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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]  作者: 美風慶伍
第2章サイドB『魔窟の洋上楼閣都市』第3部『グラウザー編』
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サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part12『SOLVER ――解き明かす者――」

第2章サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』パート12


『SOLVER ――解き明かす者――』


スタートです。



本作品『特攻装警グラウザー』の著作権は美風慶伍にあります。著作者本人以外による転載の全てを禁じます

這部作品“特攻装警グラウザー”的版權在『美風慶伍』。我們禁止除作者本人之外的所有重印

The copyright of this work "Tokkou Soukei Growser" is in Misaze Keigo. We prohibit all reprints other than the author himself / herself

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その銃口はベルトコーネの後頭部を狙い定めていた。

 引かれた2つの引き金は44マグナムと10ミリオート弾を解き放った。そして、ワイヤーで拘束されているベルトコーネの後頭部へと弾丸がゼロ距離射撃で叩き込まれるのだ。

 それは確証だった。グラウザーが撃った弾丸がダメージを与えているのだ。センチュリーが放った弾が効果を発揮しないはずが無い――、そうセンチュリーは確信していたのだ。

 だが、現実は常に想像通りに進むとは限らない。

 

――ガキィィイン!!――


 鉛弾が弾かれる。まるで目に見えない鋼鉄の防壁でもそびえているかのように、2種の弾丸は火花を散らして弾かれたのである。それはまさに異様な光景だった。

 

「なっ?!」


 思わず絶句するセンチュリーに、ゆっくりと視線を振り向けてきたのはベルトコーネである。センチュリーの特殊ツールが放ったワイヤーに全身を拘束されつつも、マイクロマシンワイヤーを軋ませながら不気味な怒れる視線をセンチュリーへと向けてきたのだ。

 その視線に射抜かれるように、センチュリーは思わず後ずさった。センチュリーは気づいていなかったが、それは明らかに怯えと恐れの現れであった。


「ちぃっ!」


 10mほどの距離を取り、改めて2つの銃口をならべて狙いすます。しかしそれはもはや警告にはなっていない。それを示すかのようにベルトコーネの口から地の底から響くような声で、警句の言葉が発せられたのだ。


「それだけか?」


 ベルトコーネの両腕がワイヤーに抵抗し始めた。頑強であり強靭という言葉を具現化したかのような白銀の微細鋼線だが、それですらもベルトコーネの狂える魔拳を止めることは不可能だった。

 そもそも、センチュリー専用ツールであるアクセルワイヤーは。高強度金属とカーボン系単分子素材で作られた直径1ミリの高硬度マイクロマシンをカーボンフラーレンワイヤーで連結したものである。一つ一つの単位のマイクロマシンは3本のマイクロアクチュエーターユニットを持ち、カーボンフラーレンワイヤーを芯材として直列に連結している。そして3本のマイクロアクチュエーターが伸縮可動することでアクセルケーブルを単なる紐状のムチではなく、高強度ハイパワーな〝極細触手〟として機能させる事ができるのである。

 刺突、巻き付き、拘束、圧縮、切断、打撃――考えうるあらゆる運用が可能なマルチツールなのだ。

 それ故に、拘束対象を単なる単分子ワイヤーで縛り上げた時よりも、対象物に自ら巻き付き、さらにアクチュエーターが稼働して巻き付いた時の形状と稼働角度を自ら固定することができるアクセルケーブルは、より強固に、より精密に、そしてより頑丈に、対象物を捕えることが可能なはずなのだ。

 

――キンッ! キ、キッ! キン! キン!――


 だが、今まさに、まるでピアノで高音域のキーを叩いたかのような音が鳴り響いている。アクセルケーブルを構成する金属製マイクロマシンアクチュエーターがベルトコーネの桁外れな腕力により離断しはじめているのだ。

 

「うっ、うそだろう?」


 両手を釣り上げられY字のポーズに固定されていたベルトコーネだったが、それは拘束状態でありながら、その体躯の各所でまるで〝体内からハンマーで叩いているかの様に〟不気味な剛力を発し、徐々にであるが確実にワイヤーを破壊しつつあった。

 甲高い音が鳴り響いていた。それはまさしくセンチュリーが絶対の信頼を置くハイテクツールが奏でる悲鳴である。

 

「くそっ!!」


 センチュリーは内心焦りを覚えながらも更に引き金を引いた。今度は1発づつなどと言う甘いものではない。弾倉に残された弾丸を洗いざらい叩き込む。44マグナムと10ミリオート、ベルトコーネの後頭部へと打ち込みつつ両かかとのダッシュホイールを回転させてベルトコーネの側面から回り込みつつ前方へと位置する。そして敵の頭部へと照準を合わせながら十数発の弾丸を洗いざらいブチ込んだのだ。

 

――どうだ!――


 現状でできる最大の攻撃だった。だが――

 

「こんな鉛弾がどうかしたか?」


 極めて退屈そうにけだるげにベルトコーネがつぶやく。

 

「これで攻撃手段が打ち止めならこちらからやらせてもらうぞ」


 そう呟いたと同時に、センチュリーは信じられない光景を目のあたりにすることとなる。

 

「ッ!!」


 気合一閃、ベルトコーネがいきんだ瞬間、彼を拘束していた微細金属ワイヤーは一気に崩壊する事となった。

 

――バキィン! ビキィイイン! キンッキンッギィイイン!――


 それは引きちぎられた言うよりも――

 

「アクセルケーブルが――、吹き飛びやがった?!」


――まさに微塵せしめられたかの様な光景であった。


 アクセルケーブルの拘束から解き放たれ、ベルトコーネは再び地上へと降り立った。そして地面へとしっかりと両の足で立ちすくむと、その両腕の豪拳を硬く硬く握りしめる。そしてその拳は振りかぶられ今まさに眼前のセンチュリー目がけて振り下ろされようとしていた。

 

「残弾ゼロ、弾丸は効かねぇ! 武器も防具も無ぇ! それなら!」


 センチュリーはとっさに拳銃を隠しホルスターへと戻すと更に数mほど引き下がり、自らも拳を固め直した。強く強く掌を握り込み五指が揺らぐ隙を消し去る。彼もまたその拳で幾多もの困難な任務を乗り越えてきた猛者である。経験の数ならアトラスに並ぶとも劣らないものがある。その強烈な自負がセンチュリーをやってはならない〝賭け〟へと臨ませてしまったのである。

 

【 特攻装警第3号機センチュリー      】

【       戦闘機能総括制御プログラム 】

【                     】

【 武装兵装起動              】

【 起動対象:右腕イプシロンロッド     】

【 第1プロセス              】

【 >超高圧キャパシターコンデンサー    】

【            チャージスタート 】


 右の前腕部の内部骨格部に仕込まれた超電導シリンダー、橈骨と尺骨の位置に備わったそれは瞬間的に大電流を送り込むことで数十トンの破壊的な打撃力を発揮する事が可能だ。装備すれば誰でも扱えると言うわけではないが、センチュリーの様に格闘技武術に精通したものなら、イプシロンロッドが発するパワーを的確に発揮することが可能なはずなのだ。 

 しかし――


【 >超高圧キャパシターコンデンサー    】

【          充填完了まであと7秒 】


 超高圧キャパシターコンデンサーは背面の肩甲骨の辺りに備わっている。コンデンサー充填にかかる時間は数秒から十数秒――、センチュリーはその焦りからか、キャパシターコンデンサーへのエネルギー充填の完了を待たずにその拳を繰り出してしまったのである。


「やってやらぁ!! 来やがれ! 殺戮キチガイのうすらデカ!」


 センチュリーは再びその左足を踏み出して踏みしめる。そして自らの身体をベルトコーネに向けて向かい合わせると右拳を肩の位置まで引き絞って狙いを定める。下半身の軸を回転させて右足を踏みしめる。

 そのセンチュリーの真正面で、ベルトコーネもその拳を振りかぶった。

 互いが互いに、その拳を撃鉄のように引き絞り、今まさに引くに引けない決闘のように銃口を向けあっているのだ。

 そして――、センチュリーはその拳を解き放った。ベルトコーネの拳を打ち砕くことを願いながら。運命の瞬間はすぐそこまで近づいていたのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 息せき切って呉川が指示を出している。

 まずは新谷所長に連絡し武装警官部隊・盤古の出動を内諾させる。そして、研究所内に残っていた研究員たちを集めグラウザーたちの緊急回収のための臨時チームを編成させる。あとは回収の必要性が出た時に第2科警研オフィシャルのティルト・ローターヘリで武装警官部隊に同行させるだけだ。

 

「あとは出動が決まったらすぐに飛んでくれ、それまではここで待機だ。頼むぞ!」

「はい!」


 ワイシャツ・ネクタイの上に分厚いダウンジャケットを着て早春前の肌寒さをこらえている若い研究員が答えた。そして、出動に備えて待機している彼らから離れると、呉川は急いで大久保たちの研究室へと戻っていく。

 老体にむち打ち全力で駆け抜けるが、老いているとは思えないほどに健脚だった。

 大久保たちの研究室は第2科警研の建物の2階にある階段やエレベーターの近くなのだが、7階建ての建物の屋上から2階まではかなりの距離があった。それを非常階段を使って一気に駆け下りてきたのだ。2階につくなり大久保たちG班の研究室へと駆け込む。

 

「大久保! 回収班の準備はできたぞ!」


 だが大久保は呉川の声に振り返ること無く悲痛な声を上げようとしていた。


「呉川さん!」


 その声のニュアンスの意味が呉川にもすぐに分かった。今まさに無防備なままでセンチュリーがその拳を繰り出そうとしている。その動きのモーションからイプシロンロッドを発動させようとしているのも分かった。当然だ。呉川はセンチュリーの生みの親なのだ。センチュリーの体の事は隅々まで知り尽くしている。

 そして、我が子のように慈しんだセンチュリーの性格も癖も欠点も長所も、何もかも解っていた。何時如何なるときも、たとえどんな難敵が相手でも、決して退かない面倒くさいヤツと言うことも――

 

「馬鹿野郎っ!! 何をする気だっ!!」

 

 今、研究室の中に、呉川の悲痛な叫びがこだましていた。

 センチュリーの防御装甲は脱着式である。それができるからこそ、今回の潜入調査が可能になったのだ。だが、センチュリーの防御装甲は彼にただ防御力を与えるためだけに備わっているわけではない。

 フィールやグラウザーの2次武装装甲と同じように、外骨格の役割を果たし骨格強度を上げるとともに、増装式の人工筋肉システムが付加される事でパワーやスピードも強化されているのだ。それを外している今、想像しうる可能性は〝悲劇〟しかありえなかった。

 

「センチュリーーーーッ!!!!」


 呉川の声が響き渡る。それは悲劇を避けられなかったことへの後悔と悲しみの叫びである。

 

 

 @     @     @

 

 

 それは相反し互いに打ち消し合う力である。

 あらゆる存在を否定し殺戮と破壊を続ける魔拳。

 法を護り治安を護り、弱き者たちを守るための正拳。

 そして、正義の正拳は決して潰えることは許されない。人々の暮らしと未来を守ることを絶対条件として課されて生み出された存在なら当然の事だった。だが――、センチュリーは思い知ることとなる。彼の真正面に立ちはだかった敵がいかに強大な存在であるかと言う事に。

 今、新たな悲劇が繰り広げられてしまったのである。

 


――ガシャッ!――



 それはありえない光景だった。センチュリーの正拳は不完全ながらもイプシロンロッドの発する力を付加されて最低でも十数トンくらいの打撃力は発揮できたはずだった。だがそれは意味をなさず、センチュリーの拳はまるで卵でも潰されたかのようにいとも簡単にベルトコーネの魔拳によって粉砕されたのだ。

 

「なっ?」


 瞬間、何が起きたのか理解することもできなかった。当然、痛みすら感じられなかった。その間にもセンチュリーの右腕はさらに破壊されていく。

 

――バキッ! ゴキィン!!――


 右前腕が押しつぶされるかの様に内部骨が折れ、人工筋肉が弾け、電磁火花を迸らせながら砕け散っていった。

 

――グシャァッ!!――


 破壊はさらに続く。拳打のモーションそのままにベルトコーネの拳は突進し、センチュリーの腕を破壊し続ける。肘が砕かれ上腕の骨がへし折れ、右肩の基底関節が外れ、センチュリーの右腕は完全に粉砕されきったのである。

 

 そして、ベルトコーネの拳に備わった圧倒的な〝質量〟は目に見えない巨大なハンマーと化してセンチュリーの身体を弾き飛ばす。十mほどを吹き飛ばされ、センチュリーの身体は地面の上を転げ回る。気を失わずにすぐに体勢を立て直そうと立ち上がれたのは、センチュリーの持つメンタル的なタフネスさがもたらした〝意地〟に他ならなかった。

 左手を地面について上体を起こす。右足を突き、全身を起こすとベルトコーネに向かい合いながら両の足でしっかり立ち上がる。その瞳は炯々と光り輝き今なお抵抗する心を失っては居ない。だが正気を失わずに居ることは最早限界であった。

 

「な、なんだ?」

 

 センチュリーは自らの身体を襲う奇妙な喪失感に気づいた。そして、それが右腕で感じている事に気づくと左手で右腕を確かめようとする。だが――

 

「あ?」


 左手が目的の物を掴めない。指先が空を泳ぎ手応えがない。そして、それが突きつける現実にセンチュリーは漸く気づいたのだ。

 

「あ、あ、あ……」


 うめきながら息を吸い込み、左手で右肩を押さえながら、センチュリーは裂かれるような悲鳴をあげたのだ。

 

「うわぁぁあああっ!!」


 つんざくような声をあげながらセンチュリーは後ずさっていた。ギリギリのところで理性が失われなかったのは、ベルトコーネへと向かい合い戦闘態勢を解いて居ないことからも明らかだ。センチュリーは自らの限界ぎりぎりにあったのだ。

 

――ガッ――


 両膝から崩れ落ちてしまう。前のめりに倒れこそしなかったが、膝を突いて立つだけで精一杯の状況だった。眼光鋭くベルトコーネを睨みつけこそするもののそれが虚勢であることは誰の目にも明らかである。

 次の瞬間、センチュリーの全身を襲うのは総身を貫かんばかりの苦痛である。右腕が失われた事から来る感覚情報の混乱もあった。体内を循環する組織液の噴出もある。平衡感覚のバランスへの影響も心配される。ありとあらゆるダメージが襲う中、ギリギリの状態でセンチュリーの中では緊急プログラムが一斉に作動を開始していた。


【特攻装警身体機能統括管理システム     】

【            緊急プログラム作動】

【>右前肢手首~肩関節間[完全粉砕]    】

【>体内循環系大量出血確認、組織緊急閉鎖開始】

【>運動ボディバランス補正制御開始     】

【>体内循環系、循環バランス補正、     】

【    末梢循環系、臨時循環系統作動開始 】

【>右腕部主動力、伝達系統⇒遮断      】

【                     】

【>全感覚受信情報、統括フィルタリング開始 】

【 右腕部系統痛覚情報⇒全遮断       】

【 皮膚感覚・深部感覚           】

【    ⇒腕部喪失による感覚情報混乱確認 】

【 フェイルセーフ代行信号発信開始     】

【 頭脳内感覚野情報、混乱発生抑止     】

【 幻肢症状発生抑止完了          】


 右腕粉砕と共に発生する不都合な体内感覚情報を抑えるため、生身の人間ではありえないアンドロイドならではの非常機能が作動を始めた。それはあの南本牧でのコナンとの戦闘において右手首を切断されたときにも起きたことだが、今回のはそれの比ではない。一歩間違えば行動不能になるものばかりだ。センチュリーはそれをギリギリのところで踏みとどまったのだ。

 右肩を押さえていた左手を離すと腰の裏の偽装ヒップバッグにしまっておいたデルタエリートを抜き放つ。指先で器用にマガジンリリースラッチを押して空になった弾倉を振り落とすと、デルタエリートの銃身を口で咥えて予備の弾倉を装填する。そのままスライドを引いて初弾をチャンバー内に送り込むと両足でしっかりと立つと、その銃口をなおもベルトコーネへと向けるのだ。

 

「ほう? まだやるか」


 ベルトコーネは一歩一歩踏みしめながら歩み寄ってくる。今なお心を折られていない、否、折られた事を認めていないセンチュリーに対して投げかける感嘆の言葉だった。だがそんな敵から投げられた言葉に安易に一喜一憂するようなセンチュリーではなかった。

 

「当たり前だ、おめえを止めるまで地面の下に埋められるつもりはねえよ」

「そうか――」


 ベルトコーネは冷静に冷酷にセンチュリーを見下ろしながらゆっくりとその両手を開いて何度も握りしめている。

 

「ならば、ネジ一本残らないくらいに粉砕してやろう。そこまでやればキサマの心も折れるだろう」


 そう吐き捨てて両拳をしっかりと握りしめる。それは最後通告を終えた後の死刑執行のプロセスだった。弾丸は通じない。攻撃手段はもう残されていない。だがそれでもセンチュリーは退かなかった。苦痛と苦悶を乗り越えたその先にある覚悟。警察として法執行機関に身を置く者として退いてはならない最後の一線。それをセンチュリーは一瞬たりとて忘れた事は無かった。そして、それは暴言にも等しい挑発の言葉として飛び出すのだ。

 

「やかましい! 勝手に終わらせるんじゃねえ!!」


 鋭い眼光を絶やすこと無く敵を睨みつける中で、センチュリーは不敵な笑みを浮かべた。

 

「だいたいだ! 終わっちまったのはおめえの方なんだよ!」

「何だと?」


 圧倒的に絶望的な状況に置かれているのはどう見てもセンチュリーの方なのだ。だと言うのにセンチュリーが放った言葉に強い疑問と苛立ちに駆られたのはベルトコーネの方だ。戸惑いがベルトコーネの歩みを止める。


「教えてやる義理はねぇ!」


 そう叫ぶセンチュリーの背後では2つの影が行動を開始していたのである。

 


 @     @     @

 

 

 そこに現れたのは、プラチナブロンドのオールバックヘアの男であった。

 サイバネティックス仕立ての全身スーツを身にまとい、漆黒のマントコートを羽織った彼、目元は180度を覆うサングラスゴーグルでカバーしている。両手にはめられたメカニカルなハンドグローブが特徴的なその人物の名を、皆がすでに知って居た。

 

「シェンさん!」


 一目散に駆け寄っていったのはオジーだった。その声と表情にシェン・レイの姿にその身を案じる気持ちが現れていた。

 

「どうしたんですか一体?」


 不安げな視線がシェン・レイを見上げていた。それと同時に皆の視線が一点に集まっている。それに対して説明をせねばならないのは当然の道理だった。

 皆の視線が集まる中、シェンの姿は満身創痍だった。熱レーザーを思わせるような銃創が全身の各所に垣間見えている。よく見れば額をかすめるようにひどい火傷が浮かんでいた。

 

「熱レーザーか。誰にやられた?」


 シェンのもとに集まる人影の奥から割り込む様に姿を表したのは朝である。シェンは朝の姿を一瞥すると変装を即座に見抜いて正体を喝破する。

 

「君は――、涙路署の刑事か」


 朝も素性を見抜かれた事に臆する事もなく、シェンの正体を問いただし返してくる。

 

「そう言うあなたは? もしかして〝神の雷〟では?」

「なんだ。もう知っているのか?」


 朝からの冷静な問いかけにシェンは笑みを浮かべながら問い返す。

 

「えぇ、我々の間ではあなたは有名人ですから。〝神の雷〟に会ったらすぐに逃げろってね」

「そうまで言うならすぐ逃げたらどうだ?」

「いいえ、その必要はないですよ」


 朝の本心を探るようになおも問いかけてくるシェン・レイに朝は告げた。

 

「これでも警察として人を見る目はそれなりに養っているつもりですから」

「そう褒められても逆に却って困るんだがな」


 一切の警戒心を出さずに接してくる朝にシェン・レイも苦笑せざるを得ない。そしてこの場の状況を即座に理解すると、朝に対して再び問いかけてきた。視線をカチュアの方へと投げかけながら朝に質問する。

 

「アレを処置してくれたのは君か?」


 アレ――と言う言葉が指すものに気づいて朝は頷いていた。

 

「はい。担架の作成と固定処置は私が。初歩的知識レベルですが」

「そうか――」


 朝の答えに頷きながら歩みだせば、シェン・レイはカチュアの方へと駆け寄る。自動車の座席シートを使った簡易担架と頸部骨折患者への適切な処置方法。くわえてここからの運搬を考慮しての担架への固定方法も完璧だった。そっとカチュアの身体に手を触れながらシェンは言った。

 

「正解だな。頸部損傷が疑われるクランケに対してはまず頭部と頸部の保護、そして患部が動かないように完全固定する事が望まれる。加えて頭部骨折部位への止血と患部保護も適切。最初の応急処置も良かったようだ。出血によるショックや昏睡症状もひどくない。今ならまだ緊急手術を行えば間に合うだろう。――オジー」


 語り終えるとオジーを呼び寄せる。声をかけられオジーは急いで歩み寄った。

 

「兄貴?」

「李大夫の所に運んでくれ。李さんがすでに準備を終えているはずだ。急いで緊急オペを行う」

「オペ? やるのか? シェンの兄貴」

「あぁ、それしか無いだろう。この界隈で頭部手術や頚部骨折の処置ができるのは俺くらいのものだ。頚部骨折の整復処置を行った後に、頭蓋骨骨折と頭部脳挫傷の緊急手術を行う。一命はとりとめたが、それでもここからの長距離の搬送は不可能だ。運んでいる間に患部に異常が生じてショック症状を引き起こす可能性すらあるからな」

「わかった。みんなでカチュアを運んでおくよ。でも兄貴は?」

「後から行く。まだ少しやることがあるんだ」


 そう語る言葉には、言外にローラとラフマニの存在を案じている事がにじみ出ていた。

 

「分かった。なるべく早く来てくれよ」

「あぁ」


 シェンがオジーと、そう言葉を交わしてその場から歩き出そうとした時だった。脇から声をかけたのは朝であった。その言葉にはシェンを諌めるようなニュアンスが込められていたのだ。

 

「ちょっとまってくれ。手術って――アンタがやるのか?!」


 警告とも取れる朝の言葉にシェンは振り向きながら答えを吐いた。

 

「心配するな。これでもドクターライセンスは持っている。本来の専門は脳外科だ。もっとも、この国の医療機関は肌に合わないので、この国で有効な医師免許は有していないがね」

「そう言う事を言ってるんじゃない!」


 強い口調で朝はシェンに警告の言葉を叩きつけた。


「どう言う医療設備を持っているのか知らんが、頭部挫傷に頚部骨折、脊髄の損傷の可能性も否定できない。どう考えても医療設備の整った大型病院に搬送すべき案件だ! ICUの確保もできない状況での無許可手術など認められるか!」

「それは警察としての判断か? 君個人としての意見か?」

「両方に決まっているだろう!」


 朝の言葉にシェンが沈黙する。彼からの返答を待たずして朝は更に告げた。

 

「急いで、警察の緊急ヘリを呼ぶ。その上で病院に緊急搬送する」


 だがそれを受け入れるシェンではない。この街の支配者の一人として、そして護り人として昼夜を徹して戦い続けてきたのは伊達では無い。

 

「断る」


 シンプルだが力強い口調に、シェンが抱いている強い敵意の一端が垣間見えていた。

 

「応急処置をしてくれたことへは感謝するが、これ以上のこの国の警察機関の干渉は断固として拒否する。カチュアの治療はこの街だけで行う。これ以上関わるのならお引き取り願おう」


 ゴーグル越しに感じる視線には強い怒りがにじみ出ていた。だが、それを素直に受け入れるような朝でもなかった。

 

「力づくで俺を排除するというのか」

「無論だ。造作も無いことだ」


 一方的なシェンの物言い、それにキレたのか朝は一気にまくし立てた。


「なぜだ? なぜそこまでこの街の外部からの干渉を拒絶する?! あの子の命を最優先に考えるのなら、大病院に連れていくのが最善策のはずだろうが! お前一人が手を下して失敗しました、死んじゃいましたじゃすまないんだぞ! 確実に助けられるという確証が無ければこの国の警察として、あの子をこのままお前に委ねる訳には行かないんだよ! この街を護るのがお前のプライドなら、この国の社会の秩序を護り市民を護るが俺のプライドだ! その俺のプライドを曲げろと言うのなら、それなりの理由を示すべきだろうが! 違うか? 答えろ!!」


 〝神の雷〟の異名を持つ者を前にしてもなお、朝は臆する事は一切なかった。その剣幕を表情一つ替えずに聞いていたが、口元に軽い笑みを浮かべながらシェンは珍しくもため息をついた。

 

「まったく――、この国の石頭揃いの警察の中で、お前のようなヤツは初めて見たよ。まさか日本人の警官からプライドなんて言葉が出てくるとはな」


 シェンは身体の向きを変えて朝に向かい合うと穏やかな口調で語り始めた。

 

「そうまで言うなら教えてやろう。お前の言い分も一理あるが、それでも、あの子をこの街の中で治療しなければならない理由があるんだ」

「なんだと? 理由ってなんだ?」

「難しい理由じゃない。治療代を払いきれないんだ」


 シェンの口から語られた理由、それは恐ろしくシンプルで当然の言葉だった。


「手術代はおろか入院費すら無理だろう。健康保険もないから全額負担だ。退院するまでどれだけかかるか検討もつかん。それに加えてこの子はこの国で有効な戸籍やパスポートの類を一切所有していない。無戸籍の混血孤児――ハイヘイズなんだよ。公的機関に顔を出せばイミグレーションが喜んで捕まえに来るだろう。あらゆる理由をつけて行ったこともない第三国に強制送還と言う形で追い出されるのは目に見えている。命をとりとめても生きていく場所を取り上げられたらこの子はどうやって生きていったらいい? それにこの国じゃなくても混血児なんてのは世界中で厄介者扱いだ。身寄りの無い混血児を快く引き受けてくれる国なんて世界中のどこにもありはしない! そんな物があるのなら難民問題なんて起きる事もないだろう。どこをどう考えたって、この子をこの街で守ってやるしか無いんだ。それがこの子をお前に引き渡せない理由だ。それでも納得出来ないと言うのなら好きにしろ。だが俺達もやりたいようにするがな」

 

 淡々と語られるシェンの言葉に朝は冷静に聞き入っていた。そして、苦虫を潰したかのような表情を浮かべると頭を軽くかきむしり、覚悟を決めたような険しい表情でシェンへとこう答えたのである。

 

「俺も立ち会わせろ」

「なに?」

「お前が行う手術に俺も立ち会わせろと言ったんだ」


 シェンはすぐには答えなかった。そしてそのままその言葉の先を待った。

 

「お前が手術をしている間、俺が立ち会う。もし手術に成功して一命を取り留めることができたら何も見なかったことにしてやる。しかしもし、お前が手術に失敗してこの子を死なせたらその場でお前を殺人罪で緊急逮捕する。それが俺がお前に対してできるギリギリの譲歩だ。それだって上の方にバレたら俺は間違いなく警察をクビだ。その上での譲歩だ。それでどうだ? まだ不服か?」


 朝の言葉にシェンはニヤリと笑った。

 

「面白い。俺に命を掛けろと言うのか。当然、俺が失敗したらお前も破滅と言うわけだ」

「まぁ、そう言う事になるな」


 朝はシェンの目をじっと見つめた。覚悟を決めた男の目線である。その目線を受けて深く頷いたのはシェンであった。

 

「いいだろう。お前の出す条件を飲もう。カチュアを助けられなかったら、監獄でも死刑台でもどこにでも行ってやるよ」

「絶対に成功させてくれるんだろうな?」

「無論だ。男に二言はない」


 シェンの言葉に朝も頷いていた。

 

「契約成立だな。それじゃ俺は彼らに同行して、その李さんと言う人の所に先に行ってる」

「分かった。俺は野暮用を済ませたらすぐに後を追う。おい!」


 シェンは朝に告げると、返す刀で助けに来ていた中華街の若者たちに声をかけた。

 

「そう言うわけだ。彼を一緒に連れて行ってやってくれ。彼の素性は内緒で頼む」

「はい。わかりました。じゃあシェンさんの知り合いと言うことで通しておきます」

「わかった。それで行こう。あとは頼んだぞ。それとオジー!」

「はい!」

「お前は残りの子どもたちのところへ戻れ。子どもたちは今どこにいる?」

「予備の避難シェルターに移動させました。戦闘の巻き添えになりかねないんで」

「正しい判断だ。そう長くはならんと思うが、俺が連絡するまで絶対動くなよ?」

「はい、もとよりそのつもりです」

「それではまたあとで落ち合おう」

「はい!」


 彼らと言葉を交わすとシェンは素早く歩き出した。その背後では若者たちが朝と言葉を交わしながら彼を連れて行くのが気配で感じられていた。オジーは他のハイヘイズの子らの所へと戻ったところだ。

 

「さて――、ひと仕事するか」

 

 それぞれがそれぞれに行動を開始したのを察知して、シェン・レイはそっとつぶやきながらその場を離れたのである。

 

 

 @     @     @

 


【 全自動装着プロセス作動完了       】

【 ⇒ 最終チェック開始          】

【  装着装備品、2次武装装甲構成要素   】

【  高速チェック完了:エラー確認無し   】

【                     】

【      ――状況終了――       】

【                     】

【 2次武装装甲オプショナルアーマーギア  】

【     全装着プロセス『完成』     】



 今、グラウザーの視界の中をライトグリーンのフォントでインフォメーションメッセージが流れて行く。


――状況終了――


 その言葉の意味が示すところは一つだ。 

 2次武装装甲、オプショナルアーマーギアの完成である。

 急速に意識はクリアになり、制限下にあった変性意識は準トランス状態から極めて高揚し、あらゆる負荷に対して高い抵抗力を持つ高次γ波状態へと移行することとなる。

 周囲状況を速やかに認識し行動を開始する。すなわち――

 

「ベルトコーネ!」


――グラウザーの視線はただ一つの排除対象だけを射抜くように睨みつけていた。

 己の中から湧いてくる〝確かな力〟

 いかなる困難も理不尽も跳ね返し、押し寄せてくる巨大な〝悪意〟をも叩き潰す意思。

 それが今のグラウザーがその身にまとった〝白銀の聖鎧〟の存在意義であった。

 

 白銀とブルーを基調とした鋭角的なシルエット――

 時に頑強で防御力に満ち溢れ、時にスピードを持ってしてあらゆる障害を踏破するだろう。

 両肩にそびえる大型のショルダープロテクター、そこに記された秘文はその聖鎧を建造した者たちによる銘を刻んだものである。

 

[     JAPAN POLICE     ]

[      DEPARTMENT      ]

[                     ]

[       ARMORED       ]

[  ANDOROID OFFICERS  ]

[    ――NUMBER #7――    ]

[     < GLOUSER >     ]

[                     ]

[   MANUFACTURED BY   ]

[    2nd SCIENTIFIC    ]

[ POLICE LABORATORIES ]

[                     ] 

[    The G-PROJECT    ]


 そして、そのアーマーの両肩には日本警察に所属する事を証明する金色の『桜型のエンブレム』が輝いていた。

 今こそ、そのアーマーは威容を持って悪意の権化に立ちはだかろうとしていた。

 両足を大地に突き立ててしっかりと立ち、両拳には精一杯の力が込められている。そして光り輝く2つの怒り目が尽きぬことの無い、清廉な怒りと闘志を現していた。

 犯罪者よ、今こそ識るがいい。

 その姿こそは法執行者による『正義』の象徴である。

 

 グラウザーはそのアーマーシステムのセンサーが提供する拡張された視界の中、冷静に冷徹に周囲状況を把握し行動対象を認識していた。そして無論、今なすべきことを忘れる事もない。グラウザーは今、己がなすべき行動を高らかに退廃の街の片隅の戦場にて宣言したのである。

 

「日本警視庁所属、特攻装警第7号機グラウザー、現時刻を持って2次武装装甲システムの装着に成功、同時刻より2次武装装甲の運用による戦闘行動を開始する」


 そして数歩ずつその全身の機能を確かめるように、グラウザーは歩きはじめる。それはこれからも続くであろう、長く果てしない戦いの日々の始まりでもあった。それを無意識の内に覚悟しつつグラウザー走り始めた。

 

「排除目標、マリオネット・ディンキー一味残党、個体名ベルトコーネ。その犯罪行為による被害者の拡大の阻止のため、今こそ破壊する!!」


 その宣言こそが、グラウザーの闘志のアクセルを全開にするキーであった。

 アーマーの全てにあまねく張り巡らされた力のネットワークが作動を開始する。ほとばしるほどのあふれるパワーは奔流となり稲妻となり、ハイテクメカニカルボディの隅々まで目覚めさせる。見るものを圧倒するほどの気迫と電磁ノイズを放ちながら、グラウザーは一気に走り始めたのである。

 一般捜査活動用の普段の姿のときとは全く異なる、鋭いまでの疾走は〝超人〟と形容するに相応しい速度を秘めていた。排除対象であるベルトコーネをその視界の中に捉えつつも、兄であるセンチュリーの元へと一気に駆け寄っていった。その目に留めた兄の姿は明らかに重篤な負傷をしている。そのシルエットに欠けているのは右腕の部位だった。

 

「センチュリー兄さん!」


 その声に気づいたのはセンチュリーだけではない、ベルトコーネも宿敵が見せた変容に僅かながらも戸惑いと驚きを、その表情の一端に垣間見せていた。センチュリーに対して振り上げようとしていた拳を止めると、闘争本能が発する警戒心からか、後ずさるようにその場から離れて、生まれ変わった姿のグラウザーと一定の距離を取る。その構えが微妙に変化し両の拳を持ち上げて、攻防どちらにも即座に移れるように身構えている。

 センチュリーもベルトコーネのその変化を視界に捉えつつ、背後から現れた生まれ変わった姿の弟分には驚きを隠せなかった。

 

「大丈夫ですか? 兄さん!」

「グラウザー?!」


 センチュリーの背後から現れると、負傷した兄を背中に庇うようにベルトコーネとの間に割り込み立ちはだかる。その頼もしくも変化した姿にセンチュリーは語りかけた。

 

「随分とかっこよくなったじゃねえか」

「はい、大久保さんたちが力を貸してくれました」

「あとで思いっきり感謝しておけよ」

「もちろんです。でも――」


 センチュリーはグラウザーがすべてを言い終える前に言葉を遮った。

 

「心配すんな。右腕一本くらい安いもんだ。これくらいケガの内に入んねえよ」


 軽々と飄々とした口調で言い切るセンチュリーにグラウザーもそれ以上は何も問い詰める事はできなかった。やせ我慢でしか無いのだが、それすらも今となっては頼もしく見えるのは豊かな経験に裏打ちされた確かな存在感に他ならなかった。


「それより――」


 センチュリーはグラウザーとベルトコーネを交互に眺めながら、よく通る低い声でグラウザーとベルトコーネの双方に語りかけた。

 

「腕一本、コイツにくれてやったかいがあったぜ」


 センチュリーの言葉にグラウザーが反応する。

 

「やっぱり兄さんも気づきましたか」

「あぁ、やっと確証が得られた」

「僕もです。ずっと引っかかっていた疑問が解けました」

 

 特徴的なニュアンスのその言葉にベルトコーネは怪訝そうにセンチュリーを睨みつけた。


「無意味な虚勢だ」

「虚勢じゃねえよウスラデカ! お前に右腕を粉砕されたことでお前がこれまで見せてきた馬鹿げたまで頑丈さや破壊力に仕掛けられた〝トリック〟が解ったんだよ!」


 そしてセンチュリーは会心の笑みで挑発していた。相手への心理的プレッシャーも計算しながらこの場のイニシアティブを掌握する。間髪置かずに一気にまくし立てる。

 

「おめえ手の内見せすぎなんだよ! あれだけ物理法則無視したパンチで何もかも壊しまくれば、お前のその拳のインパクトがあまりに不自然だってのは誰でも分かることだ。そもそもだ――、俺の腕にしこまれた倍力装置による最大インパクトは数十トンくらいは行く。この間の有明1000mビルの戦闘ではコナンの奴とやり合ったが、俺の右腕の打撃で粉砕されたアイツの惨状から俺の拳打の威力はお前にも解っていたはずだ。

 しかしだ――

 今日の俺はタイミングを焦って半分以下のインパクトしか出せてねえ。良いとこ10トンちょっとくらいだろう。だがお前は有明での威力を想定して攻撃してきたはずだ。数十トンと10トン、どっちが重いか、考えなくても一目瞭然だ。圧倒的な質量差に俺の右腕は〝押し潰された〟んだ! 本当なら同程度の質量で弾き飛ばすくらいがおめえとしちゃ理想だったんだろうが予想外の事態で手の内が露見することになっちまった。つまりだ。お前は『質量を自在にコントロール』できるんだよ!!」

 

 大声で喝破するセンチュリーの声に続いて、グラウザーも語り始めた。

 

「しかもお前は、拳だけでなく全身各部で自由自在に仮想質量を発生させられるのみならず、自らの内部で生じさせた質量を任意のベクトルで慣性移動させることも可能なんだ」


 アーマーギアの頭部メットの電子アイ越しにベルトコーネを注視して言葉を続ける。


「例えば、敵から加えられた物理攻撃に対して、それと同等の仮想質量で、敵の攻撃と打ち消し合うようなベクトルの慣性制御を生じさせて、敵の攻撃を無効化することも可能だ。打撃・衝撃・斬撃、あらゆる物理的攻撃に対する鉄壁の防御にもなりうる! 今までお前がどんな攻撃を食らっても致命的な損傷を受けることがなかったのは、質量相殺を駆使することができたからだ! つまりお前は『質量制御能力』が凄いのであって、お前本来のハードウェアボディは一般的なアンドロイドと比べて多少強いと言うだけにすぎない。だからお前は打撃以外の攻撃に対して遅れを取るんだ! お前の焼けただれたその姿が何よりの証拠だ!」


 グラウザーの指摘に続けてセンチュリーがさらに叫んだ。

 

「しかもだ――

 お前は敵の攻撃を防御する際には、敵から加えられるであろう攻撃をある程度認識している必要があるんだ。どんな攻撃が来るか分かっていなければ同等の質量制御で打ち消すことは不可能だからな。しかしそれが故に〝認識できていない予想外の攻撃〟については、打ち消すためのプロセスを行うことが間に合わない! そのためキサマは不意打ちや偶発的に行われた攻撃には徹底的に脆い弱点があるんだ。その脇腹に開いているぶっとい刺し傷のあともそれを証明している!」

 

 センチュリーが鋭い口調を浴びせかければ、グラウザーも負けては居ない。

 

「それに加えてお前は、慣性質量制御のカウンターで打ち消すことのできない火炎瓶攻撃の様な絡めての攻撃には防御する術を持たない!  ガチで真っ向から向かい合わずに、お前の慣性質量制御能力の隙をつけば、お前を攻略することは十分可能だ! 今なら! いや、今こそ! 僕の力がお前という災厄を完膚なきまでに破壊する!!」

 

 2次武装体のグラウザーと、右腕を失ったセンチュリー、二人は並び立ちながら次の攻撃の手段を準備しつつベルトコーネへと少しづつ歩み寄っていく。

 グラウザーは両の拳をしっかりと固めていた。しかも単に拳を固めるのみならず、腕部全体に仕込まれている電磁波発振素子を励起状態にする。

 

【 左右両腕部全域             】

【     マルチパーパスレーダーブロック 】

【 電磁波励起発信開始           】

【 ・両肩外側部プロテクターシールド部   】

【 ・両腕部外側面部            】

【 ・両拳部ナックルプレート部       】

【 出力レベル:              】

【 アイドリングモードから         】

【     メインドライブモードへ出力上昇 】

【 さらに攻性兵器モード稼働開始      】

【       セイフティーリミッター解除 】

【 >電磁波斥力による防御動作開始     】

【 >ナックルプレート部打撃攻撃準備OK  】


――ブゥゥゥン――


 鈍く響くようなかすかな音が響き渡る。グラウザーの両腕を攻撃兵器と化する電磁波が満ち満ちている事の証だ。更にそれに加えて、あのアトラスから受け継いだ聖剣がグラウザーの右腕には備わっているのだ。

 

【 アーマーギア内蔵装備起動        】

【 装備名:パルサーブレード        】

【                     】

【 >コイル状金属系高分子⇒通電開始    】

【 >膨張率3200%           】

【      収納チャンバー内にて急速膨張 】

【 >刀剣構造形成完了           】

【  刀長:80センチ 刀幅10センチ   】

【 >コイル状金属系高分子         】

【         ⇒ 高周波振動スタート 】


 グラウザーの右手拳、その甲の部分の先端が開いて内部から白銀に光る両刃のブレードソードが突出する。それは常に高周波振動を伴い、触れるもの全てを安々と切り裂く。特攻装警第1号機のアトラスがその両手に宿していた物と同一のものである。

 パルサーブレードを作動させ、その切っ先をベルトコーネへと向ける。その傍らでセンチュリーが左手でデルタエリートの銃口をベルトコーネに突きつけていた。その2つの武器が表している〝意思〟は、この狂える拳魔を絶対に止めるという固い決意であった。

 センチュリーが銃の照準を合わせながら告げる。

 

「観念しろ、ネタの割れた手品なんか見せられても詰まんねぇんだよ!」


 グラウザーも告げる。夜空に飛び交う僅かな光を受けながら彼が構える剣先はベルトコーネへと向いていた。

 

「能力の正体が判れば、攻め様はいくらでもある。お前だけの優位はもうここまでだ!」

「そう言う事だ、おとなしく諦めてスクラップになってもらおうか!」


 それは挑発だった。あえて敵の怒りの感情を誘い出し激高させるために仕掛けた〝罠〟である。心理的な揺さぶりをかけて正常な判断を失わせる。そして、闘争本能と敵意の感情が暴走する様に仕向ける。

 そのための引き金となる〝あの人物〟の名をセンチュリーは口にしたのである。

 

「しかしなんだな――」


 ベルトコーネの目をじっと見つめつつにやりと笑う。

 

「ディンキーのジジィの作る物って、もっとマシだと思ってたが、恐ろしくスカスカなんだな」


 そしてグラウザーもあざ笑うように言葉を返した。

 

「しかたありませんよ、所詮は〝テロリスト〟――社会の害悪ですよ!」


 それはベルトコーネの認識の中では最大級の侮辱だった。『社会の害悪』――ディンキーが志したはずの理想を根底から否定して踏みにじる冒涜であった。それは怒りを呼び、憤怒を引き起こし、ベルトコーネを〝キレ〟させるには必要十分なものであった。

 

「ぐうゥゥ!」


 唸るような叫び――、その後に聞こえてくるのは金属が圧力できしむような不気味な音。

 

――ミシリ――


 それはベルトコーネが自らの拳を強く強く握りしめたために起きた軋み音だ。その握りしめた。右の拳を振り上げるとその場の足元の地面へと強く叩きつける。

 

――ズドォオン!――


 巨大な鋼鉄のハンマーで打ち据えたかのようなクレーター状の凹みが地面に浮かんでいる。ベルトコーネはキレた状態のそのままで、つんざき叫んで怒りを露わにしていた。もはや一切の手加減も慈悲もなく、怒れるままに、触れるもの全てを叩き潰さねば収まらないだろう。しかもそれを彼自身が認識できているだけにことさら悪質であった。

 

「イイだろウ! 掛け値ナシ最大級の『力』デ、お前らを纏メテ鏖殺シテクレる!」


 ベルトコーネが発する言葉がブレている。怒りのあまりに音声制御がままならず、古臭い電子ロボットのような合成音声が入り混じっているかのようだ。

 そして、ベルトコーネは右腕を振りかぶると、グラウザーたちに喝破されたシステムのそのままにその右の拳へと、あらん限りの質量制御を開始する。最後通告として怒りの感情そのままにベルトコーネは言葉を解き放った。

 

「我ガ能力の正体と原理が分カッたとしテモ、防ぎきれなけレバ何の意味もない! 二人まとめて圧殺シテクれる!!」


 そのモーションは右拳を斜め後ろ上方へと引き絞り、大口径砲の砲口の如くに拳打を解き放つための物だ。ベルトコーネの目が激怒の憤怒に光りを帯びている。その怒りを炸裂するかのごとくに最大質量を込めた拳を解き放つ――、

 

 その時である。

 

――ミシィッ!――


 訪れたのは不気味な圧壊音であった。

 異音はベルトコーネの右拳から発せられていた。その音に気づいて驚きの表情でベルトコーネは自らの右拳に視線を向けた。そこに見えてきたのは、拳の内側に宿した膨大な質量に耐えきれずに【自己圧壊】をして亀裂を生じてしまった、彼自身の右手であった。

 亀裂は幾重にも無数に走っており、小指に至っては明らかにありえない方向に向けて。ネジ曲がってしまっているのだ。もはやその拳を攻撃兵器として解き放つことは不可能であろう。

 ベルトコーネが後ずさった、怯えと驚きの表情をしたままで、ただ身構えるばかりだ。狼狽えるそのままに彼は思わず言葉を漏らしていた。

 

「なっ、なにが――、何が起きた? 俺の、俺の拳! 俺の腕に何が起きた?」


 理解不能、判断不能、認識不能、受容不能、解決不能――、もはやベルトコーネは己が何をなせばいいのか、判断することすら出来なくなっていた。彼はまさに混乱の極みにあったのである。

 そして、散々に世界中を暴れまわり数多の犠牲者を生み出し続けてきた、史上最悪の狂える拳魔の無様な姿を、グラウザーもセンチュリーもしっかりと見届けていた。

 センチュリーの顔に不敵な笑みが浮かぶ。グラウザーは警戒を解くこと無く、認識の片隅で次の攻撃手段を思索していた。

 

「〝賭け〟が当たりましたね。兄さん」

「あぁ、ビンゴだぜ。狙ったとおりだ。やっこさん有明以降マトモなメンテは受けてねえ。逃亡のために海の塩っけにもどっぷり浸かってるはずだ。それに誰がやったのかしらねえが、この辺りに残ってる嫌な匂い、テルミットやら酸素反応剤やら、ケロシンやらの匂いだ。ヤツを相当な高温で誰かが焼いてるんだ。そのせいでご自慢の頑強ボディも相当脆くなってるはずだ。 特に末端部分はガタガタのはずだ」


 センチュリーは周囲に残された残臭や残骸物から、あのアラブ系の男たちが行った決死の抵抗の痕跡を感じ取っていた。彼らの闘いは、聖戦は、無駄では無かったのである。これをアッラーのお慈悲と言うにはうがち過ぎだろうか? そして、それを感じ取ったセンチュリーのセンスと勘は確かな経験に裏打ちされたものであった。

 その言葉にグラウザーが告げる。


「所詮は犯罪者が闇社会で入手した闇アンドロイド――作りも素材もクオリティも、僕達のような最高レベルのエンジニアによる正規の高等アンドロイドとは全く異なる。強度、耐久性、工作精度――、ディンキー自身が気づいていたかはわかりませんが、アイツに与えられた慣性質量制御能力に、奴のアンドロイドボディが耐えきれる物では無かったということです」

「当然だ。開発当初は俺たち以上の頑丈さ強靭さを発揮できたとしても、メンテナンスも定期的に受けられず、素材のクオリティも根本から異なる。ある程度の年月がすぎれば、痛みもすりゃ劣化もする。そんな状態でフルパワー出せば、与えられた能力に、もともとの構造が耐えきれるはずがねえ。当然――」


 そしてセンチュリーとグラウザーはベルトコーネを追うように数歩進み出たのだ。

 

「――こういう結果になるってこった! もうその右の拳は使えねえぞ! ウスラデカ!  なんなら残りの左もやってみるか?!」

「圧壊させずに使用できる自信があるのならばな!」


 今、ベルトコーネに向けられているのはセンチュリーが握る拳銃・デルタエリートの銃口と、グラウザーがその右腕に備えた刀剣・パルサーブレードの切っ先であった。そして今こそ凶悪なるテロリスト・アンドロイドに対して断罪は行われるのだ。

 それらの言葉に対してベルトコーネが歯噛みしている。当然にこの程度のことで退くようにはベルトコーネの認識と人格は作られてはいなかった。消えかけた憤怒を再び燃やすと、グラウザーたちに向けてベルトコーネは言い放ったのである。

 

「構わん! この身がどうなろうと今は亡き我が主人の遺志を完遂するのみ! 止められるものなら止めてみせろ! 特攻装警!!」


 怒りと苛立ちと悔しさとが入り交じった叫びが残響を残して木霊していた。そしてついに戦いは次なる段階へと進み始めたのだ。

 センチュリーがグラウザーに囁く

 

「徹底的にやってやれ、俺がそばでバックアップしてやる! 第2科警研の皆の思いが詰まったそのアーマーの真価を、あの馬鹿野郎に思い知らせてやれ!」


 センチュリーのその言葉に、グラウザーははっきりと頷いていた。そして戦いの先鞭を着るかのようにグラウザーは駆け出したのだ。

 

「行くぞ! ベルトコーネ!」


 そのアーマーのフェイス部に浮かぶ2つの光る怒り目には、汲めど尽きぬ正義の闘志がありありと浮かんでいたのである。


次回、第2章サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』パート13


『神の雷』


挿絵(By みてみん)

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