去る五月と導師
「ティル!」
皺一つない白い服。
襟は広く、しっかりと伸びて前で留められている。
腰には長い布を巻いて、足をしっかり隠していた。
この村の、光魔術士の制服だ。
そして右肩に掛かっている赤く細長い布は、彼が位の高い光魔導師であることを表している。
彼の名はオーベルリン。
彼の目元と口元には深い皺。
金の抜けた白髪は短い芝生のように切り揃えられているが、よく見ないと髪があることさえわからない。
オーベルリンはよく響くバリトンの声で、ティルという名前を呼んだ。
細くも太くもない、一本の木を見上げて。
「降りてこんか!すばしっこい奴め、そうしているとまるで猿のようだぞ!」
「さ…っ!?…くそじじい…自分は木も登れないトドのくせに!」
「登ってみせないだけだ。」
「ウソつけ!」
「…。」
「…っ…。」
ティルという子どもは、居心地が悪そうな視線を逸らした。
今真っ直ぐ自分を見上げているオーベルリンが、嘘をつかないということをよく知っていたからだ。
「…ティル。」
「ちっ…。」
低い声を更に低くして言うと、ティルは舌打ちをしてスルスルと木から降り、俯いて彼の前に立った。
頭にポンと手を置いて撫でてやる。
「良い子だ。
さて、何の話だったか…。」
「忘れるくらいならいいだろ、光魔術の歴史なんか…。」
「そうだ、歴史だったな。思い出したぞ。」
「いっ…!」
「…どうやら猿ほど賢くはないらしいな、ティルは。」
オーベルリンは皺を一層深くして穏やかな笑みを浮かべた。
ティルは舌を出して精一杯反抗すると、真っ赤になった顔を横に向ける。
小高い丘から見える空は、ただひたすらに青く広がっているだけ。
遠くで牛の鳴く声がした。
20080602




