天使たちのお茶会
世界に刻々と終わりが近づいていた。
見た目は平穏で、魔物がいることは認めるが、それすらも世界の理。
弱者が強者に負けるのも、強者が弱者に隙を突かれ倒れるのも世界の理。
「この世界も終わりか、いや始まりがあれば終わりがある。世界の管理をしていた者としては覚悟はしていた」
「されど、唐突な終わり方ですね。いやはや、もう少し持つとは思ってましたが」
語るのはこの世界の神の代弁者、天使達。彼らは花園の中にある庭園で紅茶やコーヒー、日本茶をお茶うけと共に楽しんでいた。
「あら?元々、博打に近いと最初に語ったのは貴方でしてよ。管理できるほどの力が出せるのかと」
「そうでしたか?すみませんね。管理のためにどれほど睡眠時間を削ったのか。それを思うと疲れました」
美しい女の天使が語る言葉を若い精悍な天使が本当に疲れたように答える。
「そうよねえ。こっちの世界に顕現している間はいいわ。でも、そうじゃない時間は凄く大変だったわ。お陰で肌とかあれた上に体重は増えているし、唯一の贅沢がこっちの世界での食事よね。顕現している間は食事をメニューの端から端まで全部!って言っても体重増えないから」
「これこれ、暴飲暴食は控えよと言っておるだろう。我らは世界の管理をする者、存在するものたちに恥を見せるような事はしてはならんよ」
「わかってますわ、責務の邪魔になる者たちに付け入らせぬ為にとにかく中立であり、公平であり、厳しくあるべしですから」
少し老齢な天使の忠告に女の天使が中立の証である天秤を模した勲章をゆっくりと撫でた。
「そう言えば神に愛されし者たちの中には同族殺しや現地人殺しを楽しんでいた愚か者がおったが、アレラはどうなった?」
「現在、受刑者が100人ほど、前科者の称号を持つものが300人程でしょうか。まあ、この世界の最後に付き合わせるために神は特例として受刑者は恩赦を与えました。まあ、あと少し、世界の崩壊が始まるまでの・・・・」
そう答える言葉に時計の針が午前零時を示すと、正常に、そして正確ゆえに残酷な世界の崩壊が始まった。
「我らは世界の代行者、すべてのものに告げる!世界は崩壊を迎えた。さあ、皆の者、神に祈れ!終わりの始まりである!」
老齢な天使が魔法を使って全世界の全ての者たちに告げる残酷な言葉。
まずは空に浮かんでいた巨大なダンジョン、浮遊大陸の崩壊が始まり、その欠片が下にあった街を飲み込んでいく。海は荒れ、大津波が沿岸の街々を次々と流され、地震と共に起きた噴火は流れ出した溶岩により、全てを灰燼に帰していく。
「さて、皆の衆、我らの職務はコレにて終わりである。またいずれかの世界の管理を任されるであろうが、それまでは暫しの休息となろう」
「ですね。まあ、神に力があればとなりますが」
「有るわよ。ソウじゃないと困るわ」
「「「それではまた!どこかの世界で!」」」
茶を楽しんでいた天使たちは微笑むと、その姿は光の粒子となって消えていった。
『システムからログアウトされました。現在、オンラインサービスがご利用いただけません』
ベッドが起き上がるとVRゲーム用ヘッドギアに映し出された文字を見て苦笑した。遂に終わったと。
俺はあのゲームで運営会社の社員としてゲームマスターをしていた。
他の皆もそうだった。そもそも天使はゲームマスターである証だった。
そう、俺達は職務としてあの世界の管理を任された代行者という設定だった。
もう何年も使っていれば、ある意味もう一つの俺、相棒だろうか。
「おはよー、と言ってもまだ午前0時30分よ」
「そうであるな。ま、この業界では時間なんぞ不規則上等!」
少し年増、失礼、妙齢の女性と筋骨隆々な男がコーヒーをさっきと同じく飲んでいた。
「まあ、そうだよな。ゲーム業界はこういうものだし、オンラインゲームは24時間対応だしね」
女性からコーヒーを受け取ると仕事部屋に備え付けの椅子に腰掛け、答えていく。
「しかし10年であるか、よくもまあ、持ったものであるな。VRゲーム黎明期に作られたものとはいえ、人気の安定感が凄まじかったのである」
「だな、俺なんて学生の頃、まさか中の人になるとは思わなかったぜ」
若い頃の自分が冒険していた世界の裏側を見る。本当におかしな話に思えた。
「そう言えば次回作、どうなるのかしら?キャラクターコンバート対応するとか言っているけど?」
「さあな。分からん。運営公式キャラで初心者向けプレイ実況やるとかネタは有るらしいが、新しい相棒に会えるんじゃないかな?」
次の相棒はどんな物か?使い魔?AI?アンドロイド?ワクワクしてくるものだ
VRMMOのプレイヤー目線が多いですがマスターサイドがロールプレイしていたら?と思って書いたものです。
設定とかは無視して勢いで書いてみました