マリーの話
「アナタの性格ブサイクよりましよ。」
マリーが同期の女子に言い放った言葉だ。
その言葉をもらった彼女は顔面蒼白させて、ただ立ち尽くしていたらしい。
つくづく、マリーは強いと思う。
…
白いハトがマリーの手から離れ、緑の向こうの青空へ向かった。
ここは静かな森。
名前はあるけど、ないようなものになってる。
だから言わない。
今はボクたちの庭だ。
「1たす1は2でしょ?だから4たす1は5なのよ。」
マリーは相変わらずめちゃくちゃだ。
「…何の話?」
「あ、ナサエル!アンタ今心の中で私のことバカにしてるでしょ!
カナエ、これは気分の問題でね…」
「…僕には…さっぱりだ。」
ボクはハーディーンと同意見。
さっぱりわからないだけで、別にバカにしてるわけじゃない。
それでもマリーはボクたちを置いて、別次元の言葉を披露している。
「私は1なんだわ。どうあがいても。」
「僕も“1”?」
「カナエは違う、“2”よ。だって精霊さんがいるもん。」
「…そう、なのか。」
「じゃあ僕は“1”?」
「そうね…ハーディーンは…ううん、ナサエルがいるから“2”?
…うー…なんか違うなあ…。」
言い出しっぺのマリーがこうでは、ボクたちはみんなお手上げ。
ボクは苦笑して、ハーディーンは目を逸らす。
カナエは、ずっとマリーを見つめていた。
この話に興味があるのだろうか?
「私は“1”。それは変わらない。
でも時々…3になったり、5なったりするの。0にも、マイナスにもなるわ。」
「??…どういう意味さ?」
ボクはたまらず尋ねてしまった。
もう一度言うけど、マリーはめちゃくちゃだ。
「…ナサエル、ごめんなさい。私もわかんない。」
「なにそれ。」
「上手く説明できないの。
…うんとね…。…私、よくカッとなって暴れたりするでしょ。」
三人が同時に頷いた。
ボクはもちろん、ハーディーンも、カナエまでもだ。
マリーは少しムッとしてボクたちを睨んだけど、とりあえず今は流してくれるらしい。
「そんな時、私の力は倍以上に膨れ上がってるのよ。…自分でも驚くんだけど。」
「…。」
「…感情で魔力が変化するように思うだけじゃないか?例えば、怒りに任せると制御できずにたくさん使ってしまうだけで…。」
「うん。魔力は倍使ったなら、その分疲れるはずだよ。」
「アンタたち、わかんないわね。魔力の問題じゃないのよ!」
…じゃあなんだろう。
何度も言うようだけど、マリーは…やめておこう。
「…僕は、マリーの言いたいことがなんとなくわかる。」
「カナエ!」
言っておくけど、カナエも大概がめちゃくちゃな奴だ。
まず第一に、マリー語が理解できることがオカシイ。
「それって、マリーだけの力じゃないんだと思う。」
「じゃあ怒ってる私は“1”じゃないってこと?」
「少し違う。怒ってもマリーは“1”だよ。そこに、怒りだとか悲しいだとかいう感情をかけていくんだ。」
「えー?」
「恋とか、復讐とか、守りたいもの、全部に僕たちは影響を受けてる。
…マリーは感受性が豊かだから、それを強く感じるんだと思う。」
マリーは考えた。
腕を組み唇を尖らせ、視線を真っ直ぐ伏せて黙る。
お手上げ状態のボクとハーディーンは、続きをと本を開く。
二人で読んでいた本。
そんなに読み進めていなかったけど、二人ともどこまで読んだか忘れてしまっていた。
マリーはめちゃくちゃだけど、本より面白い。
「わかった!」
「なにが?」
「私、なんか色々なものを寄せ集めてできてるのよ!」
「…はあ?」
「だから、アンタ本当にわかんないわね。
…ナサエル、ハーディーン、カナエ、友だち。お母さん、お父さん、ベビー…」
首を傾げたまま聞くしかなかった。
聞くと、マリーはどうやら大事なものを次々に口に出していっているらしい。
「いや、違う。…あの子の名前が出てきた。」
「あの子…?…ああ…。」
あの子とは、マリーが最近喧嘩した女子だ。
高飛車で、ボクも苦手なお嬢様。
どうやら彼女は、マリーの友だちやマリー自身に暴言を吐いたらしい。
そしてキツい一言を腹に食らった。
顔面蒼白した彼女を見たかったような気もする。
「っと…このくらいかしら?」
ひとしきり何かを言い切ったらしい。
満足そうなマリー、難しそうなカナエ、不思議そうなハーディーンと、呆れていそうなボクがいる。
「これは全部私を作っているものなのよ。」
「…。」
「はあ…」
「…多いね…。」
「そう、多いのよ!だから私ってよく怒ったり笑ったりするの。私を作っているものが絶えず変化してるからだわ。」
「なるほど、そうか。」
わかったのはカナエだけだ。
大人しく読みかけた文をみつけてさっさと続きを読んだ方がいいらしい。
本に視線を戻すと、ついてハーディーンも目を落とした。
同時に、マリーが空を見上げる。
カナエもそれにならう。
「あ。」
「きたわ。」
白いハトが舞い降りてきた。
ハトは丸めた紙をくわえている。
そしてマリーの手のひらに降り立つと、紙を残して静かに姿を消した。
「どれどれ。」
「マリー、何?それ。」
マリーは返事をせずウインクをよこした。
「きゃー!パーティーに来ないかだって!
…あ…たらしい…お友だちだってお父様に紹介したい!?えー!どうしよう!」
手紙を投げ出してマリーが立ち上がる。
そしてジタバタした。
舞う手紙を捕まえて見ると、一文目は謝罪から始まっていた。
結びは、差出人の名前。
…色々有名すぎる名前だ。
「マリーって…」
「ああ…。」
ハーディーンに手紙を差し出す。
彼は“あの子”の名前を見ただけで珍しく目を見開いた。
『暴言お許し下さい。
あなたって素敵な人ね。ユーモアたっぷりで。
是非私からもお願いします、お友だちになって下さい。』
「さすが、マリーだろ。」
カナエは知っていたらしい。
はしゃぐマリーを見つめながら微笑して言った。
ボクらは頷く。
マリーにはかなわない。
多分、一生。
20080630




