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レベル800万越えの35歳童貞と娼婦の恋  作者: アホになろう
12/16

熊がシャボン玉のようにお空に飛んで壊れて消えた

 俺はクーク村へ急ぐために王都を出ようとしたのだが、城門前でガイディンと出会った。



「あ、クレスさん。ただいま」

「ガイディン、帰ってきていたんだな。ありがとう、面倒押し付けて」

「いえ、なんとなくですが、理解はしています」

「すまない」

「それで、ちょっとだけ話があるんですがね。ナーテさんのこと、どう思っているんですか?」

「え?」

「いやね、俺がこう言うのも変な話なんですが、二人の行き違いみたいなものが見えてもどかしいんですよ」

「なにが、もどかしいんだ?俺とナーテさんはその……冒険者仲間だが」

「それですね。クレスさん、ナーテさんがあなたのことをどう思っているか、分かってますか?」

「そりゃあ、客としてだろ?ナーテさんは娼婦だし」

「……はぁ」



 ガイディンは急にため息をついてヤレヤレと頭を振る。すげーバカにされている感じで腹が立つ!だが、なんでわざわざそんな話をするのだろうか?



「ガイディンは何が言いたいんだ?」

「鈍感なクレスさんにストレートでいいますね。ナーテさんを大切にしてください」

「はぁ?何を言っているんだ?」

「まだ、わかりませんかね。ナーテさんはクレスさんが好きで好きでたまらないんですよ」

「おいおい、そんなことあるわけ……」

「あります、大ありです」

「バカな……」

「それに言わずに言おうと思っていましたが、昨日の宿屋でのあの対応はさすがにナーテさんが可愛そうでしたよ」

「え?へ?おまっ、ちょっ……知ってるのか?」

「ええ、壁の薄い宿屋でしたから、それにナーテさんの姿もチラッと見えました」

「ならわかるだろう?客に会いに来ていただけだって」

「そうですか、クレスさんにはそう見えたかもしれませんが俺にはナーテさんの真剣な表情をみたら絶対に違うと思いましたがね、はぁ―――」



 またもガイディンは大きなため息をついてヤレヤレポーズ。だが、俺の頭の中は真っ白だ。ナーテさんが俺のことを?



「じゃあ、オレは帰ります。クレスさん、もしナーテさんのところいくなら早めにしてあげてくださいね」

「……ああ」



 ガイディンは王都にある宿屋へ泊るという。どこかは知らないがわざわざこんな場所にいたってことは待ってくれていたのだろうか?


 ガイディンは本当にいい奴だな。世紀末スタイルは伊達じゃないな。



 俺はクーク村へ行くのは明日にしてもいいので、ナーテさんのところへと向かった。が、住んでいる場所を知らなかった。


 とりあえずは繁華街へと行き呼子のお兄さんに声を掛ける。娼館に行けば会えると思ったからだ。



「お、そこのお兄さん。今日はかわいい子が揃っていて選り取り見取りですよ」

「あーすまない。アリスって子に会いたいんだが、どこへ行けばいい?」

「ああ、兄さんも好きだね。アリスちゃんはここいらじゃ有名だからね」

「そうか」

「あそこの角を曲がった一番大きな店に行きな。そうしたらアリスちゃんのいるお店だから」

「わかった、ありがとう」

「楽しんできな!」



 俺はどんなことがあってもナーテさんに幸せになってもらいたかった。


 娼婦であろうと借金持ちであろうとナーテさんはナーテさんだ。


 もし、騙されるなら結構。俺が騙されてナーテさんが幸せになるなら本望だ!


 店に入る前まではそう思っていた。



「いらっしゃいませ」



 店に入ると燕尾服がこれほど似合う人はいないのではないかというぐらいカッコイイ爺さんが迎えてくれる。



「あのアリスさんに会いたいんですが……そのクレスが来たって言ってもらえれば」

「かしこまりました。ご予約はされていますでしょうか?」

「いや、予約はしてない―――です」

「さようでございますか。申し訳ございませんがアリスは本日、予約が入っております。明日は休みですので明後日でよれば予約が取れますがいかがでしょうか?」

「……いえ、わかりました」



 俺はカッコイイ爺さんの返答に行き場のない憤りを抱えていた。そう、予約が入っていると言うことはこれから誰かにナーテさんは抱かれると言うことなのだ。


 それに気が付いたら居ても立っても居られない状態になり俺は逃げ出すように店の出口へ向かう。



「またのご来店をお待ちしております」



 カッコイイ爺さんがお見送りしてくれるが、構うことなく店を出た。



 


 クーク村へは明日の朝にでも到着すればいいと思っていたが、ナーテさんが働いている娼館から王都を出てまっすぐに森の奥深くへと向かう。


 

 俺は「これからナーテさんが誰かに抱かれる」と考えるだけで胸が痛くなる。


 なぜだろうか?ナーテさんが娼婦であることは知っていた。それならだれか自分以外の人に抱かれるのは普通のはずだ。それを商売にしているのだ。ナーテさんは体でお金を稼いでいるのだ。


 孤児院の借金のために頑張っているんだ。借金返済をするため、金のためだが立派な志をもった娼婦だ。


 だが―――





 これからナーテさんが他人に抱かれるという現実を目の当たりにした。逃げ出している自分がどうしようもないほど、情けなかった。


 そして、俺は気が付いてしまった





 俺はナーテさんを独り占めしたいんだなっと。





 その感情がわがままであるのはわかっている。もう思春期真っ只中のガキではない。


 ただ、頭では理解していても感情が伴わないのだ。



「ガァルル」


 森深くまで走ってきた。俺は現在の怒りに似た感情を発散させてくれそうなヤツが目の前に現れたことを嬉しく思った。


 それはとてつもない大きな熊だった。


 こいつなら……こいつをぶっ飛ばせば少しは気が晴れるのでは?


 もう何も考えれなかった。



 木々よりも背の高い熊が俺を攻撃する。


 そのまま受け止めて痛みを感じれば気がまぎれるだろうか?


 しかし、実際に熊の右手振り下ろし攻撃は俺にダメージを与えることはできていない。



 その後も熊はベアクローを連打してくる。右に左にと忙しそうだ。


 ただ、俺はナーテさんのことで頭が一杯でおかしくなりそうだった。


 それは熊の攻撃をいくら受けても何も変わらない。


 もう少し俺が弱れば恐怖で忘れることが出来たかもしれないなんてことも考える。


 

 しかし、この熊と俺は圧倒的なレベル差があるようで、熊の方が怯え始める。


 それでも勇気を振り絞ったのか熊は全力で両手のダブルベアクローを仕掛けてきた。


 それを俺は片手で受け止める。


 なぜだろうか?無性にこいつを殴りたかった。感情的に生き物を殺すのは良くないのでは?と思ったが、魔物ならいいかととても安易な考えだ。


 片手に掴んだビル十階建てぐらいの熊を俺は空へ軽く投げる。


 自然落下してくる熊に力を込めた拳でぶん殴った。




ドーーーン


 


 大きな炸裂音と同時に熊は弾け飛んだ。森の木々が熊の血肉で赤く染まる。


 俺の感触としてはシャボン玉を割る感覚に近かった。そんな軽い手ごたえのせいか、あまりスッキリしない。


 肉片と心臓に右手が落ちていたので俺は収納魔法でとりあえず格納しておく。

 

 

 次に現れたのは大きな犬だった。大型バスより大きな白く輝く犬は俺に噛みつく。


 しかし、痛くも痒くもないが、多分かみ砕こうとしたのだろう。正直、犬の唾液の匂いに耐えきれずに犬の上あごを蹴り飛ばす。


 その一撃が致命傷になったのか犬は動かなくなった。まあ、魔物は売れるので、これも収納魔法でとりあえず収納しておく。



 その後、森の更に深いところに沼があった。


 そこには八つの頭を持った生き物がいた。多分、ヒュドラっていうヤツだろう。


 こいつなら俺の相手になるかと思ったが、期待外れもいいところだった。


 まずは俺を丸のみするように噛みついてきた。


 しかし、それは小学校の身体測定時に先生が優しく身長計の測定レバーを頭に乗せてくれる感覚に似ていた。


 ヒュドラは噛みつきが意味ないと考えたのか今度はいくつもの首を使って負荷を掛けて俺の体に巻き付いてくる。


 だが、それも小学校のとき先生にメジャーで胸囲や腹囲を測ってもらう時の感覚に似ていた。


 あれもこれも効果のない攻撃を察したヒュドラはとうとう、俺を丸のみした。


 さすがに俺はヒュドラの中の生臭ささに我慢ができないので内部からぶん殴って腹を破った。



 ただ、この時勉強になったのがヒュドラの首はたくさんあるが胃袋が一つだったことだ。


 俺の腹やぶりが原因でヒュドラは絶命する。まあ、これも売れるかもしれないと収納完了。


 

 次第に俺はこいつら金になるんじゃね?


 そうナーテさんを早く借金地獄から抜け出すために俺が出来ることはこれでないかと思いつく。


 


 ナーテさんの喜ぶ顔が頭にちらつくとなんだか楽しくなってきた。しかし、金にするには素材を生かした倒し方が必要になる。



 やはり殴るより斬ることを優先する。


 

 俺は金になりそうな大きな魔物を探した。



 ただ、早々に大物に出会うことが出来ずに朝日が昇るのを確認する。



 


 俺は今になってようやく自分を取り戻せている気がした。そして、思い出す。



 クーク村に行かなくては!……本命を忘れていた。

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