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緋色の殺意


緋枝は防戦を強いられていた。

間髪いれずに叩き込まれる緋凪の攻撃に、緋枝はただ前に槍を突き出して防ぐだけ。

矢で射抜かれそうになったり、弓を剣のようにして殴られたりした。

それしか出来なかった。

何故なら、緋枝には人を傷つける覚悟なんてなかったのだ。


緋凪の一方的な暴力でしかなかった。

そんな緋枝の姿を見て、緋凪は疑問に思った。

何故、彼女が後継者に選ばれたのだろう。

それは、怒りへと変わったのだった。


「……なんでよ」


無言で攻撃していた緋凪が呟いた。

槍から伝わってくる衝撃に、微かながら感情が篭っているのを緋枝は感じた。


一瞬だけ緋枝は緋凪と目が合った。

その緋色の瞳は涙で輝いていた。


「なんでアンタが後継者なのよ……」

「よりにも、よってッ…………ねェ!」


容赦ない攻撃の中で、緋枝はやっとの事で言葉を紡ぐ。


「アナタは、何を……言ってるんですか?」

「どうしてそこまで後継者に拘るのか、私には理解できません」


ピタリと攻撃が止んだ。

緋凪は弓を振りかざした状態で静止していた。

普通ならこの隙に反撃をするのだが、彼女の顔を見るとその気すら無くなる。


緋凪はゆっくりと弓を下ろした。

まるで、緋枝の言ってることが信じられないとでも言うようだった。


緋凪は唇を震わせながら、緋枝に問いかける。


「……アナタ、名前は?」


「?…………樹浄緋枝です」


「…………か、家族は?」


「……母と父、そして私の3人です」


「そうよね……私のことなんて覚えてないわよね……覚えてるはずが、ないものね」


「質問の意図が分かりませんが、アナタのことなど、記憶には…?……ないです」


断言しようとした瞬間、一瞬だけ記憶に情景が再生された。

自身が寝てるベッドの横で、誰かと語り合った光景が。

顔までは分からなかったが、酷く懐かしく感じる光景だった。

その一瞬の光景が緋枝を混乱させた。


その隙を緋凪は突いた。

後ろに距離を取り、矢を放つ。

放った一本の矢は、緋枝に当たる10m手前で分裂し、雨の様に叩きつけた。


「ッ………!!!!」


緋枝は槍を前に突き出し回転させて豪雨の如く襲い掛かる矢の雨を防ごうとするが、殆ど意味を成していなかった。

回転する槍が矢の大部分を防いでくれてはいるものの、槍の隙間を通り抜けて緋枝の腕を少しずつ抉っていくのだ。

鋭い痛みに緋枝は顔を歪ませる。

今集中力を切らせて、展開してる盾の軸がぶれてしまったらそのまま矢の勢いに負けて盾が崩壊してしまうのだ。

痛みに耐えながら意識を集中し、何とかぶれない様に左手で右手首を掴む。


矢の雨を乗り切れば隙ができる。

そのチャンスを探っていた。


そしてその時が来た。

緋凪の魔力が尽きたのか、豪雨の様に襲い掛かっていた雨はピタリと止んだ。

緋枝はすかさず槍の回転を止め、緋凪との距離を縮めようと地面を強く蹴った。


だが、緋枝の瞳に映ったのは待ち望んでいたとばかりに笑みを浮かべる緋凪の姿だった。

それと同時に、攻撃が止んだのは魔力切れではなく、緋凪の罠であったことに気づいたのだった。

彼女の後方上空には白い球体が二つ浮遊していた。


「馬鹿ね」


短く、本人には聞こえないように緋凪は呟いた。

球体は紅い光を纏うと、倍はある光線を放った。

放たれた光線が緋枝の足元に着弾すると、地面の内側から膨張した熱が地面を割って溢れ出た。

それは緋枝の身体を吹き飛ばすのに十分な威力だった。


緋枝は痛みに耐えながら起き上がる。

その視界には上空で矢を放つ緋凪の姿があった。

緋凪が放った矢は紅い光を纏いながら緋枝に襲い掛かった。

あの紅い光がさっきの爆発を生むとしたら、被弾したら五体満足でいられるかどうか。


その場から一センチでも離れられようと、動きが自由に効かない身体に鞭打ちながら

5センチほど移動した時、眼前に矢が着弾した。


勿論、矢は紅い光を纏っており、その矢が最終的にどうなるかは火を見るより明らかだった。


緋枝がとっさの判断で横に向かって飛んだ直後、着弾した矢が紅い輝きを放ちながら火を噴きながら飛び散った。


火は彼女の真上を通り過ぎ、空気を焼き焦がした。


「惜しい」


地面に降り立った緋凪は短く呟いた。

残念そうな台詞を彼女はどこか楽しげに。


瞳に映るのは地面にうずくまっているもう一人の少女。

攻撃をして来ず、だからといって反撃もしてこない。

ただ彼女から出てくるのは悲鳴だけ。


正直、緋凪にとってただの人形を相手にしている気分になっていた。

自身が思っていた以上に歯ごたえが無いこの戦いに、彼女は飽きてきたのだ。


「もう、いいよ」


その口調はまるで飽きたおもちゃを捨てる子供の様だった。

地面にうずくまっている緋枝は痛みに顔を歪めつつも彼女の方を振り返る。


「こんなに弱いなんて思ってなかった……だから」


彼女はゆっくりと右手を振り上げる。

その仕草に緋枝は来るであろう次の攻撃に備えて身構える。


「最期は私と同じ苦しみを味わって死んでいくがいい」


緋凪振り上げた右手を振り下ろした。

その手に武器は無く、なんの魔方陣もなかった。


だが、変化は直後に起こった。

6本の蒼く輝く矢が緋枝の周りに円を描くように突き刺さる。

その円の中に大量の水が何処からか湧き出したのだ。

水は矢から出ることなく螺旋を描きながら3メートルを超える水柱となって緋枝を飲み込んだ。


水柱は二層構造になっており、緋枝が出て来れないように外側だけ螺旋を描いていた。

緋凪を見つめる緋枝はあることに気づいた。

いつの間にか野次馬が一人残らずいなくなっているのだ。

だが、身体中の酸素が無くなっている今の緋枝には、野次馬がどこに行ったのかを考える余裕はもうなかった。

意識が薄れ行く中、緋枝の瞳に移ったのは悲しみ表情を浮かべる緋凪の姿だった。

そして意識が途切れる瞬間、彼女の手を離れ、頭上に漂っている神樹が光った様な気がした。


2ヶ月も放置して申し訳ありません。

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