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異世界で青春したっていいじゃないか!  作者: 水鳥潤
旅立て、異世界ガーライトへ!
1/8

ティルフィムの聖域1

更新は遅くなると思いますが、よろしくお願いいたします。

誤字脱字は見つけ次第訂正します。





 兄より優れた弟は存在する。


 世界規模ならその数は計り知れないし、身近なところでうち、風戸家をとりあげれば簡単に立証できてしまう。


 弟の方が勉強も運動もできる。せめて顔だけでも平等であれと願うも、それすら叶わず。

 弟と俺はまさに月とスッポン。「双子の兄弟でここまで差がつくのかよ」と太鼓判を頂けるほど、風戸兄弟は似ていない。きっちり良し悪しを割り振ってくれた神様とやらを恨むぜ。


 俺にとって救いなのは家庭環境が良好であった事だ。

 寛大な両親は不出来な俺を見捨てず、弟と同様大事に育ててくれた。そんな配慮があったので、弟を恨んだ事は過去に1度もない。むしろ誇らしく思っていたくらいだ。


 一方で、他人ってのは非常に身勝手で、当事者達が気にしていない事をいちいち気にかけてきやがる。


 「優秀じゃない方」「イケメンじゃない方」「直毛じゃない方」「弟じゃない方」


 ……この「じゃない」という語尾、陰口を含めるとアホほど聞いてきた。これには高校生になった今でも強く反応してしまう。

 俺は弟や両親が大好きでも、内情を知りもせず蔑んでくる連中が大嫌いだ。





 「風戸大智……あなたって本当に、ばかじゃないの!?」



 ———身体を揺らされ、強引に目覚めさせられた。

 朦朧とする意識の中まぶたを開けると、目の前には涙を浮かべる少女の顔があった。

 ご丁寧に嫌いな語尾の前にバカまで付けてくれたのだ。普通ならこの少女を一瞬で嫌いになるところだ。



 ……けれど、実際そうはならなかった。

 相手が異性であるのも理由の1つだが、どうしても涙を流す理由が思い当たらないのだ。そっちを気にかけていたので苛立ちはしない。

 むしろ紳士的な振る舞いをしたくなるくらい、今の彼女からは哀愁が漂っていた。さっきの侮辱や普段の気高さから相反してるので、何とも不思議な気分になる。


 「……いきなり何だってんだよ? お前は失礼な奴だな、茅撫奏」



 【茅撫奏】側にいる少女の名だ。ただのクラスメイトってだけで、まともに会話をした事はない。

 こいつが結構な有名人で、校内1番の美少女だと騒がれている。

 長い黒艶の髪が印象的で、均整のとれた顔や体型をしている。外見だけで判断をするなら、正直俺もかなり好みのタイプだ。


 「……てか、ここはどこだ? 俺は今まで何をしてたんだっけ?」


 そんな彼女と一緒にいる経緯は? わからない事だらけのまま、俺は重い頭を抱えて立ち上がる。

 周辺を見渡すと暗闇しか見えず、認識できたのは茅撫ただ1人だけだった。



 「私達は死んだのよ。詳しい話はこの先にいる精霊がしてくれるわ。ぐずぐずしてないで、早く行くわよ」


 そう言うと、手の甲で涙を拭った茅撫は歩き出した。


 は? 死んだの精霊だの、何言ってんだお前? 馬鹿なの? 現実見ろよ。

 俺は意味も分からず首を傾げ、なんとなく彼女の後を追った。



 ——道中はまるで星のない夜空を歩くような感覚に陥る。しばらくすると終着点が見えた。


 ……いや、切り開かれたってのが正しいのかな? 突如両端に並べられたロウソクの火が灯され、視界が一気に広がった。



 「ようやく目覚めたようじゃな? 待ちくたびれたぞ、大智」


 知らぬ間に俺達は赤いじゅうたんの上に立っていた。

 声に反応し顔を上げると、そこには金色の玉座に腰掛ける少女の姿があった。


 外見は10歳そこそこの異国の少女。瞳の色は琥珀色で、肩のラインで切り揃えれた髪は淡い紫色をしている。額に金色のティアラをつけ、露出度の高い黒のドレスを着ていた。


 じじ臭い口調に物珍しい身形。この幼女が茅撫の言う精霊に違いないだろう。



 「……いや、別に待ってもらった覚えはないんだけど」


 俺は夢見心地になり、小生意気な態度をとった。

 当然だ。俺は現状を把握しておらず、自分が死んだ事を認めていないのだから。



 「おー、そうであったか。じゃがワシと奏は心待ちにしておったぞい。今回は2人の異世界召喚じゃからな。別々にしたら手間もマナも無駄に浪費するからのう」


 気のない俺とは対照的に、幼女は満面の笑みを浮かべた。こちとら、わけわからん事を散々言われ困惑してるのに呑気だな。

 今のやり取りで俺が理解できたのは、この幼女のツリ目と八重歯が可愛いって事くらいだ。



 「……では早速、出発の準備を始めるかのう」


 そう言いながら腰を上げ、幼女は玉座から降りてきた。

 俺達の側までやってくると、魔法陣らしき物を大気に描き始めた。呆気に取られる俺達の事なんて見向きもしない。



 「ちょい待ち、頼むからきちんとした説明をしてくれよ!」


 この先の展開に不安を抱き、俺はとっさに幼女の肩に手を置いた。

 すると幼女は振り返り際に、とぼけた顔を浮かべてみせた。


 「おや、奏から事情を聞いとらんのか?」


 「こいつはあんたから詳しい話があるって言った」


 「……そうかい。まぁ今さら立ち話もなんじゃから、要件だけを脳裏に焼き付けてやるぞい」


 そう言って無い胸を突き出すと、幼女は右手を広げて上にかざした。

 

 「お、おう。よくわからんが、よろしく頼む」


 俺はなされるがまま流れに身を委ね、その場に立ち尽くす。

 そうしていると……


 「……ちっ、この馬鹿者が!」


 幼女は俺の対応に機嫌を悪くしたご様子だ。眉間にしわを寄せ睨み付けてくる。


 「あ? どうしたってんだよ?」


 「しゃーがーめ! 脳裏に焼き付けると言ったじゃろ? わしの身長で届くわけなかろうが?」


 気が立ったからか、幼女の前髪の一部がそり立つ。

 これがアホ毛ってやつか? リアルで初めて見た。俺は思わず妙な達成感に浸る。


 「てか、面倒じゃから、大智から手に当たってこい!」

 

 今度は無表情でいたのがマズかった。幼女は背伸びをする努力を絶ち、腕を下げて俺に行動を委ねてきた。



 「……ああ、そういう事ね。いわゆるご褒美ってやつか」


 現状を理解した俺は中腰になり、頭部を幼女の手に近づける。


 「俺はMじゃないし、幼女趣味もあったりしないんだけどなー」


 側にいる茅撫への言い訳からか、長々しい独り言も呟いた。

 恐る恐る幼女の手に額を当ててみると、いたずらな幼女の声が脳裏に直接響き渡ってきた。





 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 風戸大智と茅撫奏は不慮の事故により命を落としたが、


 あちらの世界の神の救いにより、めでたく異世界召喚を果たした。


 ワシは2人の仲介役を頼まれた、大精霊【ティルフィム】じゃ。


 ここは精霊界にあるワシの聖域。ここから異世界への扉は開かれ、2人の新たな人生は始まる。


 これが世迷言じゃとぬかすのは時間の無駄じゃ。ついでに強力な暗示をかけてやろう。


 なーに、全てにおいて悪いようにはせんよ。安心して【異世界ガーライト】へ旅立て。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 文字にするとそこそこある大雑把な経緯説明……であったが、俺自身の体感では一瞬で聞き取れた。

 戸惑う事なく素直に現状を受け入れる事ができた。これが暗示の力ってやつの効果だろうか?


 ……そんな中でも、1つだけ気がかりな事が残っていた。

 余計な思考が遮断されたからか、それに対する執着がより強くなる。



 「何で俺は死んだの? 大事なところが抜けてるぞ」


 声を大にして尋ねてみると、幼女改め、ティルフムは再びとぼけた顔をみせてきた。


 「覚えておらんのか? 後遺症で記憶が飛んでおるのかのう?」


 やれやれ面倒だなと、ティルフィムは一息つく。


 「あー、大智は……」


 気のない声を出しながらも、ティルフィムは俺の死因について語ろうとする。





 「もうその辺でいいんじゃない? 手間を減らした意味がないじゃない。長い時間待たされる身にもなってよ」


 それを阻んだのは、これまで大人しくしていた茅撫奏であった。「じゃない」を立て続けに使い、俺達のやり取りに突如加わってきた。



 「それもそーじゃの。なら、ワシはこれより出発の準備に移るぞい。2人はしばらく待機しておれ」



 結果、俺の要望など重視されず、ティルフィムは茅撫の意向を優先させた。


 「……あのう、ティルフィムさん?」


 「ふん、ふふん、ふふーん♪」


 元々面倒そうであったので、この気の変わりは想定できた。鼻歌まじりで魔法陣を描く幼女に、俺の声は届きやしない。



 「茅撫……お前って奴は」


 俺は憎しみの目で茅撫を睨む事しかできなかった。


 「……ぷい」


 知らん顔でそっぽを向く茅撫嬢。立ち疲れたのか腰まで下ろされた。



 2人揃って学生服姿のままであり、当然茅撫はスカートをはいていた。丈は膝より上とかなり短く、必然的に生足は露わになる。

 美少女特融のきめ細やかな肌の質感。紺色ニーソと要所も抑えている。脚フェチにはたまらん粋な組み合わせだぜ。



 「……認めたくないが、良いものは良い」


 鼻の下を大きく伸ばす男子高校生の姿が、異界な地にも存在した。


 「何当り前の事を言ってるのかしら? 突っ立ってないで、あなたもこちらに来れば? しばらく時間を要すだろうし、この先を共に過ごすパートナーと交流を深めましょう」


 俺のいやらしい視線など気にもせず、無垢な表情で誘ってくる茅撫。


 正直、これは悪い話ではないと思った……近くで美脚を堪能できるし。

 それに新たな世界に向かうにあたり、知り合いが側にいるってのは何とも心強い。しかも相手が美少女なら猶更グッド。

 これまで異性と親交を深める機会なんてなかったんだ。2度目の人生を歩む門出だ、少しくらい贅沢してもいいだろう。


 「し・・・失礼します」


 過度な期待をすると、どもるのはモテない男のサガか?

 悲しい事実と対面し、俺はよそよそしい仕草で茅撫の隣に座った。






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