レストラン・オールマイティへようこそ
「いらっしゃいませー。4名様ですねー。こちらへどうぞー」
「オススメランチセットのがっつり盛となります。」
今日も、ここ、レストラン・オールマイティは繁盛している。
このレストランのすぐそばには大学付属の小中高一貫の校舎がある。
文武両道で有名なスポーツ強豪校であり、朝食のモーニングセット、お昼のランチ、部活終わりの間食などを目当てに多数の生徒が来店している。
アメフト部、ラグビー部などはがっつりした食事、文科系のクラブは食事というよりもデザート目当て。
そのため、生徒の懐に優しいようにと、お代わりは自由な上、制服着用していたり、生徒手帳を提示してくれれば割引もある。また、そもそもの値段自体が格安だったりする。
それなのに食材は上等なものを使い、料理人は和洋中華どころかマイナーな国の料理もできるという腕の立つ職人を引き抜いている。
「お、今日も来たかい。好きだねえ。お前らも」
そんなレストラン・オールマイティのオーナーの俺は今日は競馬新聞片手にパソコンで競馬の馬券をネット購入していたりする。
「ちわーす。おやっさん。相変わらず競馬っすかー」
「そりゃあ、ここの料理、安くて多くて美味いっすからね。他の料理店なんか、ここより高いし、コンビニなんかより、贅沢ですからねえ」
「つーか、この値段でこの量と味って赤字っすよね?」
ごつい体格の学生たちにからかわれながらも、答えてやることにする。
「うるせー、趣味だよ。趣味。こういう店のオーナーになるっていうのが、くたばった親父と俺の願いだったんだよ。儲け度外視だし、気にせず、学生どもはうまい飯を食って来い。そういうのを見るのが嬉しいんだよ」
あざーすっと声をかけてくれる学生を見送りながら売り上げのデータを見る。
従業員には徹底した丁寧な教育を行い、バイトテロなんぞするようなバカは出さないようにバイト代は弾んでいる。
料理人は一流レストランでも腕を振るった料理長を筆頭に様々な料理をオールマイティにこなせる人員ばかり。
食材は上等なものを集め、採算度外視の薄利。どう考えても赤字になるような仕組みだったりする。
その日の営業も終わり、最後の清掃に参加してくれたバイトの子が不意に質問してきた。
「オーナー。このお店って潰れませんよね?なんだか、一部の子が売り上げとかみていると怖いって言ってまして。リストラされるんじゃないかって」
俺は伝票の確認をしながら、驚いて思わず飲んでいたアイスコーヒーにむせてしまった。
「げほ、えっほ。うほん。そんなことあるか。ここの赤字はな、わざとなんだよ。やろうと思えば儲かるけど、儲けられない方がやめられないなんだよ」
その言葉を聞いたバイトの女の子は不思議そうな顔をして首を傾げた。普通なら別の答えを口にするはずだからだ。
「いいか?理由はいくつかある。まずは生徒への奉仕。これは死んだ親父の趣味だが、俺も親父もあの学校の卒業生だ。で、スポーツ推薦とかで遠方から来る奴らにこの街に馴染んでもらう。それが目的の1つ目。2つ目はここの料理を食っていた選手がいい成績を出したり、プロになると取材がくる。宣伝になるんだよ。で。3つ目が最大の理由は何か知りたいか?」
静かに聞いているバイトの子に分かりやすく説明することにする。
「節税のためだよ。俺は親父から受け継いだ土地やマンションとかの建物を持っていて家賃収入で悠々自適に過ごせるが、毎年、毎年、所得税とか何だかんだとうるさいからな。で、税金として無理矢理取られるぐらいなら、赤字確定の店で生徒に美味いものを食わせたいんだよ。何しろ、家賃払ってくれるのはここいらに住んでくれている教職員や学校の生徒と家族だからな。利益還元ってやつだ。お前さんも社会人になれば分かるさ。嫌な政治家どもが不要な工事をするなら税金払いたくないってな。意外と大手企業も使う手口だぞ。子会社は赤字ばかりなのに親会社が利益だしているってね。そのために赤字の倒産寸前の休眠会社を売り買いする業者もいる」
どうだとばかりにニヤリと笑いながら残りのコーヒーを飲み干していく。
「3月の確定申告対策は社会人になったら分かるよ。お客が読むための漫画も経費で落として俺も読むんだよ。それのために漫画専用の棚を集めていたりするのさ。後、ふるさと納税とかで楽しむこともできるぞ。たまにアニメコラボしている市町村相手に納税したりな」
さて、明日は競馬新聞じゃなくて趣味兼来客用の漫画セットでも読むことにしようと思いつつ、レストラン・オールマイティの明かりを消していく。
明日も騒がしくなりそうだ。それが楽しみなのも、やはりやめられない理由なのだろう。
はい、これは妹の昔のバイト先の話がベースで赤字になりそうだが、赤字にはなっていない。
なぜかというので回答となるのが、これです。
社会人になれば分かりますよ。経費落としが大変ですから