1回転
---ねぇねぇ聞いた?この前、廃園になった遊園地の話
---聞いた、聞いた。あれって、『裏野ドリームランド』のことでしょ?
---そうそう!メリーゴーラウンドの話!
---夜中に勝手に廻ってたんだってね。
---友だちが、たまたま外から見たらしいんだけど、とっても綺麗だったらしいよ。
---でも、あれって確か…
+++
気づけば蒸し暑い季節になっていた。
夜になっても、昼の日差しを浴びたコンクリートが熱を発している。
室内も昼間の熱が篭ってしまうので、冷房がついている。
住宅街のマンションにある、そんなどこにでもある一室。
だが、僕にとっては特別な部屋だ。
部屋に響く佐智子の声が、僕の耳に優しく響く。
横になりながら、佐智子の言葉に耳を澄ます。
今日も、職場でお局様に嫌がらせをされたとぼやく彼女。
思わず、言葉をかけようとするが思いとどまる。
佐智子の中で結論は、もう出ているのだ。
僕は、ただ佐智子の話を聞いてあげることしかできやしないのだ。
やがて話し疲れたのか、ベッドに横たわる佐智子。
気がつけば、寝息を立てていた。
ベッドの上から聞こえる彼女の寝息は、僕の心をどこまでも癒してくれた。
幸せに包まれながら、僕も瞳を閉じた。
翌朝、開け放たれたカーテンから入る陽光で目覚める。
まだ僕がまどろんでいる間に、佐智子は準備を整え終わり出勤する。
佐智子の出勤を見送ると、僕もベッドから出る。
起きてみると身体の節々が痛かったので、大きく伸びをする。
そして、入念にストレッチをする。
ようやく身体がほぐれたところで、僕も部屋を出た。
佐智子の部屋に通うようになって、今日で1週間。
僕の自宅は、佐智子の部屋から電車で2駅のところにある。
いちいち自宅に帰って着替えてから出勤するのは、正直面倒だ。
しかし、荷物を置く場所がないので、今のところは仕方ない。
いっそのこと僕の部屋を引き払って、荷物を全て捨ててしまおうかとも思う。
だが、まだ一緒に暮らして1週間だ。
もう少し様子を見てもいいかとも思う。
急いで自宅でスーツに着替えて、職場へと向かう。