プロジェクト・ノア
『大気圏突入用ユニット追加装備確認。射出準備完了!』
『R-SF-14E。リニアカタパルトへ!』
『弾道計算完了。大気圏突入コース算出!』
「こちら、モルモット01、準備は出来ているか?こちらはいつでもいい。やってくれ」
大気圏突入用ユニットをつけた汎用型戦闘機が今、目の前の青い惑星へと撃ち出されようとしている。そのために大規模宇宙移民艦隊がやってきている。
『コマンドポストよりモルモット01へ。移民艦隊提督以下、司令部の命令を伝える。先行して突入させた無人機の調査によれば目標の星は大気組成が地球型であり、バクテリア、ウィルス、ガスなどの有害物質が確認されていないが、どのような生物がいるかは不明だ。しかしこちらの備蓄物資なども不足している。移民先の候補ではあるが、危険であれば補給のみに留める。だが可能であれば数千年ものの長きにわたる移民の旅の終焉の地としたい。君の命を捧げてくれ』
何世代も前に地球から脱出した人類が選び抜いた人材を宇宙に脱出させるというノアの箱舟計画が発動して数千年。俺の一族は戦闘機パイロットとして生まれ、死に、延々とこの時を待っていたのだった。
「こちら、モルモット01。かまいません。俺が死んでも俺以外の一族の誰かが艦隊を守りますから。むしろ自慢できますよ。大気の中を飛んだって」
そう、真空の宇宙でスラスターを使って飛ぶのは何度もやっているが大気圏飛行なんて移民艦隊に乗り込んだ初代以外、誰も飛んだことはない。ついに一族の願望を俺が叶えるときだ。
『射出する!』
電磁加速された大気圏突入ユニットが大気圏突入用のウェーブコースを通る。その加速は凄まじく、正確な弾道コースを通っても摩擦熱が襲い掛かる。
「外殻熱ダメージ上昇。姿勢制御、クリア。大気圏突破成功!」
数分間の大気圏突入時の電離層の影響で通信できない状況が続いていたが、大気圏に成功すれば電波が届き、通信が可能となった。
「大気圏突入ユニット排除、大気圏内飛行モード起動」
大気圏突入用ユニットの耐熱装甲がパージされ、折りたたまれていた翼を広げると重力に引かれながら降下していく。
「モルモット01よりコマンドポスト。自由だ。今、俺は大気の中を飛んでいる!青い空を!白い雲を!最高だ!」
今までは黒い宇宙、小惑星帯を破壊して進路を確保するという任務だった。
だが、今は一族の夢、青い空を飛んでいる。
重力を感じ、風の振動を感じ、大気を感じる。初代がしていたことをついにかなえたわけだ。
「モルモット01からコマンドポスト。前方にカモメが見える。また島らしきものも見える。敵性生物は確認できない。・・・・ちょっとまて、人が、人がいる!今、ガンカメラで撮影したデータを送る。小型の帆船、木造と思われるものを複数あり。集落と思われる!」
これが数千年にわたり、星の世界を旅してきた人類の旅の終焉であり、別の惑星の人類との最初の接触だった。
それが幸運を呼ぶのか、不幸を呼ぶのかはまだ誰も知らない。