サンドリアちゃんは可愛い眠り姫
クーク村に到着してすぐに宿を取る気だったが、村の人に聞くと宿がないことを知る。
前回は村長さんの家にサンドリアちゃんと一緒に泊まったから宿屋がないことに気が付かなかったのだ。
俺はどうしようかと考えるが寝不足で頭が回らなかった。
そんな時、目の前に藁の山を発見する。人のものだと知りながら持たれかかるとフカフカで気持ち良かった。
あ、これ、やばい……寝れるな……
目を覚ますと目の前には天井が見える。
はて、俺は……確か藁の山に持たれかかった。でも、どうやらベットの上に寝ているのだ。
誰が運んでくれたのだろう?
「おや、目が覚めたかい?」
「あ、スイデン村長」
「スイデンでいいよ、水臭いね。それよりもなんであんなところで寝ていたんだい?」
「すみません、徹夜でこの村に来ました。ただ、激しい睡魔と格闘した挙句……」
「はいはい、眠たかったと素直に言えばいいよ」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「いや、いいんだよ。あんたは満月の重なる日にサンドリアを救ったんだ。これぐらいのお礼はさせてちょうだい」
「そう言ってもらえると助かります」
「それよりもサンドリアがね、心配するから無理はしないでおくれよ。ほら足元」
スイデンさんが指差した先は俺が寝ているベットの足元だった。そして、そこには可愛い寝顔を披露するサンドリアちゃんの姿があった。本当に、可愛いよね。
「それよりもなんでまた夜通しでこの村に来たのさ?」
「あ、そうでした。スイデンさん、王都の冒険者ギルドで依頼を見たのですが!」
「依頼ってまさか、あんたが受けてくれるのかい?」
「はい!というか、もしかしたら自分の手持ちで何とかなるかもと思ったものですから―――」
「ま、ま、まさか……あんた……」
スイデンさんはあまりに驚いたのか腰を抜かして床に尻餅をついてしまう。
ただ、俺も自分が思っているものとスイデンさんが欲しいものが違えば意味がないので確認を取る。
収納魔法に入れてあった綺麗な羽を一枚取り出しスイデンさんに渡す。
「たぶん、これだと思ったんです。フェニックスの羽」
「こ、こ、これがフェニックスの羽なのかい?」
「ええ、龍王がそう言ってました」
「え?あんた、龍王ドラグーンにあったことあるのかい?」
「はい、スキルのレベル上げを手伝ってもらう代わりに龍王が抱え込んでいる仕事もしました。そうですね~仕事仲間みたいなものですかね」
「ハハハ、あんたには本当に驚かされるね」
「あの、それでですね。ギルドの依頼はこれで受けれそうですか?もし可能なら直接そのフェニックスの羽をお売りしますが」
「ああ、もちろん買い取らさせてもらうよ。たださ―――」
「ただ?」
「最近分かったんだけど、フェニックスの羽だけでは足りないんだよ」
「と言いますと?」
「まだ、必要な材料があるのさ。それもSSSランクの魔物の素材でね。正直お手上げなんだよ」
「どんなものなのですか?」
「えっとね、デビルジャイアントベアキングの手と心臓、神獣フェンリルの牙と毛皮、アークヒュドラの鱗と目玉と舌っとこんなもの揃えようと思ったら一生掛かりそうなんだよ」
「うーん、持っているかも」
「は?」
「いえ、確認してもらうまではわからないんですが」
「……見せてもらえるのかい?」
「構いません。ただ、ここは狭くて無理なので広い場所に移動しましょうか」
「わかった。とりあえずはこのフェニックスの羽を買い取るよ。金貨1000枚でいいかい?」
「もちろんです!」
それにしてもこのスイデンさんは何者なんだろう?金貨1000枚を出せる時点で只者ではない。
「うーん、あっ」
しばらく話し込んでいると、ようやく可愛い眠り姫が目を覚ます。
「あ、あ、あの、クレスさん。大丈夫ですか。具合は悪くないですか?」
かなり心配してくれていたのか俺の体をぺたぺたと触り確認をしてくれるが、とてもくすぐったい。
「大丈夫ですから―――くすぐったいです」
「はぅ、ごめんなさい、ごめんなさい」
「まったく何やっているんだか……」
サンドリアちゃんは本当にいい子だな。いつかサキュバスクイーンが姿を現さなくなったら男どもが奪い合うだろうな。
俺とスイデンさんはその後、村で一番大きい倉庫を借りて魔物を確認してもらった。
「あ、あんたは本当に何者なんだい?」
「まあ、普通の人です」
「普通ね、そうしたい理由があるっていうのはわかるが、これはいくらなんでも」
「あはは」
どうやら昨晩に倒した熊、犬、ヒュドラは全部スイデンさんが欲しているものだった。これは更に稼ぐチャンスだと思いスイデンさんに話を持ち掛ける。
「えっと、スイデンさん。俺、金がいるんですよ。よかったからこれも買い取りませんか?」
「ああ、もちろんさ。ただね、流石にこれを全部買い取るとなるとすぐには無理だね」
「そうなのですか?」
「ああ、あたしの金だけでは足りないよ」
「そんなに高価なもので?」
「……どうやらあんたには常識が欠けているようだね。これだけの素材を簡単に人前に出すぐらいだし」
「アハハ」
金になると思ったらついつい勢いに任せてどんどん出してしまった。まあ、ナーテさんの孤児院の借金分が稼げたらいいからな。
「あんた、すまないがあたしはすぐに調合へと取りりかかりたいんだ。もしよければ報酬は後日でも」
「あ、構いませんよ。とりあえずは金貨1000枚もらえれば」
「わかった。それはもう用意しあるんだ。これ持っていきな」
「これは?」
「この書状をギルドにもっていけば報酬が貰えるから」
「そうなんですね。ただ、俺は冒険者じゃないけど報酬貰えるのかな?」
「ああ、大丈夫。この書状を持っていけば絶対に貰えるさ」
「そっか、ありがとうスイデンさん」
「何言っているんだ。お礼をいうのはこっちだよ」
スイデンさんは本当にうれしそうにしていた。目頭には若干だが涙が……鬼の目にも涙?
「あ、ちょっとあんた今、何か失礼なこと考えなかったかい?」
「いえ、全然」
「そうかい」
スイデンさん――――――心が読めるんですか?
「さぁ、張り切って調合するかね!デン、デンは居るかい?」
「はい、ここにおります」
スイデンさんがデンと大声で呼ぶとどこからともなく金髪の少年が現れて、スイデンさんの前で跪く。
「野郎どもをすぐに集めな。ぐずぐず、するんじゃないよ。姫を助けるために全力を出す時が来たよ」
「そ、そ、それは……材料が揃ったと?」
「ああ、その通りさね」
「おお、ついにですね!わかりました。すぐに呼び出します。一日お待ちください」
「遅いんだよ。半日で集めな」
「そ、それは……わかりました。粉骨砕身にて事に当たります」
「金は使ってもいい。すぐに集めな!王宮にも連絡を入れるんだよ」
「はっ!」
スイデンさんがどこぞのママのようにデンに言いつける。それをみて、日本でサラリーマンをやっていた俺にとってはちょっとカッコイイと思った。俺も自信があればあそこまで堂々と指示をだしたりできたんだろうな。
「それよりもあんた、今日も泊まって行きな」
「あ、いえ、すぐにでも王都へ帰ります」
「なんだい、そんなに金に困っているのかい?」
「まあ、借金返済したいもので……」
「しょうがないね。ただし、三日後にはこの村に来ておくれ。あんたにも手伝ってほしいことがあるんだ」
「手伝ってほしいこと?」
「もちろん、タダとは言わないさ。報酬も出す。もし成功するのなら望む額を用意してやるよ」
「いや、それはなんてもオーバーな」
「全然オーバーじゃない。あんたにはそれだけの価値があるとあたしは思っているんだよ」
「……わかりました。三日後ですね」
「ああ、頼んだよ」
俺はスイデンさんと三日後にまたクーク村で会う約束して王都へと帰還する。
一目散に向かうは王都の冒険者ギルドだ。この書状が金貨1000枚か……なんかちょっと不安になってきた。




