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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]  作者: 美風慶伍
第2章サイドB『魔窟の洋上楼閣都市』第3部『グラウザー編』
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サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part13『神の雷』

神の雷の名を冠する者――

それは……


第二章サイドB第1話

魔窟の洋上楼閣都市⑬

『神の雷』


スタートです


本作品『特攻装警グラウザー』の著作権は美風慶伍にあります。著作者本人以外による転載の全てを禁じます

這部作品“特攻装警グラウザー”的版權在『美風慶伍』。我們禁止除作者本人之外的所有重印

The copyright of this work "Tokkou Soukei Growser" is in Misaze Keigo. We prohibit all reprints other than the author himself / herself

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 グラウザーたちがベルトコーネに立ち向かっているその近くで行われていたラフマニの拒絶反応発作をめぐる戦いは、ひとまず終焉を迎えようとしていた。ラフマニに薬を射った元軍医のドクターは皆に告げる。


「よし、もういいだろう。坊主を開放してやれ」


 それまで屈強な男たちにラフマニは体を抑えられていた。抗拒絶反応薬の副作用で激しく暴れる事があるためだ。副作用は数分ほど続いたがそれも何とか治まっている。ラフマニの顔を伺い見ればそれまで青かったのが色味がさしている。回復に向かっている証拠だった。

 そしてドクターはローラにも声を駆けた。ラフマニの頭をしっかりと抱いていたが声をかけられて視線を向けてくる。

 

「嬢ちゃん、もう大丈夫だぜ。あとは安静にさせてりゃ明日には彼氏も元気に歩けるようになる」

「ほんとですか?」

「あぁ、この薬は効き目は早いんだ。たださっきも言ったとおり副作用がキツい。そこんところはしっかりと面倒見てやってくれ」

「はい!」


 嬉しさを隠さずにローラはラフマニに問いかける。

 

「ラフマニ? どう? 大丈夫?」

「う――あ、ローラ――か?」

「気分どう? どこか痛くない?」


 ラフマニも拒絶反応発作が治まったことに気づいてローラに笑顔で反応している。

 

「あぁ大丈夫、ちぃっと頭が痛えけど」


 そう応えるラフマニにドクターが近寄りラフマニの眼前に手を差し出した。そして二本指でVサインをつくる。

 

「坊主、これは何本だ?」

「二本」


 続いて人差し指だけを立てる。

 

「これは?」

「一本」


 続いて五指を広げると親指だけを畳む。

 

「最後だ。これは?」

「四本」

「オーケー、頭は正常だな。もう大丈夫だ」


 そう告げてラフマニの肩を叩く。視界の中に入ってきたドクターの顔を見てラフマニの口からは感謝の言葉が告げられる。

 

「ありがとうございます。助かりました」

「そう言うなって。それに礼を言われる柄じゃねえんだ。今までお前さんたちの事はずっと見ないふりしてきたからな」


 ドクターは機材を片付けながら言葉を続ける。

 

「縄張り争いに同胞意識、そんなくだらない物を山のように抱えて目の前で起きることに見ないふりをずっと決め込んできたんだ。お前さんがたハイヘイズの事もな。でもそこの嬢ちゃんが現れてからそうも言ってられなくなった。献身的に子どもたちの世話をする嬢ちゃんの姿をみて、みんな疑問を感じたんだ。このままで良いのかって。

 ガキたちに罪はないのに大の大人が知らんぷり決め込んでる。そこへ持ってきてあの〝化け物〟が来やがった。もうこれ以上は無視できなかった。街の勝手なルールなんてクソっ喰らえだ。そこで重い腰を上げて今になって駆けつけたってわけさ」


 一通り語り終えると右手を差し出し、ラフマニの身体を抱き起こしながら、こう答えたのだ。

 

「悪かったな。今まで」


 体を起こして座り込んだままでラフマニは苦笑いしつつもドクターや助けに駆けつけてくれた黒人たちに感謝の言葉を口にする。

 

「そんな事ないですよ。今日、ここに来てくれただけでも嬉しいです。見捨てられていなかったことが解っただけでも幸せっすよ」


 ラフマニの言葉を耳にしてドクターも黒人の若者たちもはっきりと頷いていた。

 

「これからは何かあったらいつでも来な。力になるぜ」


 柔和に笑う老ドクターにラフマニは頷き返していた。過去がどんなに悲惨でも、今が幸せであればそれで十分だった。救いの手がまだ残されている。それが判っただけでも十分なのだ。

 

「はい。よろしくおねがいします」


 ラフマニは信頼できる大人が確かに存在していたことを噛み締めながら、そう答えたのだ。

 そんなやり取りをする彼らのそばへと足早に歩み寄ってきた影がある。その足音に気づいたローラが振り返れば、影の主の名を口にしたのだ。

 

「シェン・レイ?」


 視界の中に映るその人物の名はこの街で知らぬ者は居なかった。

 

「なに?」


 老ドクターがローラの言葉に反応してシェン・レイの方へと視線を向ける。するとそこには確かに特徴的な姿のシェン・レイが佇んでいた。シェン・レイは片膝を突いてラフマニのそばにしゃがむとラフマニに声をかける。

 

「大丈夫か?」

「あ、兄貴?」

「遅れてすまなかった。どうやら沢山の人々に救いの手を差し伸べてもらえたようだな」

「はい――くっ――」


 ラフマニは必死に身体を起こそうとしている。それを慌ててローラが寄り添って支えていた。


「だめよ、無理しちゃ!」

「そういうわけにゃ行かねえ――礼ぐらい言わねえと」

 

 まだ回復しきっていない身体を鞭打ってラフマニは上体を起こすと周囲に目を配る。そして彼の口から出てきたのは感謝の言葉である。

 

「本当にありがとうございました」

「そう言うなって、この街では生きていくには結局助け合うしか無いんだ。お互い様だよ」


 ラフマニに若い黒人の一人が答える。

 

「その代わりと言っちゃ何だが、身体が治ったら仕事を頼まれてくれないか? まっとうな力仕事なんだが人手が足りてなくてな、使えるやつを探してる。お前なら弱音吐かずに最後までやってくれそうだしな。これも何かのきっかけってやつだ」


 柔和な笑みで屈強な身体の彼がラフマニに仕事の話を申し出ていた。これもまた人と人との繋がりが良い方へと互いを支え合いながら回っているのだ。人は互いに奪え合えば不幸になるしか無い。だが、持てる物を互いに与え合えば笑顔で生きることができるのだ。ラフマニはその申し出に笑顔で頷いていた。

 

「ぜひやらせてください」

「それじゃあとで連絡先おしえてやるよ。いつでも来てくれ」

「はい」


 二人がそんな会話のやり取りをしている脇で、シェンは老ドクターへと声をかける。老ドクターもシェンの人と成りを知っているようで真面目な面持ちで向かい合っていた。

 

「助かりました。今、拒絶反応発作を抑える薬の手持ちを切らしていましてあなたが来ていただけ無かったらどうなっていた事か。本当に心から感謝いたします。――謝謝」


 シェン・レイが告げる素直な感謝の言葉に耳を傾けていた老ドクターだったが、それに返された言葉は神妙だった。


「それなんだが――俺もあの〝化け物〟が暴れてるって聞かされた時に『あぁこれはけが人が避けられねぇな』って思ったんだ。物理的なケガもそうだが、無茶をするサイボーグ者が出て来るんじゃないかって〝勘〟が沸いたんだ。まぁ。体に染み付いた経験ってやつだ。偶然とも言うがな」


 謙遜気味に話す老ドクターにシェンはなおも語りかける。


「勘も才能のうちですよ。ドクター」


 問いかける言葉は柔和であり老ドクターを労うニュアンスに満ちていた。

 

「お噂はかねてからお聞きしておりました。東京アバディーンの黒人街に元軍医の凄腕の医師が居ると。サイボーグの救命治療においては右に出る者が居ないとか――。それはあなたですね? ドクター・ピーターソン」


 ドクター・ピーターソン――、それが老ドクターの名である。シェンの称賛の声にピーターソンが返したのは謙遜そのものである。


「何を言ってる。俺なんぞ使い古しの知識を使いまわしているだけのヤブ医者すぎんよ。俺から言わせりゃアンタの方が凄腕だ。なあ、ドクター・シェン」


 お互いにその存在は知ってはいたが鉢合わせするのはこれが初めてのようだ。老ドクターのピーターソンはシェンの身なりの異変に気づくと、それらに視線を走らせながらさらに尋ねた。見ればシェン・レイの体の数カ所に焼け焦げと同時に微細な穴が開いている。その穴の正体を戦場経験もあるピーターソンはすでに見抜いていた。

 

「熱レーザーガンの銃創だな。貫通銃創か?」

「えぇ軍用の警備警戒任務用ドローンです。有明の高層ビルの屋上からここへと直行しようと、特殊装備で滑空していたのですが、立体映像で姿を隠していた多数の軍用ドローンから直撃を食らったために50mほどの高さから地面に真っ逆さまです」

「よく死ななかったな。何か秘訣でもあるのか?」

「えぇ、悪運だけは強いものでして」

 

 冗談交じりに笑い飛ばしつつシェンは言葉を続けた。

 

「実は急所は外れてましたし、落ちた先が海でしてね。通りかかった船に引き上げてもらいました。応急処置もしましたから問題なしです」

「そうか――、でもレーザーの貫通銃創って下手な鉛弾より痛えんだよな。一気に穴があくうえに中から焼かれるからな」

「えぇ、かなり堪えました。突然だったんで回避しきれず何箇所か穴を開けられて、そのまま真っ逆さまですよ」


 軍用ドローン――、その言葉にピーターソンが不安げな表情を浮かべた。

 

「しかし一体誰が――まさか?」

「えぇ、ドクターが考えてらっしゃる通りです」

「〝道の向こう〟の鏡野郎――か? あの紳士面した」


 鏡野郎――それが意味するところは一つだ。シェンはその人物の名を語らずに意味ありげに頷いて肯定の意思を示した。

 

「ヤツはどうやら私をどうしてもここへと辿り着かせたくなかったらしい。追手を躱すのにもひと手間かかりました。なかなか此処に辿り着けなくて心配だったんですが、あなたが先に来てくれたおかげでラフマニや子どもたちが助かりました、改めて礼を言わせてください。この御恩はいつか必ずお返しいたします」

「そう固くならんでくれ。これは俺が好きでやったことだ。年寄りの道楽ってやつだ。とは言ってもアンタは義理堅いって噂だからな」


 シェンの言葉にピーターソンは苦笑しつつ答える。シェンは冷静な面持ちの中に静かな笑みをたたえながらこう答えたのだ。

 

「我々チャイニーズには〝礼節と恩義〟は大切な物です。恩義を欠くのは人として最も恥ずべき事だと心得ています。いつか必ず――」

「あぁ、楽しみに待っているよ」


 そう語り合うとシェンとピーターソンは互いに右手を差し出し握手を交わしたのだ。そして彼らの視線は〝化け物〟――ベルトコーネの方へと向く。

 

「それより今はアイツだな」

「えぇ。今こそ完全に息の根を止めなければ」

「それならドクター・シェン――、子供らを助けたのは俺たちよりもアイツらだ」


 あいつら――、ピーターソンの言葉と視線が指示す先にはセンチュリーとグラウザーの姿があった。自らの身体を呈して戦闘の矢面に彼らは立っていた。その姿にピーターソンが不安げな声を漏らす。

 

「やばいな――腕が」


 その言葉はセンチュリーの右腕のトラブルを示していた。戦場で数え切れぬほどのサイボーグ兵士を見てきたドクター・ピーターソンだ。片腕のもたらすデメリットはいやというほど知っている。

 

「あれではバランスが取れん。接近戦に持ち込まれたらアウトだ」

 

 そして、シェン・レイはピーターソンのこぼした言葉に神妙な面持ちで軽く頷く。

 

「ドクター・ピーターソン――、ここはお任せしてよろしいですか?」

「あぁ、任せてくれ。あの子達は我々が安全な場所に避難させよう。たしか他にも孤児たちが居たな? それも任せてくれんかね?」

「はい、お願いいたします。謝礼はお支払しますので」


 真面目な面持ちでそう語るシェンにピーターソンは苦笑いで告げる。

 

「そんなのいらんよ。この程度のことでギャラを貰ったら街の連中に何を言われるかわかったものではない。それより早く行ってやってくれ。あいつらはこの街に訪れたヒーローだからな」


 ピーターソンの言葉にシェンは頷くと足早にかけていく。向かう先はグラウザーたちの下だ。

 漆黒のコートをたなびかせながら駆けていく後ろ姿は街の明かりを受けて微かな反射光を帯びていた。それはスクリーンの中のムービーヒーローのシルエットにも似ていた。ピーターソンはそれをつぶさに眺めながらそっとつぶやいた。

 

「シェン、そう言うアンタだってこの街のガキたちのヒーローだってこと知ってるのかい?」


 それが誰かに聞こえたかは定かではない。

 

「よし、彼らを連れて移動するぞ。ハイヘイズの他の子供達の事も見てやろう」

 

 ピーターソンも踵を返すとラフマニたちのところへと戻っていく。戦いはまだ続いていたのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 グラウザーは一気に駆け出した。

 右手から伸張させたパルサーブレードを左上に胸の前に交差させる様に構えると敵の懐へと一気に飛び込んでいく。センチュリーやアトラスのようにダッシュローラーは無いが、それを補って余りあるフットワークと跳躍力が超人の如き俊足を可能にしていた。

 

「行くぞ!!」


 気合一線、ベルトコーネの前方10m程から跳躍すると至近距離に肉薄してそのまま敵を袈裟懸けに切りつけようと試みる。その際にグラウザーの2次武装装甲アーマーギアに備えられた拡張機能が巧妙に動作を開始していた。

 

【 アーマーギア武器管制システム      】

【        コントロールシークエンス 】

【                     】

【 >膨張性高周波振動サーベル       】

【          〔パルサーブレード〕 】 

【   ⇒展開完了             】

【   ⇒高周波振動開始          】

【 >マルチパーパスレーダーブロック    】

【   ⇒右腕部高周電磁波、出力アップ   】

【   ⇒高周波を内部バイパス       】

【    パルサーブレード全域にて発信開始 】

【 >機能合成               】

【    〔ショックハレーションブレード〕 】

【   ⇒作動開始             】


 パルサーブレードは金属高分子に通電することで膨張する特殊金属でできている。その際、構成金属が通電中に高周波振動を起こすのだが、それがブレードの斬撃力を強化する効果がある。だがグラウザーのアーマーギアにはフィール譲りの高周波発振機能が備わっていた。その機能をパルサーブレードに機能合成してブレード全体で高周波発振を行う。これによりさらなる斬撃の強化が可能となるのだ。

 グラウザーが持っている機能は、何もないところから生まれたわけではない。

 アトラスから始まって一つ一つ積み上げられたものの蓄積のその結果であるのだ

 それに加えてさらなる機能を行使する。


【 >MHDエアロダイン推進装置      】

【     〔エアジェットスタビライザー〕 】

【  ⇒機能作動開始            】

【   全身各部エアダクト内MHDユニット 】

【            <作動スタート> 】

【  ⇒MHDエアロダインジェット     】

【              気流生成開始 】

【  ⇒推進力発生             】

【     ――加速スタート――      】


 それはセンチュリーのウィンダイバー、フィールのマグネウィングの機能開発から生み出された装備だ。アーマーギアの各部に備えられたエアダクト構造。その内部に備えられたMHDエアロダインジェットユニットによるプラズマ電磁推進により常識を遥かに超えた加速移動を可能にする物だ。

 グラウザーはエアジェットスタビライザーの機能を加える事で、さらなる加速を生み出すと瞬時にベルトコーネとの間合いを詰めて斬撃の射程距離に捕える。そして振りかぶったブレードをベルトコーネの首筋へと斬りつける。

 

「ここだぁっ!!」


 破損した右拳を庇うように左腕を構えていたベルトコーネだったが、グラウザーが発揮したその神がかりな速技に防御行動を取るのは、誰が見ても困難だった。グラウザーのブレードを躱しきれずに袈裟懸けに切り捨てられる――、誰の目にもそう写ったに違いない。

 しかし、奥の手を有していたのはベルトコーネも同じである。ブレードを払おうとベルトコーネの左腕が跳ね上がる。その回避行動に加えてベルトコーネはさらなる絶技を繰り出すこととなる。

 

――ブゥゥンッ!――


 鋭い風切音をたててグラウザーの右腕のブレードが空を切った。その切っ先がベルトコーネを捕えることはない。その時、グラウザーの眼前で展開された絶技、それは日本の武術家が発揮する歩法術の一つ〝無足〟にも似ている物で、グラウザーの方を向いたまま姿勢を崩すこと無く、後方へと瞬時に退いて見せたのだ。

 だがそれは秘術でも魔法でもない。ベルトコーネにとって極当たり前の技であり機能であったのだ。

 

「なっ?」

 

 驚きを声にする間も無いくらいに返す刀でベルトコーネへと斬りかかる。だが、それすらもベルトコーネはまるで幽鬼の様に捉えどころのないままに逃げ続けるのだ。

 

「くっ、くそっ!」


 思わずグラウザーが口惜しげに声を漏らした。何度ブレードを振るおうとも、固有機能を駆使して加速しようとも、その剣先はベルトコーネには届かなかった。その理由に気づいたのは離れた位置から二人の戦いを見ていたセンチュリーである。

 

「離れろ!」


 裂帛の気合で怒鳴りつける。戦いの中で焦りを抱くことの危険さをセンチュリーはその長い経験から知り尽くしていた。その兄からの声にハッとなり冷静さを取り戻す。そして逆方向へとステップを踏んでベルトコーネから距離を取る。体制の立て直し、戦略の練り直しが必要な状況なのは明らかである。

 

「――!」


 無言のまま驚きと苛立ちを、その全身から立ち上らせるとグラウザーはベルトコーネに感じた疑問を口にしていた。

 

「何だ今のは?」

 

 グラウザーが疑問を抱くその姿にベルトコーネは一切の焦りも戸惑いも見せない。沈黙したままグラウザーを冷ややかに睨み返すだけだ。

 かたや――、眼前で展開された謎の絶技の正体について、思案を巡らせていたのはセンチュリーであった。彼の目の前で、ベルトコーネとグラウザーの間で繰り広げられていた事実と現実に対して直感を働かせた。

 

「てめぇ、そこまで〝機能〟を使いこなせるのか?」


 センチュリーが勘に基づく判断を口にする。その言葉にニヤリと笑うのはベルトコーネだ。

 

「使って見せれば俺の固有機能の正体がバレる恐れがあるからな。今までは使わなかったが、すでにバレている現状なら隠す意味など無い」


 そして。両の拳を眼前に構えるとフットワークと速度に特化したキックボクシング系のスタンスへとスイッチする。それが意味するのはこれまでのパワーファイトから、スピード重視のラピッドファイトへの、ファイトスタイルの変化である。その事実がすぐに理解できていたセンチュリーの口からは、グラウザーへと何よりも強い警告が告げられたのである。

 

「逃げろ! グラウザー!!」


 それはセンチュリーが初めて見せる〝恐怖〟であったのだ。

 

 その〝異変〟はシェン・レイの方からも即座に見えるものであった。

 ベルトコーネが見せた〝隠し技〟の正体。その事実をにシェン・レイも驚きと不安を口にせざるを得ない。


「まずい――」


 急がねばならない。

 今こそ、あの狂える拳魔の力を封じるために――

 シェンは一気に走り始めた。 

 

 そして、グラウザーがセンチュリーからの言葉に驚き、ふいに声を漏らしたその瞬間であった。


「えっ?」


 その言葉と同時にグラウザーの懐へと瞬時に飛び込んできたのはベルトコーネである。眼前に構えられたベルトコーネの両の拳、しかし、質量制御をフル使用せずある程度制限するのなら、その拳を武器として使用するのはまだまだ可能である。

 グラウザーから見て右側にベルトコーネが回り込む。

 ――否、物理的なフットワークを無視して空中飛行したかのように移動してくる。それは攻撃目標の周囲を自由自在に3次元移動する戦闘ヘリにも似ていた。予測不能な位置の死角へとベルトコーネが回り込む。そのベルトコーネが繰り出してくる拳打の全てを躱しきるのは現時点では不可能だ。

 見えない位置からの右フック。それはグラウザーの胸板の上部、胸骨の上ほど辺りに食い込むとグラウザーの身体を安々と弾き飛ばす。そして弾き飛ばされた方向には、いつ移動してきたのかベルトコーネはすでに待機していてフルパワーで左ひざの蹴りをグラウザーの背部へと見舞った。

 動きを止められたグラウザーの前方にベルトコーネが回り込む。斜め下から上方へとベルトコーネの左フックが炸裂する。装甲ヘルメットに守られていると言えどグラウザーの頭部にダメージを与えるには十分すぎるほどである。

 動きを止めかけたグラウザーにベルトコーネはなおも攻撃を加える。グラウザーの左側に回り込むと右足を引き絞り一気に旋回させる。グラウザーのお株を奪う回し蹴りである。十数mの距離をグラウザーが転げ回る。それをさらに狙おうとベルトコーネは視線でグラウザーの姿を追っているのが分かった。

 それを目の当たりにしてセンチュリーが叫んだ。

 

「くそぉっ!」


 そしてデルタエリートの引き金を連続して引けば、そのから10ミリオート弾が3初発射される。それはベルトコーネに命中することはなかったが、弾丸同士がマイクロ通信回線網で連携しており、攻撃目標に肉薄した際の絶妙な3次元位置で相互連携し合い、自動的に作動を開始したのだ。

 

――シュボッ!――


 瞬間的に炸裂したそれは眩いばかりの白色光と濃厚な電磁波ノイズを撒き散らした。しかも3発同時であり、ベルトコーネの視界の前方から側面方向に至るまで、180度をカバーするショック閃光であった。

 

【対サイバネティックス用、マイクロフラッシュグレネード弾丸】

 

 10ミリオート弾丸の僅かなスペースに、フラッシュグレネードと電磁ノイズ放射装置の機能を巧妙に組み込み、さらに超小型のマイクロ通信回線網が組み込まれていて、数発同時連携のフラッシュ閃光が可能な超ハイテク弾丸であった。

 武装アンドロイドや武装サイボーグに対してい用いる物で、目潰しやセンサー撹乱のために開発された経緯がある。これもまた特攻装警を生み出した第2科警研の技術者の手によるものである。

 それは手負いのベルトコーネの視界を一時的に奪うには十分なものであり、グラウザーはその機会を逃さずに、すかさず立ち上がり転がるように後方へと退くと、ベルトコーネから距離を取った。それ以上のダメージは致命傷になる。それだけは避けねばならなかった。


「くそっ! 小細工しおって」


 一時的に奪われた視界の代わりに聴覚を駆使してグラウザーたちの姿を探す。たとえ視界が効かなくとも、コウモリのエコーロケーションの如くベルトコーネは巧みにグラウザーたちの位置を捉えていく。それは南本牧でのアトラスとの戦闘でも用いていた特殊能力だ。

 かたや、現状を冷静に見守るセンチュリーの視界の中では、片膝を地面につき左手で目元をかきむしるベルトコーネの姿がある、かろうじて逃げられたがこれも気休めでしか無いのは、これまでの戦いから明らかだった。

 センチュリーは体内回線を通じてグラウザーに指示を出した。

 

〔グラウザー! 単分子ワイヤーは使えるか?〕

〔はい、フィール姉さんの改良型があります〕

〔それならワイヤーの展開準備だ! 今ならヤツは視界がきかねえ。単分子ワイヤーなら奴の超音波視覚の裏をかける!〕

〔了解です!〕


 センチュリーの言葉にグラウザーが返答する。それに続けてセンチュリーが告げた。


〔しかし十分気をつけろ! やつは慣性制御を移動手段にする事もできる! 歩いて走ってのフットワークじゃねえ。加速・急減速・軌道変更も自由自在。精密コントロールのドローン並だ! どうあがいてもあっちが有利だ! ならば絶対逃げられないように縛り上げるしかねえ!〕

〔慣性制御移動? そんなことまで?〕

〔あぁ、どう見てもそれしか考えられねえ。攻撃や防御に使っていた機能を駆使して自分自身を自由自在に〝すっ飛ばせる〟んだ! 奴めとんでもねえ隠し技持ってやがった!〕


――と、その時だった。二人の体内回線機能へと直接語りかけてくる声がある。


〔――1分待て――〕


 それは二人とも聞き慣れない声だった。壮年の男性の声、まだ若々しさが残された声だ。声はセンチュリーたちが反応する前にさらに言葉を続けた。

 

〔特攻装警の諸君、1分持ちこたえろ。その間に私がヤツの〝能力〟を私が封印する〕


 自信有りげに確定的に告げる言葉。それを耳にして問いかけたのはグラウザーだった。

 

〔誰ですか?〕


 その問いに帰ってきた言葉にセンチュリーもグラウザーも戦慄することとなる。

 

〔〝神の雷〟 そう言えば分かるはずだ〕


 センチュリーは知っていた。グラウザーも朝を始めとする涙路署の先輩捜査員たちから聞かされていた。

 闇社会最強の電脳犯罪者。東京アバディーンの支配者。出会ったのならとにかく逃げろ。情報機動隊の電脳エキスパートですら、そう噂し合うほどなのだ。神の雷の名を聞かされて驚かないはずがなかった。その驚きは沈黙となって現れる。

 だが、特攻装警の二人の沈黙に対して〝神の雷〟ことシェン・レイは冷静に言葉を続けた。

 

〔君たちには恩義がある。街の子供達を守ってくれた事への恩義だ。その礼がしたい。ヤツの力の源を私が絶つ。それまでの1分、なんとしても持ちこたえろ。できるか?〕


 その言葉に、にわかには信じがたい物が多少なりともある。だが今は選択肢は無い。とっさの判断でシェン・レイからの回線越しの問いかけにグラウザーは答えた。

 

〔1分ですね?〕


 センチュリーも答えを口にする。


〔わかった。やってみるぜ〕

 

 そう口にするが早いか、グラウザーたちの足はベルトコーネのもとへと向かっていた。


〔頼むぞ。こちらも作業を開始する〕


 シェンのその言葉にグラウザーの力強い声が響いた。

 

〔はい!〕


 その声が合図となった。今、特攻装警と神の雷の奇跡の共同作戦が始まったのである。


次回

第2章エクスプレス

サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』⑭

『Guilty ――鉄槌――』


挿絵(By みてみん)


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