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「…誰!?」



佐智子は、驚愕に見開いた瞳で僕を見つめる。



「なに言ってるの?僕だよ?」



僕は、笑顔のままで佐智子に近寄ろうとする。


が、佐智子は悲鳴を上げながら後ろに跳び下がる。



「な…なに?私…あなたなんか知らないわ!」



佐智子が、僕に酷い冗談を言う。



「知らないって、なんだよ。忘れたなんて、言わせないよ。


ほら、駅で僕に笑いかけてくれただろう?そこから僕たちは出会ったんじゃないか」


「え?あ…あなた、なに言ってるの?」


「佐智子こそ、どうしたの?」


「な、なんで私の名前を…それにどうやって部屋に…


で、出てって…今すぐ出てって!け、警察を呼びますよ!」



佐智子の放ったその言葉に、僕の何かが壊れた。



「おまえこそ、なに言ってるんだ!?僕たち一緒に暮らしてきたじゃないか?


2人で過ごした時間を否定するようなことは、いくら佐智子でも許さない!」


「一緒に…暮らしてきた?も、もしかして…ずっとこの部屋にいたの?」


「ああ、いつもいたさ!狭くても辛くても、ずっとこのベッドの下に!


それもこれも、佐智子と一緒にいたいからじゃないか!!」



僕の言葉が強すぎたのか、佐智子は強張った表情を浮かた後、急に台所へと走った。


僕も追いかけて台所へ行くと、振り向いた佐智子の手には、包丁が握られていた。


僕に向けられた包丁を持つ佐智子の手は、酷く震えていた。



「佐智子…強く言い過ぎたね。ごめん。でも、佐智子も悪いんだよ?」


「やめてっ!近寄らないでっ!」



佐智子が持った包丁を振り回す。


僕は、それに構わず佐智子へ近づく。



「どうしたんだよ、佐智子?」


「こ、来ないでっ!来ないでっ!」



佐智子が落ち着かないので、とりあえず包丁を持った手を押さえる。



「落ち着いて、佐智子」



僕が優しく声をかけても、佐智子は暴れるばかり。


押し合っているうちに、元の部屋に戻ってきた。


佐智子の様子は変わりそうにないので、仕方なく力一杯、包丁を取り上げようと引っ張った。


すると、体勢を崩した佐智子は、僕がもった包丁の上に覆いかぶさってしまった。



佐智子の腹部から生えた包丁を僕は慌てて抜き取る。


お腹から血がたくさん溢れ出てくる。


そんな佐智子が心配で、僕はどうしたらいいかわからなくなってしまった。


それだけ僕が心配しているのに、佐智子は携帯を持ち出して、どこかへかけようとしていた。


僕は、佐智子の手から携帯を取り上げて、台所へと投げ捨てる。



「なんでだよ、佐智子!いつも!いつも!いつも!!


僕がすぐそばにいるのに、なんでいつも誰かに電話するの?


仕事のことも、物が動くなんてことだって、僕がいつも聞いてあげていたのに!!」



僕が思いのたけを言い募っていたら、佐智子が急にグッタリしてきた。


僕は佐智子を抱きかかえるとベッドへ運び、その上に寝かせた。



「大丈夫、佐智子?」



そう言いながら、僕は佐智子に添い寝をする。



「ようやく一緒に寝られたね」



僕が、そう告げると佐智子が何かを呟いた気がした。


でも僕は、その言葉を聞き取ることはできなかった。



「ごめん、佐智子。聞き取れなかったよ」



耳を近づけるため近づいた僕は、佐智子をそのまま優しく抱きしめた。


そうして、深紅に染まったベッドの上で僕は佐智子に語りかけた。



「そうだ、いつもは僕が聞いてばかりだったから、今夜は僕がたくさん話をするね」

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