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Path to idea  作者: シトール
12/19

4-1


 翌日。

 俺はいつも通りの朝を向かえ、適当に準備をした後、いつも通りに最寄のバス停まで向かっている。

 昨日あったことを何度も思い返しているが、いまいち俺の中での答えが纏まらない。

 あの男は、誰だ。

 愛菜の恋人というには登場が唐突過ぎる気がしたのだ。

 俺と愛菜は幼馴染である。そこそこの付き合いの長さがあるし、それ故かある程度の交友関係も把握できてしまう。

 とは言え、アイツの全てを知っているわけでもなし、アイツのように読心術が使えるわけでもない俺は、アイツに恋人が出来たとしても気がつけないことはあるだろう。

 だが、それにしてもあの男の出現タイミングが悪すぎる。

 俺の中に渦巻く疑念。

 ヤツは悪魔の一匹なのではないか、と。


 これまで出会ってきた悪魔は狼男なりコウモリ男なり、人間に何かの動物をブレンドしたような容姿をしていた。それは悪魔と言うのに充分な異形であり、バケモノ感満載のビジュアルであった。

 しかし、そんなバケモノ感満載ではない悪魔がいたっておかしくはないのではないか。

 あの男が悪魔であったのなら、ポータルの解放と同時に愛菜の家にいた理由はつく。

 ……解せないのは愛菜の対応だ。

 何故、アレから連絡の一つも寄越さない。

 悪魔が現れたのなら、その危機を俺に知らせてきてもおかしくはない。何せ、俺の手元にはリコがいる。コイツは悪魔に対する最高の切り札だ。だとしたら、悪魔の近くにいる愛菜が助けを求めるために俺に連絡をしてくる可能性は高い。

 しかし、それがない。

 来たのは昨夜のメールの一通のみ。

『今は大丈夫。明日、話す』

 この短文のみで構成されたメールでは、愛菜になにかあったのかもしれない、と言う疑念を払拭しきれない。

 何故、俺はあの時、易々と退いてしまったのだろう。

 リコを振り切って、愛菜の部屋に乱入する事は出来たはずだ。

 それが出来なかった俺の不甲斐なさが未練として残り、心に燻り続けている。

 そして最後に、あの男の顔、どこか俺の記憶の底を引っかく。

 どこかで見た事がある気がするのだ。

 だがそうなると、アイツが悪魔である事の反証になってしまう気がするし、うーん……うーん……。

『……たさん! 鉄太さん! 聞こえてますか!?』

「おぉ?」

 急にリコの声で現実に引き戻される。

 そこは見慣れた通学路。もうすぐバス停へとたどり着く頃合いだ。

「もうこんな所まで来ていたか。早いな」

『そりゃそうでしょうよ! 鉄太さん、今めっちゃ速い速度で歩いてましたからね! 競歩もかくやと言うレベルでしたよ!』

「え? マジで?」

 振り返ってみると、同校の生徒がぎょっとした目でこちらを見ている。また、運動部の連中は『また会えたか!』と言う感情を隠しもしていなかった。

 また面倒な事になりそうだ。

「気付いてたなら教えてくれよ」

『何度も声をかけましたよ! それでも気付いてくれないんですもん!』

 そうなのか、考え事に耽りすぎたか。

 ……と、姿なきリコの声に応答しているわけだが、傍から見ればおかしな人間に見えるかもしれないな。

 リコの姿が見えないのは、ヤツにちょっとした変化の術を使わせているからである。

 元々が剣であるリコが、人間の姿から別の姿になるなんて造作もない事で、今はペーパーナイフのキーホルダーになってカバンにくっついてもらっている。

「なぁ、リコ。お前は頭の中に直接声を送ってるっぽいが、俺にもそれは出来ないものだろうか?」

『え? 出来ると思いますよ?』

「マジで? どうやんの?」

『多分、鉄太さんのモノローグ、大体私には聞こえてます』

「……え、マジで!?」

『……あの男の顔、どこか俺の記憶の底を引っかく……詩的表現ですね』

「やめろぉ!」

 なんだか朝から赤っ恥だ。


何故リコを変身させてまで連れて来たのか、と問われれば、現状では四匹の悪魔がこの町に存在しているからだ。

 手分けして探せれば楽ではあるが、俺は愛菜と話をするために学校へ行かねばならず、昨日一日町を歩き回っても悪魔を発見できなかったリコでは信頼性が薄い。

 ならば無駄に歩き回るよりも、猟奇事件の発生をニュース等で確認して当たりをつけたあとに周辺を探ったりした方が効率的ではある。……そのために少なからずの犠牲を払わなければならないと思うと死ぬほど胸が苦しくなるが、今はそれ以上に取れる手段がない。

 闇雲に歩き回ったとしても、隠れている悪魔を見つけるのは難しいのだ。

 ならば俺とリコが一緒にいて、戦力を分散させず、あらゆる状況に対応出来た方が良い。

 未だに悪魔の底力は計り知れない。狼男もコウモリ男も楽勝だったからと言って、次もそうなるとは言えない。

 悪魔に対する最大で唯一の対抗手段である俺たちがバラバラに行動していて各個撃破され、再起不能になるよりは良いはずだ。

 そうやって自分を納得させていないと、すぐに不安で潰れそうだ。

「せめて愛菜が言ってた謎の感覚の察知が出来れば楽なんだが……」

『それって、鉄太さんは出来ないんですか?」

「簡単に出来るようなら苦労はしねぇよ」

『英雄力なら愛菜さんよりも鉄太さんの方が高いんですけどねぇ。質の問題でしょうか』

「英雄力に質だのなんだのってあるのか?」

『ええ、どんな英雄にも得手不得手があります。万能の人間なんていませんからね。きっと愛菜さんは索敵に向いている英雄傾向なのでしょう』

「じゃあ、俺は?」

『元はどうかわかりませんけど、契約により私を扱う資格を有した事で、前衛バリバリに偏ったでしょうね』

「お前による補正込みかよ……。俺が前人未到の万能たる英雄だったらどうするんだ」

『だとしたら、元々私を扱う資格もあったでしょうし、私による補正は微々たる物です』

 なるほど、なんとなく英雄力に関する知識を得てしまった。


 バス車内での運動部からの勧誘をのらりくらりと潜りぬけ、校門を通り過ぎ、昇降口をあとにする。

 既に学校へ到着している生徒は多くおり、教室へ向かう廊下はそこそこ賑やかでもあった。

 そんな中、俺も我がクラスへと足を向けたのだが、教室の前に見知った影を見つける。

「愛菜!」

 そこにいたのは愛菜だ。

 やっぱり無事だったのか。見た目上は怪我もなさそうだし、ちょっとテンション低そうな表情が気にかかるが、それでも五体満足なのは確認できた。

 愛菜は俺を待っていたのか、俺を見つけるとすぐにこちらに駆け寄ってくる。

「鉄太、昨日の話なんだけど……」

「おぅ、何があったか詳しく――」

「ごめん、今もちょっと無理なの。昼休み、またグラウンドの傍のベンチで待ってる」

 それだけ言うと、俺が声をかけるのも待たずに自分のクラスへと足早に去ってしまった。

 アイツが教室に入る直前、教室から顔を出してきたのは、あの浅黒い男。

 愛菜もヤツの顔を確認したが、すぐにその横を通り過ぎて教室へと入っていった。

 男は俺を一瞥し、口元を歪めて顔を引っ込めていった。

 ……挙動がいちいちムカつくヤツだな。

「しかしあの男、この学校の制服を着ていたし、この辺りを自由に歩き回れるって事は、同じ学校だったのか」

『同じ学校だったとしたら、鉄太さんも何度か見た事あるんじゃ? さっきも見覚えがあるって言ってましたし』

「いや、そう言うんじゃないんだ。俺の記憶にあるあの顔は、もっとこう……上手く言えないけど、多分かなり昔の記憶な気がする」

 俺が記憶の底、と比喩したのはそういう意味である。

 かなり埋もれてしまった過去の記憶。そこにあの男に似た顔があった気がするのだが……。

 いや、そんなことよりもだ。

「リコはあの男から悪魔の気配とか感じないのか?」

『うーん、正直微妙です。前にも言った通り、悪魔たちは潜伏スキルが高いようですから、気配だけで察知するのは難しいかと』

 そう言えば、最初に現れた三匹のうち、最後の一匹も見つけられていない。

 その上で更に三匹のおかわりが現れたのだ。ことは急を要するだろう。

『ですが、鉄太さんの心配の通り、ポータル解放のタイミングとあの男の子が現れた場所とタイミングを考えると、無関係とは考えにくいですね。もしかしたら彼自身がポータルそのものと言う可能性もあります』

「そんなことまでありえるのかよ……何でもアリだな、ポータル」

『まぁでも、愛菜さんがお昼に話すって言ってたなら、それで大体の事はわかるんじゃないですか?』

 それもそうか……。

 昨日、愛菜の家でなにかあったことは間違いない。その詳細を愛菜が知っているのなら、その情報を得てから行動した方が間違いはないだろう。

 だが気がかりなのはどうしてそれを言い渋るのか、と言うこと。

 何故すぐに教えてくれないのか。情報共有をしにくい懸念材料でもあるのか? それがあの男だったりするのだろうか?

「とにかく、今は愛菜の報告を待つか。それまで、リコはそのままペーパーナイフのままでいろよ。変に変身を解いたりすると厄介だからな」

『はぁい、わかってますよぅ』

 気の抜けた返答が帰ってきたが……大丈夫かコイツ。


そんなリコをカバンに隠しつつ時計は進み、いつの間にやら四時間目の始まる頃である。

「もうすぐ愛菜の言ってた昼休みだが……」

『しょーじき、退屈です。何か劇的なイベントはありませんかね』

「知るか。テメェの暇潰しのためにセンセーショナルな出来事が起こると思うな」

『でも、さっきから周りのクラスメイトの方々はそわそわしてるじゃないですか。何かあるんじゃないですか?』

 確かに、リコの言う通り、クラスメイトはそのほとんどがソワソワと落ち着きがない感じを隠しきれていなかった。

 それもそのはず、昼休みを越えた後のホームルームで、今期初の席替えが予定されているのである。

 席替えと言えば学生生活でも重要なイベントの一つである。

 学生生活の一喜一憂は席順に左右されると言っても過言ではない。

 席順一つで毎日の登校が憂鬱になったり、退屈な授業もバラ色の日々になったりする。

 そんなイベントを前にしてソワソワするな、と言う方が無理だろう。

 俺の場合はそんなもんよりもかなり大事を抱えているので、席替えに心を馳せている余裕がないのだが。

『なるほど、席替えですか。なんか青春の匂いがしますよ』

「勝手に人の心読むのやめてくれる?」

『だだ漏れなんですもん、聞きたくなくても聞いちゃいますよ』

「耳塞いでおけ。マジで」

 その内恥ずかしい独り言も聞かれそうで怖いわ。

「おーい、鉄太ー」

 そんな時、我がクラスメイトから声をかけられる。

 こちらにやって来たのはクラスの生徒代表たる学級委員殿であった。

「どうした、俺様に何か用か」

「ああ、はさみ持ってないかなって思って」

「はさみぃ? そんなん使う授業あったか?」

「なぁに言ってんだよ。昼休みが終われば席替えだろ? それに使うクジを作るんだよ」

 なるほど、席替えはランダム性を重視し、くじ引きで行う事が多いのだが、このクラスでもそれを採用するわけだな。

「はさみか……俺は持ってないが……あ、いや、待てよ」

『……鉄太さん、嫌な予感がしますよ!』

 どうやら俺の視線がカバンの中のペーパーナイフに向いている事に気付いたらしい。

「ペーパーナイフならここに」

『待って! 鉄太さん! 待ってください!』

「ペーパーナイフかー、まぁ使えない事はないか」

 リコが変化しているペーパーナイフは、そこそこ大きな代物である。

 刃渡りにして十センチほど、それを扱うための柄も握りこぶしの一回り小さいぐらいと言う長さだ。全長にして三十センチはあろう。

「鉄太……お前、これ、ちょっとした凶器になるんじゃないか?」

「バカヤロウ。様々な恐ろしい事件が跋扈する昨今、これくらいの自衛手段は持っていても損ではあるまい」

「先生にバレたら絶対怒られるからな」

「じゃあ使わないのか?」

「いや、ありがたく使わせてもらうけど」

『鉄太さん! 考え直して!』

 さっきから幻聴のような声が聞こえてくるが、多分気のせいであろう。

 くくく、俺様のプライベートな発言を盗み聞きした罰だ。

「まぁじゃあ、ありがたく借りるよ」

「おう、大事に使えよ。女子を扱うように丁寧にな」

『待って! 待ってって! ホント、……んあッ!!』

「うお!?」

「お、どうした、鉄太」

 変な声が変な声を呼び、俺が変な目で見られてしまった。

 いや、この際俺が変な目で見られたことは横に置いておこう。

『り、リコ?』

 念話っぽい感じで話しかけてみるが、返答がない。

 ただ、ちょっと荒い息遣いのようなものが聞こえてくるのみ。

「どうしたんだ、鉄太。ペーパーナイフ、借りてくぞ?」

「え? あ、おう……」

『ふあぁん!』

「い、いや、ちょっと待ってくれ!」

 俺の頭の中に嬌声が響き、俺はペーパーナイフを掴む。

 丁度俺の手がペーパーナイフの刃の部分、学級委員が柄の部分を掴んだ形となる。

「お、おい、どうしたんだよ、鉄太。ペーパーナイフだからって刃の部分を握るのは危ないぞ」

「い、いや、そうなんだが……ちょっと待ってくれ」

「今更、やっぱやめるとか言うなよ。時間は少ないんだ」

『く……ぅん、や、に、握らないで……!』

「と、とにかく一旦離してくれ、委員長!」

「そんな事を言われても……貸さぬと言われれば貸してほしくなるのが心情」

『ふあああぁ!』

 グッと力を込めて握りこまれた柄の部分。

 どうやらそれが嬌声の引き金となっているらしく、俺の頭の中にピンク色な声が大音響で響いてくる。

 こ、これは、俺の身体にも悪い!

『や、やめ、やめてくだ、さい……そんな、ぅん!! 強く、しないで……ふっ!』

「委員長! 売店にはさみが売ってたはずだ! それを購入すれば、ペーパーナイフを使うよりもスムーズに事が進められるとは思わんか!?」

「いや、でも今から買いにいくと逆に時間のロスだろ」

『はあああん! だめぇ、やめ……ぅぅんッ!』

「合理的に考えろ! ペーパーナイフでクジを作るのは無理がある!」

「大丈夫だって。俺ぐらいのペーパーナイフの使い手になれば、クジぐらいチョチョイのチョイだって」

『あ、あっ! あっ!! あっ、あっ!!』

「言葉にならなくなってる! 言葉にならなくなってるから!」

「……はぁ? なに言ってんだ、鉄太」

『らめ……へんひん、ほけひゃう……』

「……んあ!? 変身解ける!?」

「変身? とけ……? おい、鉄太、ホント大丈夫か?」

「いや、ごめん! マジでちょっとタンマ!」

 一つ短く謝り、俺は強引にペーパーナイフを奪い取り、教室を飛び出す。

「おーい、授業もうそろ始まるぞー!」

 そんな委員長の声を聞きながら、しかし俺の思考は別のことへと走らされる。

 即ち、どこへ隠れるか、だ。

「変身解ける、ってどっちだ!? どっちになるんだよ!? 剣!? 人間!?」

『わはひまへん……でも、もう、らめ……』

 呂律が回らなくなっている。念話で呂律が回らなくなるってどゆこと?

 いや、そんな事を考えている場合ではない。

 今はどこへ隠れるか、というのを考えなければ。

 どこだ、どこに隠れれば人目につかない!?

 リコの変身が解けて剣になろうと人間になろうと、どっちにしろ事件だ。

 俺がリコを連れて来たとバレれば、そこそこ大事になるだろう。

 それは避けなければならない。

「そうだ、トイレ! 個室!」

 目に入ったのはトイレの看板。

 俺は男子トイレに駆け込み、出て行く男子とぶつかりながらも個室へと駆け込む。

 すれ違ったヤツも、多分漏れそうだったんだろうな、と納得してくれるはずだ。

 個室へ入った俺はすぐにドアに鍵をかけ、ペーパーナイフをポケットから取り出す。

 よくよく考えてみれば、ポケットに入れてる時点で変身解けなくて良かったわ……。

『おい、リコ、大丈夫か!?』

『ふ、ぅ……うぅん……』

『余韻に浸ってエロ声出してる場合じゃないぞ! 一旦、変身解け!』

『はい、マスター……』

 俺の声に従い、リコは一旦変身を解く。

 きっと多分、ペーパーナイフのままでいるよりは楽なはずだろう……っておい!

「なんで、全裸!?」

「ふぇ?」

 変身を解いたリコは人間状態の、何故か全裸の状態であった。

 おかしいだろコイツ、なに考えてんの。

 しかも全身から力が抜けているのか、便器の上に座っている状態なので、若干脚が開き気味である。やべーよ、やべーよ……。

「女子ならもっと貞淑さを持ちなさい!」

「そんなこと、イったって……」

「あーもう! 隠せ隠せ!」

 俺は学ランの上を脱ぎ、リコに着せてやる。

 これで大分目に悪い部分は隠れただろう。

「はぁ……こりゃ落ち着くまで教室には帰れないな」

「す、すみません。でも、こんなことになるなんて……」

「お前の柄が性感帯なんて聞いてないぞ」

「そうじゃないんです! 剣の状態の時にマスター以外の人に触られると、ちょっと変な反応が出ちゃうんです!」

「変な反応って……それがエロ声の原因ってか」

「うぅ……穢されちゃいました……」

「強姦に遭ったあとのようなセリフを呟くんじゃない。事情を知らず罪もない委員長に前科がつくだろうが」

 すまんな、委員長。俺の中でお前はもう強姦魔だ……。


 そんなトイレの個室の中で、俺は授業開始のチャイムを聞く。

「あー、始まったか」

「す、すみません、私の所為で……」

 リコはまだ変身能力が落ち着かないらしく、未だに俺の学ランを羽織っている。いつも着ているような服を呼び出す事も出来ないんだから、相当激しい攻めだったんだろうな、委員長。

「まぁ、授業サボる理由が出来たのは俺にとっても良い事だ」

「サボって良いんですか?」

「良いとは言わんが、止むを得ない場合は仕方ない」

「悪い子……」

「お前の所為だと言うことは肝に銘じておくように」

「うっ、すみません……」

 シュンとうなだれて小さくなるリコ。

 見かけは年上の癖して、こう言う仕草は子供っぽい。

「お前見てると、ホントにお前が剣なのか、疑わしくなってくるよ」

「え、酷い……」

「いや、悪い意味じゃなくてさ。なんつーか……お前が剣って言う戦うための品物なのかと思うと、ちょっと今までの価値観がブレる、というか」

「失礼な。私は立派な剣です!」

 胸を張るリコ。やめろやめろ、学ランが伸びる。

「私を作った鍛冶師も、丹念に丹念に、何度も何度も、それこそ呪詛のように『聖剣になれ、聖剣になれ』と念をこめて鉄を打ってくれました」

「それ、ホントに呪いなんじゃないのか……」

「そのお陰で私は立派な聖剣になれたのです! えへん」

「立派、ね……」

「ど、どど、どこ見てるんですかぁ!」

「別にお前のエロボディの事は言ってねぇよ」

 勝手に勘違いされても困る。

 俺が思っていたのは、コイツが戦っていた時の事だ。

 狼男の時は一瞬すぎてわからなかったが、コウモリ男の時はそこそこ見れていた。

 速すぎて何が起こっていたのかを正確に理解するのは無理だったが、それでもアレが人知を逸した攻防だったのは理解できる。

 あれは確かに、戦う人間の姿であったと言って良いだろう。

 さっきの普通の女の子らしいしぐさと戦っている時の姿。どちらがリコの本当なのだろうか。

「でも、まだ足りないんです」

「え?」

 俺が記憶に思いを馳せている内に、リコは少し遠い目をしていた。

「まだ私の理想には届かない。もっともっと聖剣らしく。英雄の証として立派にその役目を果たさなければならないんです」

 そう言えば、まだ出現した悪魔が残っている。

 ヤツらが町の中に潜伏しているのだとしたら、それを倒せていない現状、聖剣としての役目は果たせていないと言うことだ。

 リコにはそれが口惜しいのだろう。

「ああ、俺も手伝う。だから、頑張ろうぜ」

「はい、よろしくお願いします!」

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