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空へ飛び出せば


 もう死にたい。ふとそう思ったのは学校からの帰り道。度重なるいじめで精神はボロボロで死んで楽になろうと思った。

そして学校の屋上から飛び降りることとした。高い屋上から見渡すと景色は綺麗だった。


 ひょいと普通に飛び出し、重力に従い、身体は下へと落ちていく。


 すると、奇妙な感覚が生まれた。普通なら最後に耐えきれない痛みが訪れるだろうに、それがなく、ゆっくりとした落下速度で安全に着地した。

 あたりには何もない、ただ白い空間が認識出来る範囲まで広がっていた。


 「愚かなことをしたのう。小僧。死して復讐しようとしたか。無駄なことを」

 そう声を掛けてきたのは後ろに居た白髪で長く白いヒゲを持つ老人だった。


 「逃げたかった。それだけさ。で、あんたは?神様?悪魔?」


 「神であり、悪魔である。宗派によっては他の神を悪魔と断ずることをしていたし、お主の国、日本でも神は災いを運ぶ祟り神、その祟りを鎮めるために神として祀ることもしておる。解釈次第じゃのう。強いて言えば存在Xとでも呼ぶのもかまわんぞ」


 そんなことを言いながら老人は映像を流しだした。


 「お主は死んだぞ。即死じゃ。で、魂の状態でここにいる。ついでじゃ、お前が死んだことにより確定した未来を見せてやろう。死ななければ確定しないはずの未来じゃよ」


 そういうと映像がドンドン流れていった。俺を虐めていたクラスメイトたちは少しの間だけ、居心地悪い感じになっていたが、それも全ては俺のせいとされ、その後は日常に戻っていった。俺が居なくなっても日常は流れ、卒業式へと進み、大学生になった奴らや就職していった奴らがバラけていき、同窓会での話題にも登らない。そして失恋や離婚をした奴らやクビになった奴もいるが、多くの面々は幸せそうに過ごしていき、最後は家族に看取られたりして老衰や病死といった、平和な死に方をしていた。


 「なんだよ、これ。俺が死んだことは意味ないってか?」


 「そうじゃよ。意味なんぞなかった。むしろ生きて足掻いて見せるべきだったのじゃ。まあ、選択肢は好きにすればいいさ」


 老人の言葉に憎しみを込めながら確定されたという未来を見ていた。


 「まあ、死んでしまった以上、もう何も出来んよ。輪廻転生に巻き込まれるのじゃよ。さあ、いこうかのう」


 老人の杖が振り下ろされると空間が歪み、そこには裁判官のような服を着た男と獄卒となる金棒を装備した赤鬼がいる審議所が現れた。


 「罪状、自決。いたずらに殺生、それも自決などという愚かなことをしたゆえに等活地獄へ落とすものとする。喜べ、一番軽い罪である。罪を償い、再び輪廻転生を行うがいい」


 そのセリフを口にした男、おそらくは閻魔大王だろう。その手にしていた木槌を叩くと、鬼により木製の古めかしい手枷を持って両手が繋がれ、広大な川を小舟で渡ることとなる。その際の船賃は六文銭。ココが賽の河原だろう。向こう岸が見えないほどの遠くへ船へ運ばれていく。


 霧の向こうに繋がる世界、地獄。それはどんな世界か。おそらくは説明出来ない世界になるだろうか?


 ギコ、ギコと手漕ぎのオールの音がする。せせらぎの音がする。もうすぐ、地獄へ入る。


 そう、俺は死んだ。馬鹿なことをしなければ良かった。死なずに足掻けば良かったのだろうか。

 少なくとも自殺なんぞしないほうがいいということだ。だが、結果は変わらない。


 来世ではせめて死なない程度に生きていこう。自殺なんざ二度とゴメンだ。

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