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僕は、派遣会社に登録して働いている。


いわゆる非正規雇用社員である。


定期的に契約を更新する。


職場も色々と変わり、契約の更新があるかも確定していない。


非常に不安定な仕事だ。



僕も、望んでこのような仕事をしているわけではない。


就職氷河期。


僕が大学を卒業する数年前、社会にそんな言葉が生まれた。


大学3年生になると、僕も周りの皆と同じく必死に就職活動を始めた。


志望する会社に勤める先輩を探しては、連絡をとって会ってもらう。


会社によっては、リクルーターと呼ばれる先輩を探し出す必要があったからだ。


リクルーターに認められないと、いくら応募しても面接もしてもらえない。



僕も大企業と呼ばれる会社を目指し、日々活動を続けた。


リクルーターに認めてもらえても、その先にある面接は厳しい。


4次、5次と続く面接の中で、精神がすり減らされていく。


学生を追い込む手法が流行っていたせいもあるのかもしれない。


圧迫面接と呼ばれるその手法は、ただただ自分を否定されるだけの時間だった。



何十社と応募して、その何倍も面接を受けた。


しかし、大企業と呼ばれるような会社に僕の居場所はなかった。


選考に落ちていく度、応募する際の希望を下げていく。


中小企業と呼ばれる会社に応募するようになっても、状況は変わらなかった。


雇用条件は、落ちていく一方。


それでもなんとか、1社だけ内定を貰えた。


僕に選択肢はなく、その会社へ就職した。



僕の就職した会社は、今で言うブラック企業であった。


8時から17時までが定時となっていたが、毎日終電ギリギリまで働いた。


土日休みの週休2日制だという建前とは裏腹に、土曜日は休んだことはない。


使うことができない有給休暇、代休が溜まっていくだけだった。


毎月末になると、総務から書類が回ってくる。


残業時間を申請する書類なのだが、1ヶ月10時間しか認めないというルールがあった。


適当に10時間となるように書類を書くだけである。



当時の僕は、いやきっと僕だけじゃない。


当時の社会は、働くとはこういうことだと信じていたのだと思う。


ブラックじゃない企業なんてあるわけない。


それが僕たちの世代の常識だった。



同期が次々と辞めていく中、僕も1年半を過ぎた頃に身体を壊して退職した。


すぐに仕事が見つかるわけもなく、90日間の雇用保険給付を受けた。


元々の給料が少ないため、その6割という心もとない金額に心が震えた。


生活を続けていくために、必死で就職活動を続けた。


しかし、もう新卒でもない僕には面接を受ける機会さえも与えられなかった。



そこで、正社員としての雇用を諦め、派遣会社に登録した。


それから10年以上経つが、状況は悪くなる一方だった。


年齢も30代後半となったが、正規雇用を目指して就職活動をする。


だが、正社員としての職務経歴もない30代の僕は、常に書類選考で落とされる。



雇用が回復したなんてニュースで言っているが、あんなのは半分嘘だ。


大学新卒の正規雇用の割合が9割後半になったって、僕らの世代の雇用状況は変わらない。


それとも誰も気づいてくれてないのだろうか?


僕らの世代は、社会の仕組みの中で、無かったことになっているのだろうか?



そんな僕と比べて、佐智子は正社員として働いている。


それだけで僕は、彼女のことを尊敬すらしている。


僕よりも早く出勤し、遅く帰ってくる彼女を眩しく感じる。


正直に言うと、尊敬しながらも、ほんの僅かな嫉妬と羨望がある。


僕も正社員という世間に認めてもらえる立場が欲しい。


職務経歴書に書けるようなやりがいのある仕事だってしたい。


しかし、現実は年下の正社員から良いように使われるだけの雑用係だ。



そんな僕に微笑みかけてくれた佐智子に一瞬で恋に落ちた。


佐智子と一緒にいられるから、僕は幸せだと言えるのだ。



そんなことを考えながら、満員電車を降りた。


駅から今の職場へと歩きながら、それでも状況を変えなければと思う。


佐智子のためにも、なんとか正規雇用を手に入れなければ。

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