぐらいだと思う」
「き……金貨20枚!」
ナーテさんはあまりの金額に動揺して顔が青ざめていた。それもそのはず、金貨2,3枚あれば平民なら1年ほど食べることには困らないって聞いたことあるからな。あまりの大金に動揺するのも無理はない。
ただ、俺はもうじき日本に帰るからこの世界の金はあまり魅力を感じないのだ。
「あ、あ、あのクレスさん」
「ああ、いいですよ。全部ナーテさんが受け取ってください」
「でも、それでは……」
「そうですね、それじゃあこの後、一緒に食事をしませんか?」
「はい、喜んで!」
かなり自然な流れでナーテさんを食事に誘うことが出来た。これはジャイアントワイルドボアのいや、〇っことぬし様の思し召しに違いない。
ただ、俺はこの王都のことは疎いのでどこへ行けばいいのか見当も付かなかった。そこで、一生懸命にジャイアントワイルドボアの牙の状態を調べているニーニャさんに聞いてみることに。
「ニーニャさん、このあたりで料理が美味しい店って知ってますか?」
「そうね、美味しい店なら宿屋のラ・ルゥがいい味しているわ、値段も手ごろで最高よ」
「よし、そうしたらナーテさん、ラ・ルゥへ行きましょう」
俺は浮かれていたのだろう。ナーテさんの手を取り冒険者ギルドを出ようとしていた。すると、ナーテさんに止められてしまう。
「待ってください、クレスさん」
「はい、どうしま……あっすみません」
「いえ」
手を握ってしまったことで俺は気恥ずかしくなってしまい、ナーテさんと目を合わせることが出来なかった。ニーニャさんに目をやると牙を鑑定してる振りをしてジト目をして負のオーラを俺に向ける。
「あの、まだ清算が終わってないので少しお待ちください」
「ですよね、アハハ」
ナーテさんが報酬の金貨を受け取っているのを見ていたが、やはり相当の大金なのだろう。恐る恐る金貨が入った袋を受け取り中身を確認する。その仕草はかなり怪しい人そのものだ。
俺達は冒険者ギルドから直便でお待ちかねの宿屋ラ・ルゥへと到着した。
ニーニャ情報では雰囲気の良い宿と言われたが、俺から見たらなんともノスタルジックな宿だった。
「ここがニーニャさんが言ってたお店ですか?」
「ええ、とても料理が美味しいお店なんです」
「ナーテさんは来られたことがあるんですか?」
「二度ほど来たことがあります、ニーニャに連れられてですが」
「なるほど」
宿屋に入り出迎えてくれたのはしっかりと接客する女の子だった。年齢は小学校6年生ぐらいだろうか?
「空いてる席へどうぞ」
「ありがとう」
というか、店に客はおらず俺達だけだった。すぐに女性のウェイターが席へ歩み寄り注文を取る。
「何にする?ってナーテちゃん、いらっしゃい。こちらは……彼氏?」
「ち、ち、ち、違いますよ、リントさん」
どうやらナーテさんの知り合いのようだ。ただ、リントさん、俺に期待を持たせないでください。
「おや、ナーテちゃんの慌てようからすると……」
「絶対にないです。やめてくださいよ、リントさん……そんなんじゃ」
うん、絶対なのか……。まあ、語尾がどんどん小さくなっていくナーテさんが可愛い!。35歳のモテないおっさんってことはしっかりと自負しているからダメージ少ないぜ。
宿の食事は人気なのだろう。俺達が入る時間が早かっただけみたいで、次から次へとお客さんが入ってきてあっという間に満席になる。
俺達はリントさんおすすめの料理と酒を堪能したがこれが中々の味でB級グルメとしてはトップ3に入りますよ。
他愛ない世間話をしながら食事をするつもりだったのだが、こんな美人と食事をしているというのを意識し始めたせいか、途中から料理の味が分からなくなってしまった。
また、気の利いた会話も出来てない自分に自己嫌悪。それでもナーテさんは楽しい食事だと言ってくれたのが救いだ
ナーテさんに宿はどうするのか聞かれたがそのまま宿に泊まればいいと商売上手なリントさんに勧められてそのまま泊まることになった。まあ、俺もそのつもりなので問題はない。
ただ、問題があるとしたら、その夜のことだ。
ナーテさんは一度帰ってからまた俺の部屋を訪れてくれた。俺は先ほどの美味しい酒を部屋に持ち込んでいたので、一緒に飲み始めた。
そして、しばらく飲んでいると
「あの~クレスさんは~どこの~出身……なんですか?」
「遠いところですよ」
「そ~なんです……ね?」
俺よりも先にナーテさんは酔いが回り呂律が怪しくなってきていた。そして、呂律だけじゃなく行動もかなり怪しくなっていったのだ。はだけた衣服が色っぽくて困っていた。
「クレスさん、私を買いませんか?」
「買うって何を?」
「アハハ、クレスさんも子供じゃないから分かってるでしょ。わ、た、し、をです。ウフフ」
「いや、自分をもっと大切にされたほうが……」
どうしよう!!!こういう時はどうすればいいんだ?誰でもいい、リア充でもいい。いや、むしろリア充がいい。教えてくれ!!!
少しずつ脱いで最終的には生まれたままの姿で迫りくるナーテさんに俺は抗うことが出来なかった。それよりもバレないか心配だ、なんせ一部は荒ぶってはいるのだから……
「クレスさんが……だったら……よかったのに……」
ただ、ナーテさんはすぐに寝息を立てて寝始めたので俺はそっとベットに運んだ。
仕方ない、今日は床で寝るかな。久しぶりのベットだと思ったんだがまあ一緒に寝て朝起きたて平手打ちというパターンには会いたくない。物理ダメージは皆無だが、精神的ダメージを受けると瀕死になる可能性が大だ。
流石にすぐには寝付くことはできなかったのでトレイにいって済ませてから床に寝そべる。うん、冷たい……