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Path to idea  作者: シトール
16/19

5-2

 その日から俺の読書生活が始まった。

 暇を見つけては預言書を開き、中に書いてある英文と格闘する……ということで、英語能力が馬鹿みたいに低い俺としては、かなり覚悟をしながら英和辞典を片手に挑もうと思ったのだが、これも英雄力の賜物だろうか、内容が案外と読めるのだ。

 見た事もない、読み方もわからない英単語すら意味だけは把握できるのだ。これが気味が悪いほどに面白い。

 そんな面白さに惹かれて、俺は翌日の学校でも洋書を読み漁るインテリ男子を気取るのであった。


 それは、とある日の二時間目終わりの休み時間である。

「おぅ、鉄太、お前マジか」

「あ? なんだよ」

 話しかけてきたのはクラスメイトの男子。

 俺が読んでる本を見て、彼は目を丸くしていた。

「お前それ……なんか、歴史深そうな本を読みやがって」

「そう、これは古書であり洋書。テメェらアホには手に取ることすら憚られる代物だよ」

「鉄太のクセに! インテリぶりやがって! ホントは微塵も読めてないんだろ!」

「ところがどっこい。英語は読めないが内容はわかる」

 嘘は言っていない。だがコイツは信用なんかしないんだろうな。

 絶対信じてない目ぇしてるもん。

「じゃあなんて書いてあるんだよ」

「うん? えーと……例えばこれ。聖剣の特性」

「……は?」

「……いや、え?」

 聞き返されて、俺も自分の目を疑う。

 え、俺、今なんて読んだ? ってか、どこ読んだ?

「うわ、自分で読んでてナンだけど、マジだ。聖剣の特性って書いてある」

「……鉄太、ゲームの攻略本読んでんの? 装丁凝ってんなぁ」

「違ぇし! いや、てか待って! 俺、今ちょっと集中するから!」

 そんなあからさまな記述があって良いのか!? もういっそ、罠くさいまであるぞ、これ!

 そう思いながらも、俺は本に書かれている文章を読み進める。

 そこに書かれてあったのは紛れもなく『聖剣』とされるモノの特性であった。

 聖剣には幾つか特殊能力があり、普通の剣では物理的に引き起こせない事ですら実現させてしまう……ほうほう。

 特筆すべきはその『斬る対象』である。

 聖剣の持つ本来の力を持ってすれば、使用者、持ち主、振るっている人物の斬りたいものを斬る事が出来る。それは物理干渉を受けないものでも斬ることが可能だ。

 例えば――

「おーい、東間ぁ。東間、いるか?」

「お、鉄太。坂本教諭がお呼びだぞ」

 男子に声をかけられ、読書の途中で顔を上げると、確かに教室のドアの所に坂本センセが立っていた。

「なんスか?」

「おぉ、東間。お前、渡会から何か聞いてないか?」

「渡会……さん、ですか? 俺は別に何も……」

 渡会といえば愛菜の苗字である。多分、坂本センセも俺と愛菜が幼馴染である事を知って、俺に愛菜の事を聞きに来たのだろう。

 いや、だが、愛菜について何が知りたいというのか。

「愛菜……渡会さんがどうかしたんスか?」

「いや、今日休んでてな。連絡もないからクラスの女子に聞こうかと思ったんだが、誰も連絡を受けてなくて、東間ならって話になったんだよ」

「愛菜が……休み……?」

 ジワリ、と嫌な予感がする。

「連絡がないって、家に電話はかけてみたんですか?」

「いや、あんまり家の事情に介入すると、今のご時世面倒くさくてなぁ。出来れば適当に理由をつけて休みって事にしてやりたいんだが」

「くっ、先生も大変っスね!」

「いや、面目ない」

 坂本センセを横目に、俺は携帯電話を取り出す。

 手早く連絡帳アプリを開き、そこから愛菜の電話番号をコールする。

 ……が、出ない。

 すぐに留守電サービスに繋がってしまい、愛菜が応答する様子はない。

「出ないですね」

「そーか。……まぁ、ちょっと先生のほうでも連絡してみるわ。ちょっと前にも無断欠席とかあったしな。なんとかなるだろ。東間、ありがとな」

 坂本センセを見送り、俺は携帯電話をしまう。

「渡会さん、休みなのか?」

「らしいな」

「お、おい、鉄太……どうした? 顔色悪いぞ」

「え? ……そうか?」

 自分の顔に手をあて、気分が悪い事を自覚する。

 嫌な予感が収まらない。

『鉄太さん!』

「うぉ!?」

「うわ! どうした、鉄太!? 急に大声出して!?」

「あ、いや、すまん。なんでもない」

 急に俺の頭の中で響いた女の声に驚いて、変な声を出してしまった。

 顔色の件もあってクラス中から奇異の視線で見られてしまっている。

「おい、鉄太……お前も早退した方が良いんじゃないか?」

「え? あ、おう……」

「良いから、先生には俺から言っておくよ。帰れ帰れ。暖かくして寝るんだぞ」

 友人から背中を押され、カバンに荷物を詰められ、それを持たされる。

 教室の中から向けられる優しい視線が逆に痛々しかった。

「チクショウ、俺が何をしたというんだ……」

 あらぬ疑いをかけられてしまった気がするが、まぁこの際どうでもいい。

『リコか!?』

『鉄太さん、大変です!』

 改めて念話によって返事をすると、焦った様子のリコの声が聞こえてきた。

 今日もペーパーナイフにしてポケットに忍ばせているのだが、今の今まで忘れていた。

 何せ、預言書に書かれてあった事が衝撃的過ぎたのだ。

 いや、そんな事はともかく。

『何があったんだ?』

『ポータルがまた開いている気配がします!』

『はぁ? ポータルが開くのは悪魔が現れる時だけじゃないのか!?』

『それは預言に書かれていた条件だけです。力を持つ誰かが開けようと思えば、ポータルはまたその口を開くでしょう』

『……なるほど、気分悪くなるほどの嫌な予感、ってのはそれ込みってことか』

 俺の感じている嫌な予感。それは単なる予感で済ませるには強烈過ぎるものだ。

 だが、これがポータルの開いている気配とのツープラトンだとしたら、この重たい気分の悪さも理解できる。

『俺にはポータルの位置がわからんのだが、前の時とは違うのか?』

『以前は完全にポータルが開いていましたが、今回は開きかけです。気配が薄いんでしょう。私もちょっとあやふやですが、やっぱり愛菜さんの家の方から感じられます』

 愛菜の家……アイツが休んでいる事と何か関係があるのか?

 とにかく、嫌な予感は収まらない。現場へ急行する事を優先しよう。

『リコ、ちょっと揺れるけど我慢しろよな!』

 思い切り学校の廊下を蹴り飛ばし、愛菜の家へと向かった。

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