エピソード2~幼馴染と登校~
文字数がやはり少なすぎるので、まとめてみました。この話から、家族以外のキャラが出てきます。
「いってきまーす」
階段を降りて目の前の玄関で靴を履く。横の鉄製の防火扉からは石鹸と微かな塩素の匂いが混ざって鼻腔をくすぐる。玄関をくぐってまっすぐ左に曲がって商店街の中を通る。
家の建物の正面には大きく『井の湯』と書いてある。そう、うちは4代続く公衆浴場……いわゆる銭湯というやつだ。店名の由来は、元々この場所にあって使われてなかった古い井戸を使って銭湯を始めたからって言うのと、うちの苗字の『上井田』の『井』から取ったって言う二つの理由がある。俺はこの店の5代目で、跡取りだ。そのまま、商店街を駅と逆の方向に進むと見知った顔を見かけた。
「おっす、幸仁」
「よう、泰」
岩淵泰。俺の幼馴染だ。俺よりも2㎝ほど高い身長にスポーツ刈りの頭。成績も良く、スポーツも万能で何かと一緒にいるやつ。細マッチョの体系のせいでYシャツが軽くパンパンに見える。なんというか━━
「なんでお前の方が親友キャラっぽいんだよ!!」
「いきなりなんだよ!?」
いや、もう見た目的にも中身的にも典型的な悪友キャラなんだよなぁ。どことなく『ようこく』の淳に見た目も似てるし。
「毎朝そのやりとりしてて、飽きない?」
「ようサヤ」
横から呆れ気味の声がして、振り向いたらもう一人の幼馴染がいた。山中沙也加。泰と一緒で、物心ついたころからの幼馴染。黄金色のロングヘアーを横で縛ってサイドテールにしている。
「しかも心の底から悔しそうに……」
「まぁ朝の挨拶みたいなもんだからな」
「こんな挨拶ねぇよ!」
泰のツッコミが響く中、3人で学校に向かって歩いていく。
「そういや幸仁ん所は今度の小豆谷祭り、なんかやんの?」
「うちはいつも通りなんもやんねぇな。通常営業だよ」
「だよなぁ」
俺たちの住む小豆谷町には、二つの商店街がある。駅を挟んで南側が『あずたに南通り』北側に『きたあず商店街』。この町では、毎年この6月から7月にかけて、二つの商店街が合同で祭りを開催している。梅雨明けに行っているから毎年日程がバラつくのだが、結構家族連れなどで賑わっている。ちなみにうちの店があるこの商店街は南通りだ。
「泰の店は?」
「俺んとこもなんもやらない」
「出店するようなものも無いしな」
ちなみに、泰の家はきたあず商店街にある銭湯で『湯処 いわぶち』という店に住んでいる。同じ銭湯だが、特にライバル意識を持っているわけではなく、お互いの家で定休日をずらすなど、良好な関係を築いている。
「サヤちゃんのところは?」
「うちは石鹸手作り体験」
「えっ、そんなノウハウあんの?」
「無いから母さんが猛勉強してるわよ……」
サヤの家は南通りの駅寄りにある石鹸問屋『山中商店』だ。石鹸屋なので、俺と泰の家に売り物のシャンプーやタオルなどを卸しによく来る。
「サヤ祭りガチ勢」
「サヤちゃんマジガチ」
「あたしが言い出したんじゃないよ!?」
「でも、サヤの家はちゃんと祭りでるんだな」
「まぁ、仮にも商店会長の家だし……」
そう、サヤのおじいさんは『あずたに南通り』の商店会長なのだ。今朝うちのじいちゃんが言っていた会合とは、恐らく祭りのことなのだろう。
「サヤの家って去年なにやったっけ?」
「……タオル折り教室」
タオル折り……あぁ、タオルで動物とか花とか作るやつか。確か、ばあちゃんがタオルでウサギ作って持って帰ってきたっけ。
「去年うちの商店会で話題になってたよ。南は、会長の店が一番人来てないって」
「なぜ北で話題に!? 一生懸命考えたのに!」
「発案お前かよ!」
泰から衝撃の事実を告げられショックを受けるサヤ。
「アイデアは良かったと思うぞ?」
「ほんと……?」
「タオルで何か作るってプロじゃないとできないしな」
レストランとかは、ナプキンでよく花とか王冠とか作ってテーブルにおいてあるし、タオルで動物でも作って渡したら、女の人は喜ぶはずだ。ただ、参加者に小学校低学年の子が多い祭りには不向きだったのだろう。
「今年はきっと人集まるさ」
「うぅ、ユキくんありがと~」
うるうるとした目でお礼を言ってくるサヤ。相変わらず表情が豊かなやつだ。
「あっ!!」
「どうしたのやっちゃん?」
「今朝集会じゃねぇか?」
「えっ、マジで?」
集会の日はHR開始の8時30分に体育館集合。つまり、10分前には教室に荷物を置いて、体育館に整列してなければならない。今の時間は……17分!?
「おい走るぞ!」
「くそっ! すっかり忘れてたぜ!」
「あたし走るの無理~!!」
校門が見えてきたところで一斉に走り出す。意地でも間に合わせないと……生活指導からめちゃくちゃ怒られる!!
読みづらかったら申し訳ありません。次回からは学校での風景になります。